夜の通勤電車で、隣に座った若い男性が「食べさせていただきます」と言って駅弁を開いた。「どうぞ」と返事をしたが、初めての経験だった。
春の行楽期に入り、通勤電車にも旅行客が目立つ。グループでおしゃべりをしたり、飲んだり食べたりも多い。楽しそうな様子は車内を明るくするが、疲れて空腹の帰宅時は、無遠慮な振る舞いに少々いらだつこともある。
隣席の男性は一人旅の様子だったが、駅弁をさもおいしそうに食べていた。ほほえましかった。「食べさせていただきます」のたった一言がこちらの気持ちをなごませ、好印象として残った。心配りの大切さを旅人から教わった。
本紙くらし面連載企画「ひとり」が、十九日付で電車内メークを取り上げていた。「バッグをひざに乗せ、ポーチを取り出す。左手に鏡、右手に道具を持つ。アイラインが乾く間にチークをひとはけし…。無駄のない動きは、揺れにもくるわない」とある。
実際、車内で人目をはばからず化粧する女性をよく見掛ける。「化粧だけに限らず、以前は世間の目というものがあったが、今の人間関係は、仲間か他人かのどちらかになってしまった」という大阪樟蔭女子大の村沢博人教授の指摘も紹介されていた。
周りへの気遣いは大切だ。袖振り合うも多生の縁なのだから。