イラク戦争開戦から明日で五年。治安は改善の兆しもあるというが、テロ、宗派抗争と背中合わせの市民生活は変わらない。破壊された社会基盤と経済、そして国家分断が戦後イラクの現実である。
フセイン政権が大量破壊兵器を保有し国際テロを支援しているとして米英両国は二〇〇三年、イラクとの開戦に踏み切った。だが、大量破壊兵器は見つからず、テロ組織との結び付きもなかった。結果的に地域の風土と歴史を無視した「大義なき開戦」となった。
軍事力を過信した「誤った戦争」のつけはイラクの人々にまわり、日常的に生命、生活を脅かされることになった。世界保健機関(WHO)によると、開戦から今年一月までのイラク人死者は十五万人を超える。
首都バグダッドには、武装組織などの侵入を防ぐ高さ三−五メートルのコンクリート壁が張り巡らされ、対立するイスラム教シーア派とスンニ派のすみ分けが固定化した。
両派はかつては共存していた。米英の攻撃によるフセイン政権崩壊に伴って「パンドラの箱」が開き、武力報復の連鎖がとめどなく続いた。
生活の困窮は極まっている。世界有数の石油埋蔵国でありながら、ガソリン価格は急騰し、発電量は市民生活に必要な三分の一しかない。医師不足も深刻だ。
さらに、住まいを追われた約三百七十万人が、今も国内外で不自由な生活を強いられている。
治安はかなり改善された。米国防総省の報告では、小火器、地雷、爆弾などによる攻撃は最近一年間で激減している。三万人を増派した米軍とイラク軍との大規模作戦がそれなりの効果はもたらしている。
これを背景にブッシュ米大統領は今年夏までに現在の十六万人から十三万人態勢に削減したい考えだ。英国もバスラ県の治安権限をイラク側に移譲し、今年半ばまでの部隊大幅削減を予定するなど、多国籍軍の出口を探る動きが加速している。
だが、宗派間、民族間融和に治安は欠かせず、これを担う米軍の早期撤退は困難視されている。米兵死者は約四千人。見直しも含め米国世論がイラク政策をどう判断するか。今秋の大統領選の重大争点となろう。
日本政府の立場も問われる。現地では航空自衛隊による輸送活動が続いている。開戦支持は正しかったのか。大義なき戦争への関与をどう考えるか。今後のイラク政策の方向付けと併せて、十分な検証を要する。
イラク戦争はいまだ終結していない。国際社会の一員として、あるべき復興支援策を考えていきたい。
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