落雷で壊れた白山頂上の方位盤が修復され、夏山開き前にヘリコプターで運ばれるとの話題を受けて、投書欄では人力運搬に挑戦すればとの意見もあった 重さ七十五キロの方位盤を担ぎあげた登山家がいたことが提案の前提になっている。重荷を運ぶ話では新田次郎の「強力(ごうりき)伝」が有名だ。五十貫(約百八十七キロ)の巨石運搬に挑んだ男がモデルの小説である。そこから言えば七十五キロの担ぎ揚げは不可能ではない 二十五年ほど前、白山ろくの勝山側で、若いころ歩荷(ぼっか)(荷担ぎ)だった老人に話を聞いたことがある。昭和初期まで白峰への主要道は福井県側にあり、毎日のように六十キロ以上の荷を担いで谷峠を越えた昔話をしてくれたのだった 小説も体験談も、ヘリによる運搬など思いもよらなかった時代の話だ。体力の限界を超える重荷を背にして山頂へ向かうのはプロとしての山男の意地以外何ものでもないという。現代の登山愛好者にそれを求めるのは困難かもしれない が、かつての歩荷や強力の勇姿を少しでもいい、見てみたい気はする。「重荷」を背負って人生の坂道を登り続ける人々を元気づけると思うが、どうだろう。
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