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2008年3月19日

◎日銀総裁空席 国益無視のチキンレース

 日本の政治レベルを象徴するようなドタバタ劇の末、日銀総裁が不在となる異常事態が 現実になりそうだ。サブプライムローン問題で世界経済が危機的状況に置かれているなか、国際金融のキープレーヤーの一人である日銀総裁人事が政治に翻弄(ほんろう)され、国家の信用が著しく傷付けられた。国益無視、国民不在のチキンレースを続ける与野党の責任は重い。

 特に民主党は、「財政と金融の分離」に固執し、最も適役と見られていた武藤敏郎副総 裁の昇格案を葬り、田波耕治氏の起用にも同意しない方針という。武藤氏より日銀総裁に適した人材が民間や日銀OBにいるというなら話は別だが、財務省出身者はだめというだけでは説得力に乏しい。衆参両院で賛否が分かれた場合のルールが明確でない国会同意人事の「欠陥」を利用し、政府与党を揺さぶる道具に使ったと非難されても仕方あるまい。

 新日銀法には、日銀の自主性の尊重が明記されており、旧日銀法にあった政府の広範な 監督権限は大幅に見直されている。金融政策を審議する金融政策決定会合は、議事要旨が即座に公開される仕組みであり、日銀の独立性と透明性は法によって担保されている。財務省出身者が日銀総裁に就いたら、ただちに独立性が失われると言わんばかりの民主党の主張には無理がある。

 そもそも日銀の独立性は言葉のアヤのような面もあり、新日銀法は「政府の経済政策の 基本方針と整合的なものとなるよう、十分に意思疎通を図らねばならない」とも規定している。日銀が好き勝手にしてよいと言うことではない。

 ドタバタ劇の責任の一端はむろん、政府与党にもある。福田康夫首相は、武藤総裁案に 続いて、福井俊彦総裁の続投を民主党に打診し、即座に拒絶されたが、あまりにも安易だった。田波氏の総裁案提示は任期切れの前日になってからであり、泥縄の印象が否めなかった。

 いわゆる大連立構想がとん挫して以降、福田首相は民主党幹部とのパイプを失ったよう だ。自民党幹部からも「民主党の考えがよく分からない」とぼやく声が聞こえる。日銀総裁の空席を長引かせないためにも、与党と民主党が政策協議を行う場がぜひとも必要だ。

◎産業観光の推進 行政の支援態勢も課題

 協同組合の「加賀能登のれん会」が先ごろ実施した老舗のモノづくり現場体験ツアーは 、伝統的な工芸や食品関係の企業が多い地域の特徴を生かした産業観光といえる。石川県は産業観光で韓国からの団体客誘致に成功しており、産業観光の可能性を広げているが、今後の行政の検討課題として、官民一体の推進組織づくりや助成制度の充実が挙げられる。

 産業観光に熱心な企業が多い富山県は、助成制度の拡充を予定している。企業が産業観 光用に駐車場やトイレを整備する場合などに費用の一部を助成する制度を既に設けているが、新年度からは伝統工芸・食・薬の三分野の産業観光に取り組む企業に重点を置き、予算に特別枠を設けて助成額を引き上げる方針という。地域色豊かな観光産業の推進に効果的な支援策といえ、石川県も参考にしてもらいたい。

 企業の施設や生産現場を見学する産業観光は近年、新たな観光政策の柱に据えられ、各 自治体が力を入れている。最新設備を誇る大手メーカーや企業ミュージアムだけでなく、中小の伝統産業や第一次産業の現場も対象になり得るのであり、今回、しょうゆ蔵や加賀麸、みそ、能登上布などの特産品の製造現場を見て回った加賀能登のれん会のツアーは、一つの方向を示している。

 加賀能登のれん会には県内の食品、工芸関連の企業約百三十社が加盟しており、物産展 を開く県外百貨店の得意客からツアー参加者を募ったという。こうした産業観光は固定的な顧客の獲得にもつながる。

 石川県もこのツアーを支援したが、産業観光に本腰を入れるのならモデルコースの設定 や情報提供、セミナーの開催といった従来の取り組みにとどまらず、関係企業や団体などの力を集め、地域全体で産業観光を推進し、対象企業を支援する態勢の整備も必要ではないか。行政と関係団体が協力する具体的な取り組み例として、産業観光ガイドを養成することも考えられる。

 富山県では富山商工会議所を中心に産業観光推進協議会が組織されており、今年秋には 富山市で全国産業観光フォーラムが開催される。これを契機に推進態勢のさらなる強化に努めてもらいたい。


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