児童ポルノ規制でPCがいつ押収されるか分からない世の中に―ネット社会における個人の自由
インターネットの普及で国境を越えて流通し、被害が深刻化している児童ポルノをめぐり、米政府が日本の政府・与党に対し、画像を所持するだけでも処罰できるよう「児童買春・児童ポルノ禁止法」の改正を要請していることが分かった。
児童ポルノ:米が日本に罰則強化要求 「単純所持も犯罪」/毎日新聞
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20070610k0000m010119000c.html
児童ポルノ規制法で「作成」「公開」「販売」だけでなく、単純な「所持」まで規制しようという改正案が議論されており、アメリカの圧力もあるということで、改正される可能性が高い状況になっています。しかし、これは、ネット社会の根幹を揺るがすような、非常に危険な規制です。恐ろしく個人の自由を制限することが予想されるからです。
たとえば、あなたが、バナー広告を間違ってクリックして、児童ポルノをPCに表示させるとあなたのPCのハードディスクには、キャッシュとして、児童ポルノが保存されることになります。ここで児童ポルノを公開するサーバーが摘発されて、ログが警察の手に渡ったとき、プロバイダのアクセスログをもとに個人のPCが押収されるというのは、かなり現実的に考えられるでしょう。
もちろん、警察は、こういうのをいちいち摘発したりしないかもしれません。しかし、政府の意図に反する発言・活動をする人間がいたとき、その人間を「潰す」ために、児童ポルノ規制法を使うのは簡単です。アクセスログをもとに、強制捜査し、「ロリコンだ」ということを「でっち上げれば」良いからです。
つまり、従来の刑法や児童ポルノ規制法の枠組みでは、個人のPCが国家権力によって覗かれるのは、重大な犯罪の嫌疑がかけられたときだったわけですが、今回の改正ではそうした状況が一変します。誰もがPCを押収される可能性がある。そういう世の中になるということです。
これに対して、毎日新聞は、信じられないようなおかしな議論を展開しています。
単純所持の禁止については「捜査権の乱用を生みかねない」などの指摘が国会の一部にあり、判断を先送りしてきた。しかし、それは法律そのものより、運用の仕方にかかっている。
米国やスウェーデンでも捜査当局はその点に慎重を期しており、大きな問題にはなっていない。国境を越えて広がる児童の被害をどうくい止めるか。日本も国際社会に足並みをそろえる時期に来ている。
児童ポルノ:「所持合法の日本、のんき」 被害相談増える/毎日新聞
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20070610k0000m040121000c.html
「大きな問題にはなっていない」。そうですか。では、毎日新聞では、憲法から基本的人権を取り除いても、さしあたり「大きな問題になっていない」なら良いと言うのでしょうか。これは、「権力の集中」が悲劇を生むという歴史の教訓を無視した暴論です。現実問題、児童ポルノ規制法による不当逮捕が多発したとしても、記者クラブ制度によって警察と癒着した大新聞は、それを満足に報道することすらできないでしょう。そんな状況で、良く「大きな問題になっていない」と言えたものだと思います。ちなみに、参考記事の「児童ポルノ閲覧、初犯の罪が重すぎる?」を読めば分かるように、諸外国では大いに「問題になっている」のも事実です。毎日新聞の記述はほとんど犯罪とまで言えるでしょう。
念のために言うと、自分は児童ポルノ規制そのものに反対しているわけではありません。しかし、規制の方法は「単純所持」であってはいけないということです。特に最初の記事にあるような状況で規制しようとするなら、「単純所持」ではなく、「購入」を規制すれば良いでしょう。これなら無関係な人間が不当逮捕される危険性はないからです。いずれにせよ、「単純所持」を規制する必要はないし、また、規制されるような世の中にしてはいけないのです。
なぜ、こんなおかしな規制が、広まってしまったのでしょう。背景には、「ネット社会」に対する世界的な誤解、そして、9.11を契機とした国家権力の強化、監視社会化という時代の流れがあるのだと思います。「日本も国際的に足並みをそろえる時期に来ている」という理由で監視社会化を推し進めようとする動きには、何としても対抗していかないといけないでしょう。
「PCの中身を検閲されない自由」、こんな当たり前の自由が私たちの手に戻るのは、いつの日になるのでしょうか。
○関連記事
女子大の昼休みはなぜ居心地が悪いか?―ネット社会の匿名性と分散型セキュリティーの思想/情報学ブログ
http://informatics.cocolog-nifty.com/blog/2007/06/post_b179.html
→導入部分はふざけてますが、中身はまじめな議論です。
「児童ポルノが違法でない」国は138カ国/ITmedia
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0604/08/news001.html
→冒頭の記事に、「主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)のメンバーで、単純所持が合法なのは日本とロシアだけ」とありますが…。
児童ポルノ閲覧、初犯の罪が重すぎる?/HOTWIRED JAPAN
http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20030204205.html
【児童ポルノ法】U-15グラビア過激化 9歳のTバックアイドル登場【提供罪の恐怖】【単純所持規制の恐怖】
http://yama-ben.cocolog-nifty.com/ooinikataru/2007/04/u15_9t_ad54.html
毎日新聞が児ポ法強化を訴える/黙然日記
http://d.hatena.ne.jp/pr3/20070610/1181449708
共謀罪並みに危険な児童ポルノ禁止法/“正義”の暴走ストップブログ(仮)
http://kunakuna.exblog.jp/5091833
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コメント
俺はべつにロリコンでも萌え命でもAV好きでもないから、
萌え系漫画やドラマの子役やAVが根絶してもまったく困らないんだが、
単純所持が違法になると、事実上のネット禁止法になってしまう。
それは勘弁してくれよと。
じゃあアメリカは単純所持が違法になっているのかな?
少なくともあらゆる画像掲示板は絶滅だね。
荒らしが児童ポルノを張ったら見る意志がなくても閲覧者までもが犯罪者、オワタ。
まあ対策としてはw3mやlynxなどのテキストブラウザでブログやニュースサイトを巡回するくらいじゃないかと。
最近の政治家はネット無知が多すぎて呆れてモノがいえない。
HTTPの仕組みくらいこのIT時代じゃ常識だろと言ってみるテスト。
投稿 nanasi | 2007年6月11日 (月) 14時18分