日本最初の都城・藤原京跡中心部で見つかった貨幣「富本銭(ふほんせん)」が話題になっている。貨幣経済の始まりを示す千三百年前の遺物だが、日銀総裁人事で混迷する平成の世への多くの教訓を含んでいる 問題の貨幣が地鎮祭の供物だったことがポイントである。都づくりの工事の安全を祈ったお賽銭(さいせん)ではない。国家の基礎を「お金」と決め、国づくりの象徴として都の中枢に埋めた点が重要であり、国家と貨幣の関係が推測できる史料だろう 今でも建物を新築するには地鎮祭や棟上げ式など、工事初期に祭事が集中する。人間も同じで誕生から成人まで成長期に祝い事が続く。人も国家も無事に育つには人知を超えたものに左右されるから祈るのである 国家の安定は制度と政治家の能力に影響されるが、それらを超えた力に動かされることも多い。経済も経験則や知識の及ばぬことがある。古代の人々はそうした天の力をおそれて、繁栄と平安を祈ったに違いない 今日の「政治不況」は、貨幣の元締である日銀総裁人事を政争の具にした人災と言ってもいい。国の基礎をないがしろにし、天と民をおそれぬ国家の危うさを考えてほしい。
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