多くのファンに見送られ、東京へ向け出発する最後の寝台急行「銀河」(14日夜、JR大阪駅) |
高付加価値化に可能性あり
「ありがとう」「さようなら」。いつもより長めの汽笛を鳴らした後、男たちの掛け声、拍手、涙、カメラのシャッター音などに見送られ銀河は姿を消した。運行開始は1949年。新幹線の最終電車より遅く出発し、朝一番で仕事に取り掛かれる銀河は、特に出張族に愛用された。日経新聞の記事によれば、乗車率はJR発足時の1987年は定員の8割程度だったが、昨年12月には3−4割に落ち込んでいたという。
新幹線、航空機、さらには高速バスなど競争相手が増えた。新幹線の増発にくわえ、航空、バスは規制緩和などで参入、増便が容易になり運賃も低下。また、90年代の地価下落や、公共事業である駅前再開発を背景に台頭した新興ビジネスホテルチェーンは清潔、便利、低価格を前面に打ち出した。いずれも寝台列車の競争力を相対的に低下させた。今年春は京都と九州を結ぶ「なは」「あかつき」も廃止となった。
寝台列車に生き残りは可能か。成功モデルの一つが「北斗星」などののんびり、豪華な北海道旅行だ。だが、ビジネス客を「レトロ」だけで振り向かせるのは無理だ。
ではビジネス客はどうすればいいか。
「時間」の価値は年を追って上がっている。小売店、飲食店など生活時間の24時間化も進む。東京という都市で、普通使う主な生活サービスのうち24時間化に対応していないのは地下鉄などの公共交通サービスくらいではないか。特に鉄道だ。保守点検など事情はあろうが、深夜に移動したい生活者、移動せざるをえない労働者はタクシーなどによる高コストな移動を強いられる。
寝台車にも可能性はあるのではないか。極端に豪華である必要はないだろう。たとえば、カーテンで仕切っただけの寝台から、一定のプライバシーが確保された空間に変える。暇つぶしのツールも欲しい。汗も流したい。カプセルホテルやネットカフェ、健康ランドの仮眠部屋のようなイメージだろうか。飛行機のようにDVDやテレビを見られる画面、仕事のできるパソコン接続システムがほしいところだ。女性専用バスを用意し、かわいいスリッパなどもそろえた高速バスが参考になる。
「電車化」で銀河も復活?
専門家の見地から「銀河」を含む寝台列車復活の道筋を説くのが、鉄道アナリストの川島令三氏だ。近著「全国寝台列車未来予想図」で、川島氏は、銀河廃止を、市場の変化というよりJR側の事情が大きいと解説する。
同書によれば、銀河の寝台客車はJR西日本が所有する。東京・熱海間はJR東日本が、熱海・米原間はJR東海がJR西日本に「客車使用料」を支払って運行するのだそうだ。しかし深夜に停車する東海区間で切符を購入、乗車する人は少ない。東海にはうまみが少ない。だから電気機関車の機関士もあまり育成していない。さらに引っ張る機関車はJR東日本のもので、直接にはレールにつながっていない東北線の機関区の所属。銀河廃止の裏には、こうした複雑な事情、経営上のコスト、投資先(寝台車のリニューアルより新幹線の新造優先)が重なった結果だ、と解説。「格安バスに負けたわけではない」と力説する。
川島氏の銀河復活案は「電車化」だ。これまでのように寝台客車を機関車に引っ張ってもらう形だと高速運転が難しいうえ、途中の分割、併合が大変だ。各車両に動力源を搭載する電車なら問題ない。スピードも上がる。機関士不足という問題も解決する。東京圏に入ってから分割しディズニーランド、埼玉方面、千葉方面などに分かれれば利便性は高まる。銀河など在来線だけでなく、新幹線でも東京・九州間、東京・北海道間で寝台車を連結したら、とも提案する。
郷愁や趣味に頼るのではなく、他の業界に学び、客の利便性を高めること。そのために、既存の仕組みや制度、縦割り文化などが、もし弊害になっているならば、大胆に変更すること。そうすれば、再び銀河が東海道を走る日が来るかもしれない。