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【社会】

生活道に兵士満載トラック 『アバは戦場だった』 チベット自治州ルポ

2008年3月19日 07時10分

18日、中国四川省アバ・チベット族チャン族自治州理県で武装した兵士と軍トラック車両の横を、不安げな表情で通る少女たち。暴動が起きた地域への増派が続いている=平岩勇司撮影

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 【アバ・チベット族チャン族自治州(中国四川省)=平岩勇司】中国のチベット政策をめぐる暴動で、多数の死傷者が出たというアバ県がある自治州に十八日、入った。抗議行動はアバ県の近隣にも拡大。人民解放軍の部隊が次々と投入され、民衆を威圧するように一帯に展開している。

 「ちょっと、車に入ってくれ」。ここは、成都から約二百キロ北西にある自治州南部の理県。アバ県から帰ってきたという運転手は、状況を尋ねる記者を車内に招き入れ、「アバは戦場だった」と小声で語る。

 「民衆は役所に投石して商店や車に火を付け、中国国旗を引き裂いた。警察の発砲でリーダーの僧侶数人が射殺され、警察官も何人か死んだ」

 アバ県では十六日、チベット仏教僧侶や民衆数千人が「チベット独立」「ダライ・ラマ十四世帰還」などと叫び、県庁舎を包囲。治安当局は催涙弾を放ったが、民衆らを解散させられず、発砲に踏み切ったようだ。自治州北部ではアバ県以外に紅原県、マールカン県など五カ所以上へ抗議行動が広がっている。

 理県から北上し、二千メートル級の山々に挟まれた川沿いの道を走る。太陽の光が清流に反射する景観は、神々しさすら感じる。しかし、走るのは軍用車両ばかり。自動小銃や盾を携えた兵士を満載したトラックと装甲車約八十台が、一般車両を停車させ、わが物顔で通り過ぎた。アバの市街地では主要道路に軍隊や装甲車が展開し、戒厳令さながらと伝えられている。

 途中の集落で会ったチベット民族衣装の女性は「暴動は共産党の腐敗に対する不満が爆発したのさ」と吐き捨てた。共産党地方幹部は、食糧補助費や教育助成金を着服し、民衆の生活を踏みにじっているという。「中央が腐敗防止のラッパを鳴らしても地方には届かない」。ラサでの暴動を携帯電話などで知り、怒りに火が付いた。

 自治州の政府庁舎があるマールカン県の手前の検問では、自動小銃を持った警察官が「交通規制のため、地元住民以外は一切進入できない」とさえぎった。記者が「なぜ交通規制で自動小銃が必要なんだ。暴動が起きているはずだ」と尋ねると、「日本の警察も自動小銃ぐらい持っているだろう。理由を言う必要はない」とぞんざいに答え、記者らを追い返した。

(東京新聞)

 

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