英国出身の世界的SF作家アーサー・C・クラーク氏が亡くなった。九十歳だった。スリランカに移って久しいが、母国からナイト爵位を受けた。
「幼年期の終わり」「都市と星」「海底牧場」など長編のほか短編も多数ある。宇宙や未来に生きる人類の姿を、リアルかつ詩情豊かに描いた。彼の作品に刺激され、研究者や技術者になったという人は世界に多かろう。
未来予測でも知られた。通信衛星の概念は一九四五年、彼が発表した。軌道上の衛星と地上を行き来するエレベーター、太陽光の圧力で進む宇宙ヨットなど、他のアイデアも真剣に研究されている。
スタンリー・キューブリック監督の六八年の映画「2001年宇宙の旅」の原作者でもある。映画では、地球外文明がもたらした物体が猿人に道具を使う知恵を授けた時から文明の発展が始まる。やがて人類は宇宙へ進出するまでになるが、舞台の宇宙船でコンピューターが反乱を起こす。
科学という道具を人類がいかに扱うべきか。クラーク氏は常に問い掛けていたように思う。彼は「発展したテクノロジーは魔法と見分けがつかない」(巽孝之著「2001年宇宙の旅講義」)と語っている。
邪悪な魔法使いになってはならない。道具は上手に使え。彼はそう言っているのだと解釈している。