中国大陸からの大気によって光化学オキシダントの濃度が上昇する「越境汚染」問題で、日本海沿岸部のある地点のコメの収量を調べたところ、内陸部との比較で約1割少なくなっているとする研究結果を、農業環境技術研究所(茨城県つくば市)が20日、山口県で開かれた日本農業気象学会で発表した。
光化学オキシダントは近年、日本海の離島などで高濃度で観測され、昨年は新潟、大分県で注意報が発令された。農作物の収量減少は実験から推測されてはいたが、部分的とはいえ、実際に濃度と収量の関連が裏付けられたのは初めて。
研究は、長谷川利拡主任研究員によるもの。品種と肥料水準は同一の日本海沿岸部の1地点と約30キロ内陸に入った1地点を選び、1980年からの収量データを比較した。両地点の近くで測定された光化学オキシダントの5〜9月の平均濃度は、2001〜05年の平均では沿岸地点が0・045ppmで、内陸地点の0・031ppmより高かった。
濃度は沿岸、内陸ともに上昇していたが、沿岸では96〜05年にかけて毎年、内陸部の2倍にあたる0・001ppm高くなっていた。
両地点の玄米の1平方メートル当たりの収量は、沿岸は80〜96年は平均588グラムだったのが、97〜05年は560グラムに減った。逆に内陸では、577グラムから609グラムに増えた。80年代は沿岸の方が内陸よりも多かった収量が、90年代半ばから逆転し始め、2000年以降は内陸が沿岸を常に上回った。
沿岸では、内陸と異なり、夜になっても光化学オキシダント濃度が下がらなかった。夜間に海からオゾンが流れ込み、昼間の高濃度を保ったとみられる。
小林和彦東大教授(農学)によると、収量が減るのは、光化学オキシダントの主成分であるオゾンが植物の葉の中に入り、光合成作用を妨げるため。農作物への影響について、中国では研究者らが「2020年には濃度が0・055ppmを超え、大豆、トウモロコシ、小麦の収量が40〜60%減少する」と推定している。
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