2007年5月30日(水)
夏休みに入り自分の仕事が一段落ついたので、最近知り合いのProfessor Emeritus(ニックネームはDr. B)のお手伝いをしています。Dr. Bはがん細胞研究を専門とする生物学者で、がん細胞に関するテキストを以前から出版しています。今年その改訂版(第9版)を出版する予定で、現在この夏の脱稿を目指し最新の研究動向にキャッチアップするべく奮闘中です。御年86歳とかなりのご高齢なので、最新の研究には通じていてもパソ関連はどうしても苦手。そこで私が主に画像処理などをお手伝することになりました。Dr.Bは若かりし頃米軍に従軍して日本にも来たことがあることから(朝鮮戦争時)、当時の日本の印象を話してくれたり、戦争体験談など色々と昔話をしてくれます。私がミネアポリスに来てからなんだかんだと可愛がってくれて、今では私のアメリカのおじいちゃんを自称しています(笑)。 このDr. B、実は日本の皇室と強いつながりがあります。常陸宮殿下(今上天皇の弟)と研究者仲間なのです。私もDr. Bに話を聞くまで全然知らなかったのですが、常陸宮殿下はカエルを使った細胞の研究を長らく手がけていて、その研究成果は国際的にみてもかなり高い評価を受けているらしいです。もちろん皇族なので博士号を取って研究を生業にすることはないのですが(できない、と言った方が正確でしょう)、国立がんセンターの研究者たちと一緒に研究を進めていたようです。戦前の男性皇族は軍隊に入るか、もしくは政治に携わるのが(多くの場合は軍部の支持の元)常でしたが、戦後の皇族は以前の軍国主義的イメージを払拭するためにか、研究活動を積極的に行う男性皇族(後には女性皇族も)が多くなりました。常陸宮殿下もそのようは「学究肌」皇族の一人です。 といっても、常陸宮殿下の場合、Dr. Bの言葉を借りるならば「Prince Masahitoはもし皇室に生まれなければ、この分野をリードする研究者として活躍していたに違いない」ほど、才気溢れる方のようです。実際常陸宮殿下は2000年にそれまでの研究成果が認められて、ミネソタ大学から名誉博士号を授与されています。Dr. Bはその授与に関わった一人なのですが、この名誉博士号は決して彼が日本のPrinceだから与えたとか、単なる飾り物に過ぎないものでもなんでもなく、彼の長年の研究成果を慎重に評価してうえで決められたものなのだとか。「彼の研究成果を十分に理解する研究者であったなら、Prince Masahitoへの名誉博士号の授与に疑問を唱える人はいないだろう」とDr. Bは言っていました。 私はこの分野の研究者ではないですし、それに常陸宮殿下が積極的に国際学会などで研究成果を発表されていたのも少々昔のことになるので、当時の研究に対する評価を知ることはできません。でもDr. Bの言っていた「彼が皇室に生まれなければ…」の言葉が、時々心の中にふと思い浮かぶことがあります。私は今自分の好きなことをやってこうやってミネアポリスまで来て、それで日々の糧を得ているわけですが、必ずしもそれが叶わない人もいて、そしてもしかすると今日もどこかで優秀な才能が気づかれることないまま終わってしまっているかもしれません。研究者として暮らしていくのと、皇族として生きてのとどちらが幸せなのかなど、誰にも分かりませんが、それでも機会があったら常陸宮殿下に聞いてみたいです。「貧乏学者でもいいから研究者になりたいですか?」って。 Dr. Bが現在改定作業中のテキストには、前回に続いて常陸宮殿下の論文に掲載されていた癌が発生したカエルの写真が掲載される予定です。 by itoaki | 2007-05-31 04:22 | Trackback | Comments(0)
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