イラク戦争の開戦から二十日で丸五年を迎えた。イラク人による正統政府が発足して二年近くになるものの、国の安定化には程遠い現状だ。多くの犠牲と混乱をもたらしたブッシュ米大統領の「大義なき戦い」の出口は依然見えない。
今年一月の一般教書演説で、ブッシュ大統領は「たった一年前にはほとんどの人が想像できなかった成果」と、三万人規模の駐留米軍増派による治安への効果をアピールした。
首都バグダッドなどでは、一時の混迷状態は改善されてきたといわれる。要因としては米軍の増派のほか、イスラム教スンニ派武装勢力が米軍と協力して国際テロ組織のアルカイダ系組織と戦う「覚せい評議会」に結集したこと。さらには、シーア派の反米指導者サドル師率いる民兵組織によるスンニ派攻撃の停止が挙げられよう。
しかし、数が減ったとはいえテロは後を絶たない。二〇〇三年三月の開戦以来、米軍兵士の死者数は四千人に迫る。世界保健機関(WHO)は、〇六年六月までにイラク市民の死者数は十五万人を超えたとする調査結果を公表した。その後も犠牲者の数は膨らんでいる。
〇一年九月の米中枢同時多発テロに端を発した対テロ戦争は、国際社会の多くの反対を押し切ってアフガニスタンからイラクへ矛先を向けた。大量破壊兵器疑惑が理由だった。フセイン政権は短期間で崩壊したが、その後も武装組織などによる多国籍軍への攻撃やテロが相次いだ。さらに対立軸は宗派間、宗派内へと複雑化してきた。
結局、大量破壊兵器は見つからず大義は崩れた。長い戦いは治安面に加え、恒常的な電力不足や高い失業率など市民生活に深刻な影を落としている。疲弊が長引けば、新たな不安定要因になろう。ブッシュ大統領は、早急なイラクの安定化へ全力を挙げなければならない。
イラクの安定は国民的融和をどう図るかにかかる。宗派を超えて「イラクの国づくり」という原点に立って一体感を醸成していかなければならない。イラク国民の主体的な取り組みを大前提に、影響力を持つ周辺国をはじめ国際社会が連携して支援していくことが必要だ。
日本は、航空自衛隊がクウェートを拠点にイラク国内への輸送に当たっている。〇七年には根拠法のイラク復興支援特別措置法を改正して派遣期限の二年延長が可能となったが、早期に撤退して経済支援や人材養成など文民支援での貢献へ出口戦略を描くべきであろう。
次期日銀総裁に元大蔵事務次官の田波耕治・国際協力銀行総裁を起用する政府提示の新たな人事案は、参院本会議で民主、共産、社民などの反対多数で否決され、不同意となった。
日銀総裁人事は迷走を続けた末、戦後初めて総裁ポストが「空席」となる異例事態となった。最悪のシナリオを回避できなかった政治の責任は極めて重大といえよう。
参院は副総裁候補の西村清彦・日銀審議委員を与党や民主党などの賛成多数で同意した。先に衆参が同意し副総裁への就任が決まっている白川方明京大教授とともに、二人の副総裁はこれで確定した。当面、白川氏を総裁代行とする新体制がスタートする。
民主党は、政府が当初提示した元財務事務次官の武藤敏郎副総裁の昇格案を「財政と金融の分離」に反するとして、参院で不同意とした。田波氏についても「大蔵事務次官経験者」の経歴を反対理由にあげるが、説得力に欠けよう。政府が国会に提示した同意人事案が二度にわたって否決されたのは異常だ。民主党が人事を政争の具に利用しようとした感は否めない。
経済の減速懸念が強まり、金融市場の混乱が続く中、「金融の司令塔」不在が長引くことは国際的にも決して許されない。「空席」の影響が国民生活に及ぶ恐れは強く、参院第一党としての民主党の判断に結果責任が厳しく問われることになろう。
政府の責任も重い。福井俊彦日銀総裁の任期切れ前日になって、再び財務省依存の人事案を提示した。党首会談も開けず、対話のパイプは機能しないまま民主党の出方を最後まで読み切れなかった。
総裁空席解消へ向け、与野党はお互いの努力と責任で早期に事態打開を図るべきだ。
(2008年3月20日掲載)