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似ているようで大きく異なる2つの世界--モバイルサイトとPCサイトの違いを知る

PCサイトでできることも、モバイルサイトではできない場合がある。また、その使われ方も大きく異なる。モバイルサイトならではの特徴を、技術面、利用面から押さえておこう。

筆者など : 村上勇一郎(ドコモ・ドットコム)

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URL : http://japan.cnet.com

 ウェブサイトの構築というと、一般的にはPCサイト構築を目的として書かれたものが多いが、モバイルサイトを構築する際には、PCサイトでできることが全てできる訳ではないので注意が必要である。

 近年携帯電話の高機能化、高速化により、携帯電話の性能がPCの性能に近づいてきた。しかし、両者の間では、まだまだ解消しなければならない違いが数多く存在する。一口にウェブサイトと言っても、モバイルサイトとPCサイトでは、全く別ものとして考えたほうが現実に即していると言える。そこで今回は、PCサイトと違うモバイルサイトならではの特徴を機能面や利用面から紹介する。

キャリア、メーカーによって異なる世界

 モバイルサイトを構築する上でまず頭に入れておかなければならいのは、PCインターネットと違い、モバイルインターネットでは携帯電話会社(キャリア)によって、その世界が違うということである。ではその携帯電話会社による違いとは何か。PCの場合はOSやブラウザの種類が限定的であるが、携帯電話の場合はキャリア、メーカーがそれぞれ多岐にわたるので、非常に手間がかかるということである。

 例を挙げると、待受画像を配信するサイト(待受サイト)を運営する場合、携帯電話会社ごと、メーカーごとに画面サイズが違い、表示方法も違うため、全ての携帯電話会社の全てのメーカーにコンテンツを提供しようとすると、約400種類程度のデータを用意しなければならない。さらに技術的に高度なアプリケーション(JavaやFlash等を使ったサイト)においては、その微細な差分が致命的な欠陥を及ぼしてしまう。特にゲーム等のタイミングコントロールを施さなければならないものになると、携帯電話会社やメーカー固有の性能に合わせた形で提供しないとうまく動かない場合がある。

 また、(最近では統一化の動きはあるものの)着メロ等の場合も携帯電話会社ごと、メーカーごとに音源チップが違うので、それぞれに合わせてチューニングを施さなければならず、1つの着メロファイルで何種類もバリエーションを用意しないといけない。そこが、モバイルサイトがPCサイトに比べて構築に手間が掛かってしまう点である。コンテンツプロバイダーにヒアリングすると、実にサイト構築の大半の手間を携帯電話会社やメーカーごとのチューニングに費やしているという。

「公式サイト」「一般サイト」とは?

 PCサイトとモバイルサイトとの大きな違いとして、上記の携帯電話会社、メーカーごとの違いの他に、いわゆる携帯電話会社がおすすめする「公式サイト」と、それ以外の「一般サイト」という2種類の概念が存在することが挙げられる。

 NTTドコモが「iモード」、auが「EZweb」、ソフトバンクが「Yahoo!ケータイ」という名称で、インターネットアクセスのサービスを提供しており、各社の対応端末には、それぞれのサービスをワンボタンで呼び出せるように、専用のボタン([iモード]ボタンや[EZweb]ボタン、[Y!]ボタン)が装備されている。また、メニュー画面を呼び出すと、「公式メニュー」に接続するための項目があらかじめ用意されていて、比較的容易に公式コンテンツにアクセスができる。

 各社のインターネットアクセスサービスのメニューには、ニュースや天気予報、乗換案内、着信メロディ、着うた、モバイルバンキング、株価情報、グルメ、ゲームなど、さまざまな内容のコンテンツが掲載されており、こうしたサービスメニューに掲載されているコンテンツは、いずれもコンテンツプロバイダーが制作し、携帯電話会社独自のチェックを受けた後にメニュー上に掲載されている。言わば、携帯電話会社のお墨付きのおすすめのリンク集である。

 また、有料コンテンツの場合は、コンテンツ利用料を携帯電話会社が代行して、携帯電話の月々の通話料金といっしょに徴収できるしくみになっている。こうした携帯電話会社のメニューにあるコンテンツは、一般的に「公式メニュー」や「公式サイト」と呼ばれている。

アクセス方法に工夫を凝らす一般サイト

 一方、モバイルインターネット上には、公式メニューに掲載されていないホームページが数多く存在する。その数は数十万と言われているが、これらのホームページやサイトは携帯電話会社とコンテンツ配信契約を交わしているわけではないので、端末からワンボタンで接続できる公式サイトとは違い、携帯電話に標準装備されているインターネット接続機能を使って閲覧するようになる。 こうしたインターネット上で自由に公開されているホームページは前述の公式メニューや公式サイトに対し、「一般サイト」や「勝手サイト」と呼ばれている。

 一般サイトは企業や個人などが携帯電話向けに自由に公開しているサイトで、その内容はさまざまである。PCインターネット同様、ユーザー自身がその信頼性を判断したうえで利用する必要があり、役立つサイトも沢山あるが、なかには、出会い系や悪徳商法のような好ましくないサイトも多数存在する。

 また、携帯電話会社が提供する公式メニューには登録されないため、アクセスを行いやすくするために、特定のアドレスに対して空の電子メールを送らせて、URLを携帯電話メールに返信する方式や、URLを変換したQRコードを携帯電話端末で読み取らせる方式が多く行われている。また、2006年から公式メニューへ検索エンジンが導入されたことに伴い、キーワードを入力して検索すれば、今までは存在を知られていなかったサイトにも比較的容易にアクセスすることが可能となった。

 以下に「一般サイト」へのアクセス方法を列記する。

 一般サイトの利用については、自己責任で判断することになるが、携帯電話は子どもや中高生も利用しているため、好ましくないサイトに接続してしまうリスクがある。そこで、子どもたちが好ましくないサイトを利用しないように、サイト接続を制限するための「フィルタリングサービス」を各社とも提供している。NTTドコモは「キッズiモードフィルタ」「iモードフィルタ」、auが「EZ安心アクセスサービス」、ソフトバンクモバイルが「ウェブ利用制限」「Yahoo!きっず」という名称だ。アクセスを制限する基準やサービス内容は携帯電話会社によって少しずつ異なるが、一般サイトの閲覧をすべて制限し、各社の公式メニューの一部のみを利用できるようにするといった設定も可能である。

 このほか、携帯電話の機能では、PCインターネットでは一般的なCookieや、端末およびネットワーク容量の関係からJavaScript、Flash、PDFなどは機能を限定している。 また、逆に携帯電話でないとできない機能があることにも注意が必要である。「契約者個人を特定するユーザーIDや端末ID」、「位置情報を取得するGPS」、「写真を撮影したり、メールに添付することが可能なカメラ」、「タッチ&ゴーのソリューションや、各種電子決済可能を実現するFeliCaチップ」の搭載などがそれにあたる。

PCインターネットと違うユーザー、利用時間、利用方法

 携帯電話の場合、特有の使われ方(時間帯や利用方法)、キャリアごとの独自のルール(掲載基準)があるので、そこを理解してからサイトを設計しなければ、せっかくの構想も無意味になってしまう可能性がある。ここに注意が必要である。 そこで、ユーザーの年齢層と利用シーンについて述べたい。ビデオリサーチインタラクティブ調べによる「ケータイ2008 edition」において訪問留置き調査を実施した結果が以下である。

080318_docomo_total.gif 携帯電話、PHS所有者全体における、携帯電話、PHSの毎60分利用率(週平均)(出典:ビデオリサーチインタラクティブのデータを元に作成)

 上記は全体の1時間ごとの利用状況を示したものである。次に男、女総合のそれぞれの利用状況である。上が男性、下が女性となる。

080318_docomo_men.gif 携帯電話、PHS所有者のうち、男性の携帯電話、PHSの毎60分利用率(週平均)(出典:ビデオリサーチインタラクティブのデータを元に作成)
080318_docomo_women.gif 携帯電話、PHS所有者全体のうち、女性の携帯電話、PHSの毎60分利用率(週平均)(出典:ビデオリサーチインタラクティブのデータを元に作成)

 これを見ると、全体と男・女の波形の差分はあまり特筆するほどではないが、男性の方が通話が多く、女性の方がメールが多いことが読み取れる。これは日中のビジネスユースを考えた場合、どうしても男性の方に通話が多くなってしまうからではないか、と考えられる。

 携帯電話の利用においては、年代ごとの差異の方が大きいので以下にその比較グラフを掲載する。上が男性、下が女性となる。

080318_docomo_men_teen.gif 携帯電話、PHS所有者全体のうち、12〜19歳男性の携帯電話、PHSの毎60分利用率(週平均)(出典:ビデオリサーチインタラクティブのデータを元に作成)
080318_docomo_women_teen.gif 携帯電話、PHS所有者全体のうち、12〜19歳女性の携帯電話、PHSの毎60分利用率(週平均)(出典:ビデオリサーチインタラクティブのデータを元に作成)

 これを見ると全体とは違い、10代では男女の差分はなく、全体に比べて縦軸のスケールも50%と多いことから、四六時中携帯電話をいじっており、通話よりもメールやサイトアクセスが多いことが読み取れる。

成功するサイトの秘訣

  かねてより、折に触れて書籍やセミナー等で申し上げていることなのだが、数千を越えるサイトの開設に関わってきた経験から、成功するサイトには共通して言えることがある。それは、「ユーザーの利用シーンをスムーズにイメージできるサイトは成功する」ということである。もう少し具体的に言うと、サイトの5W2H(誰が?いつ?どこで?何を?何の目的で?どうやって?いくらで?)がはっきりとしているサイトでないと成功しないということだ。

 携帯電話の契約者数だけをとらえて、「仮に月額利用料金が100円で、全契約者数の0.01%取れたとして・・・」などと仮説を立ててくる人がいるが、そんなサイトは成功しないと断言できる。「10代の男・女に、家でのリラックスタイム(プラスアルファで外出時の空いた時間に)、暇つぶしのためミニゲームを、無料で提供し、広告モデルで収益を上げる」というところまでストーリーがあるサイトが成功するサイトの秘訣といえる。

 今後モバイルサイトの構築をお考えの方はぜひともあたまの片隅にでも置いておいていただけると幸いである。

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