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NIKKEI NET

社説2 胡政権 チベット騒乱で試練(3/19)

 中国の胡錦濤国家主席、温家宝首相の再選により2期目に入った「胡―温」政権はチベットでの大規模な騒乱で国際的イメージが傷つき、逆風の船出となった。中国の高成長を支えてきた対米輸出が減速し、インフレ圧力が増すなど経済運営も極めて難しい。8月の北京五輪を控え、内憂外患の試練に直面している。

 中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)は5―18日、北京で開かれた。民生重視を打ち出した全人代のさなかの14日、中国チベット自治区のラサで騒乱が起き、多くの死傷者が出たことは遺憾だ。

 四川など3省でも僧侶らの抗議活動が広がり、武装警察に催涙弾などで鎮圧されたという。国際社会は中国当局の対応は人権への配慮を欠いているとして懸念を強めている。

 温首相は18日の全人代後の内外記者会見で、ラサでの騒乱はチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の一派による「組織的に計画した陰謀だ」と断じ、北京五輪破壊を狙ったものだと非難した。

 ダライ・ラマ自身は同日の記者会見で騒乱への関与を改めて否定し、対話による解決を呼び掛けた。これ以上、対立を深めないためにも双方が対話を進めるよう望む。

 中国当局によると、ラサでの死者は13人で「罪のない群衆が死亡した」(温首相)との立場だ。一方、チベット亡命政府は「80人死亡」と発表、大きく食い違っている。

 中国の国内向けテレビはチベット族が商店などを破壊する映像は放送するが、鎮圧の場面は出てこない。NHKや米CNNの中国向けテレビ放送のラサ騒乱に関するニュースは中断されるなど海外からの報道を規制している。中国政府は情報を公開し、真相を明らかにしてほしい。

 今年の全人代では5年に1度の国家・政府人事も焦点だった。革命第5世代と呼ばれる習近平氏(54)が国家副主席、李克強氏(52)が筆頭副首相にそれぞれ選ばれた。5年後の「習国家主席―李首相」体制をにらんだ布石ともいえる。新体制への移行とラサの悲劇が重なった。

 「胡―温」政権は国際社会の中国を見る目が厳しいことを十分に自覚し、言論や報道の自由を含めた政治の民主化に早急に取り組むべきだ。

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