医療事故などで医療者と患者の間にトラブルが起こった場合、話し合いで解決できるよう仲介する「医療メディエーター」について、養成プログラムの認証や受講者に資格を認定する「日本医療メディエーター協会」が3月7日に発足、20日に都内で設立記念シンポジウムを開いた。設立に携わった和田仁孝早稲田大学大学院教授は、養成プログラムの開催頻度が年々高くなり受講者も増えるなど、医療メディエーターのニーズが高まっていることを示した上で、「中立性や独立性など医療メディエーターの質を担保し、メディエーター自身の専門技法を向上していく必要がある」と、バックアップのための第三者機関として協会を設立したと述べた。
医療メディエーターは、医療事故や患者と医療者間での意見の食い違いなどが起こった場合、双方の意見を聞いて話し合いの場を設定するなどして問題解決に導く仲介(メディエーション)役だ。和田教授によると、現在は約800人の医療メディエーターが院内で働いており、医療安全管理者が担うことが多い。医療メディエーターの養成は2005年に日本医療機能評価機構と和田教授の協力で第1回が開催された。同機構のプログラムにはこれまでに1,138人が参加、08年度には450人の参加を見込んでいる。
■認定資格は3種類
日本医療メディエーター協会は、医療メディエーター教育の質を担保するため、養成プログラムを認証し、プログラムを受けた受講者に医療メディエーターの資格を認定する。日本医療機能評価機構のプログラムは基礎編や応用編、トレーナー養成プログラムなど個人のレベルに応じて3段階あり、修了者は協会に入会することで各段階の認定を受けることができる。ほかには、医療メディエーターの研修や研究活動、一般市民や患者への普及活動などを担う。和田教授は「医療メディエーターはターミナルケアやインフォームドコンセント、医療スタッフ同士のトラブル解決の場面などへもかかわれる」と、今後医療メディエーターの業務範囲は拡大するとの見通しを示した。さらに、ADR(裁判外紛争処理)を担う機関などとの連携も考えられるとした。
和田教授はCBニュースに対し、「大規模病院では専従のメディエーターを置けるが、中小規模の病院では余裕がないので難しい。診療報酬で医療安全対策加算だけでなく、メディエーターの配置を評価するなどの財政的支援をしてほしい」と話した。「医療メディエーターについては舛添要一厚生労働大臣も協力的に見てくれている」と、今後は国の支援を求めていきたいとした。
■医療者と患者間の認識の違いに理解を
同日のシンポジウムで、自治医科大学の長谷川剛教授は、患者側と医療者側で事実に対する認識が違うため、仲介する医療メディエーターが必要であると説明した。「医療事故があった場合、医療者側は患者に対して医学的事実のみを説明するが、患者は今まで生きてきた人生や経験など、激烈な感情の軋轢(あつれき)を持って立ち上がってくる」と、認識の違いを理解しておく必要性を強調した。
また、医療事故を扱う裁判の限界にも言及。裁判官と弁護士が争点を決めてしまうため、患者や家族が求める議論にならないことがあるとした。ミスを起こした医師や看護師など、末端の当事者だけが訴えられて、院内全体のシステム改善につながらないことや、最終的に損害賠償の話のみになってしまうことも指摘。裁判を警戒して医療事故を避けようとするために、委縮医療や勤務医不足につながる懸念も示した。
大阪警察病院の小牟田清副院長は、院内で患者に禁忌薬剤を投与してトラブルとなったが、医療メディエーターがかかわることで、双方が納得して解決につながった事例を報告した。院内で医療メディエーターの研修をしたことで、医療者が患者の声を落ち着いて聞けるようになったことや、トラブルが発生しそうになった時にも患者の理解と納得を得られたという報告が上がってくるようになったと説明した。
■医療訴訟件数増加からADRに期待高まる
医療関連訴訟の件数は、1996年は575件だったが、2004年には1,110件と、約10年間で2倍に増加している(最高裁調べ)。こうした状況から、裁判以外の方法で医療事故の被害者を救済し、再発防止を図る「医療ADR(Alternative Dispute Resolution:裁判外紛争処理)」に注目が集まっている。民間の仲裁センターなどが入り、調停やあっせんの方法で解決に導く。裁判に比べて短期間で、費用も抑えられる。国内では06年に茨城県医師会が中心となって医療版ADR「医療問題中立処理委員会」を立ち上げたのを先駆けに、東京の三弁護士会も昨年9月に医療版ADR機関をそれぞれ創設している。
更新:2008/03/21 08:57 キャリアブレイン
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