市川右近と市川段治郎が、ヤマトタケルと従者のタケヒコを役変わりしての公演。梅原猛作、奈河彰輔演出、市川猿之助脚本・演出。
大和の帝(金田龍之介、猿弥)の子のヤマトタケル(右近、段治郎)は兄を殺したことで父帝に疎まれ、熊襲(くまそ)、蝦夷(えぞ)など大和に従わない国の征伐に次々と向かわされる。ついには伊吹山の山神退治で深手を負い、帰還を前に命を落とす。
兄を殺し、父には愛されず、恋人の弟橘姫(おとたちばなひめ)(春猿)を海で失う。みやず姫(笑也)や子までなした兄橘姫(えたちばなひめ)(笑也)とも、共に暮らすことはかなわない。タケルは肉親や家族との縁が薄い。
それに引き換え、熊襲のタケル兄弟(猿四郎、喜猿)も蝦夷のヤイレポ(猿三郎)、ヤイラム(猿弥)兄弟も深いきずなで結ばれている。鬼神とみなされる山神(猿弥)と姥神(うばがみ)(門之助)ですら、互いを慈しみ合っている。
この対比が利き、父に理解されないタケルの孤独感と、受け入れられたいがために、むなしい戦争を繰り返さざるを得ない悲しみが表現された。
右近のタケルは描写が細やかで心の動きがよく分かる。タケヒコでは屈折感を出した。段治郎のタケルは全体に悲壮感が漂う。タケヒコにはまっすぐな強さが出た。
1986年の初演から洗い上げられ、3幕の各幕に変化が付いた飽きさせない構成だ。門之助、笑也、笑三郎、猿弥、春猿、寿猿、猿三郎ら、周囲も的確な演技をみせる。25日まで。【小玉祥子】
毎日新聞 2008年3月19日 東京夕刊