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2008年3月21日

◎景観計画の策定 罰則の理解得る努力が必要

 石川県や金沢、七尾市が策定をめざす景観計画と新条例に罰則規定が設けられる方向で ある。罰則による強制的な規制は財産権や私権、自由な経済活動を縛ることになり異論も聞かれるが、良好な景観形成を図る上でやむを得ない措置と理解したい。罰則を伴う景観計画と条例の施行に際しては、住民の間に「景観は地域の共有財産」という認識を広げることが大事であり、そのための努力を行政に求めたい。

 自治体が条例で規制違反に対して罰則を科したり、変更命令を出すことは二〇〇四年制 定の景観法で法律上の根拠が与えられ、規制の実効性が高まった。景観法でさらに重要なことは、良好な景観を「国民共通の資産」と明確に位置づけ、美しい景観形成に努め、行政の施策に協力することを事業者、住民の「責務」と明記した点である。景観というものに対する認識や価値観の転換を図る画期的な法律であるが、その理念はまだ国民に浸透していない。

 京都市が眺望景観を保護するため、建物の高さ制限や屋外広告物規制を強化する新景観 条例を施行するまでには、規制強化で不動産の価値が下がると反対する人も少なくなかった。そうした不満は根強いが、景観の価値が重視される時代にあっては、規制を強めて景観を向上させることで地域、都市の評価が高まり、住民それぞれの資産価値も高まると考えたい。

 県は従来の景観条例と屋外広告物条例を一本化した景観総合条例と、県全域の景観形成 の指針となる景観総合計画の策定作業を進めている。この中で、白山などの眺望景観を保全するため、景観法の規定を超えて県独自に建築物や屋外広告物の高さも規制し、変更命令や罰則を可能にすることにしている。

 景観法に基づく景観行政団体として独自に景観計画と条例を制定できる金沢市は、新年 度に策定する計画で、市内のビルや住宅の色彩、デザインの規制強化を図り、建物の色合いや明るさなどについては数値基準を設ける予定という。こうした新しい手法も導入して行う規制強化には、なお一層丁寧な説明が必要である。住民や事業者との対話の場を設けたり、広報活動を活発にしてその理解を深めてもらいたい。

◎暫定税率期限切れ 大胆な妥協で危機回避を

 日銀総裁が空席になる前代未聞の事態に続いて、揮発油(ガソリン)税の暫定税率延長 などを盛り込んだ租税特別措置法改正案の期限切れによる「四月危機」が現実味を帯びてきた。与党は正式に修正協議を民主党に申し入れる予定だが、暫定税率撤廃を求める民主党の主張とは大きな隔たりがある。日銀総裁人事での福田康夫首相の無策と民主党の無責任さ、与野党間の対話不足を思うと、今回も歩み寄りの努力を欠いた状態で時間切れになってしまうのではないか、という懸念が消えない。与党、民主党とも、双方の案を足して二で割るぐらいの大胆さで妥協点を見いだし、国民生活を大混乱に陥れぬようにしてほしい。

 特に福田首相の責任は重大である。微修正程度で民主党が応じるはずはなく、あくまで 暫定税率の維持を目指すつもりなら、道路整備中期計画を大幅に見直して投資額五十九兆円を大胆にカットし、一般財源化する案を示さないと、話し合いの糸口すらつかめまい。道路特定財源から野球のグラブやマッサージチェア、道路建設促進のミュージカルなど、不適切な支出が次々に明らかになり、国民は政府・与党に厳しい目を向けている。福田首相は、「全額一般財源化も視野に入れて検討する」と述べたが、清水の舞台から飛び降りるぐらいの覚悟を決めないと、修正案はまとまらない。

 民主党は、小沢代表が「暫定税率廃止なら賛成する」として、一歩も引かぬ構えである 。掛け声は勇ましいが、廃止の場合、国と地方合わせて二兆六千億円の税収が不足する事態にどう対処するのか、明確な答えがない。ガソリン価格が下がるメリットだけを強調し、問題点には知らぬ顔では、国民の支持は得られない。政権担当能力に疑問符が付く結果に終わるだろう。

 租税特別措置法改正案の期限切れで影響が出るのは、ガソリン価格だけではない。国際 金融(オフショア)市場取引の非課税措置が無くなれば、市場規模五十兆円といわれる資金の多くが国内から逃げ出すと見られる。そんな事態になれば、国際的な信用は地に落ち、「日本売り」が加速する。政治が不況を加速させる事態はもう願い下げである。


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