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日本経済への過度な悲観論

2008年03月20日

 誰が言い出したのか、「日本パッシング」をまさに通り越して「日本ナッシング」という言葉がある。かつて突出した競争力を誇った日本に対して「日本バッシング」がその前提にあることなど忘れられそうな勢いである。日本企業はかつての輝きはなく、アメリカ経済が傾き、また円高が進めば、日本製造業に将来がないかのようなムードが支配し、株式市場でも日本売りが進む。これはどう考えてもおかしい。

 現在、環境変動に対する日本製造業の耐性は、1980年代とは比較にならないくらいに高い。前世紀末に進めた経営のグローバル化の結果である。海外生産のウエートが国内を超える産業が加工組み立て型産業ではほとんどである。このような構造になると、円高になっても直ちに致命的な減益にはならない。輸出する分は確かに利益ではマイナスだが、現地で生産する分は中立、輸入をすればプラスだからだ。もちろん円換算をした利益は減るが、それは見かけ上のことで、ドル換算すれば増える場合すらある。日本からの輸出が主だった時代の認識を切り替えないと見誤る。

 あるグローバル化した製造業の幹部が「当社は1ドル=80円でも利益が出せます」と教えてくれた。90年代中頃の超円高時代、いずれ「1ドル=70円」と言われた時期に、生産現場などの効率化を進め、また輸出依存から大きく舵(かじ)をきり、海外生産、海外調達を組み合わせることにより、その程度の円高ならば耐えられる仕組みをつくったのだと言う。そうであれば今の円高水準であればまだ余裕である。

 日本経済、日本産業の見方には、良いときは過大評価、悪いときには過小評価と、振れの大きさが目立つ。これは、発言力のある立場の人に、現場の真の姿や声、実態を見ている人が少ないからだろう。後継日銀総裁にも現場に立脚した正しい評価能力こそが不可欠であろう。(龍)

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