任期切れが十九日に迫った福井俊彦日銀総裁の後継人事が混迷の度を深めている。武藤敏郎副総裁の昇格案が、野党が多数を占める参院で否決され不同意となった事態を受け、政府は十七日に再び人事案を出すはずだったが、提示できなかった。
十八日に提示するというが、できなければ日銀総裁が空席になり、既に衆参両院の同意で副総裁任命が決まった白川方明京大教授が、総裁代行を務める可能性も出てきた。
福田康夫首相は「ベスト」としてきた武藤氏昇格案の再提出を断念した。打開策として福井総裁の続投を民主党に打診したものの、あっさり断られるなど迷走を重ねた。求心力の低下は避けられず、政権の前途にも暗雲が広がったといえよう。
そもそもここまで人選がこじれたことについて、政治の無策にあきれる。同時に問題解決能力のなさに腹立たしささえ覚える。責任の多くは政府・与党にあろう。とにかく対応が遅すぎた。総裁の任期は以前から分かっていたが、人事案を国会に提示したのは七日だった。
「ねじれ国会」の中、参院で主導権を握る民主党に武藤氏昇格案について賛否両論があったため、動向を見極めようとしたのだろう。だが、決断を先送りしたことで任期切れ直前の人事案提示となり、混乱に拍車をかけたとしか言いようがない。
結果的に審議日程の余裕をなくし、一気に事を運ぼうとしたと批判されても仕方あるまい。もっと早くから対処していれば、野党が反対しても議論を深めたり、調整する時間はあったはずだ。特に指導力を発揮しなかった福田首相の罪は重い。
野党の姿勢も首をかしげざるを得ない。なぜここまで強く武藤氏昇格に反対したのか。理由は武藤氏が財務省出身で、財政と金融政策の分離が保てないとしたが、こうした例は欧米では珍しくない。
二月末に与党が衆院で二〇〇八年度予算案を強行採決した影響が大きいようだ。態度を硬化させた野党が日銀総裁人事で報復に出たとされる。政争の具にした感は否めず、責任の一端は免れまい。
政府・与党と野党の双方に混乱の原因があるとはいえ、待ったなしの状況だ。副総裁の総裁代行でしのぎ、慎重に人選を進めるべきとの意見も浮上しているが、世界的に金融不安が深刻化し、国内では株価の下落が激しい。
総裁人事の混乱が長引けば、国内外の信用は失墜するだろう。早期決着に向け、政治の責任が厳しく問われている。
学校の公式ホームページとは別に、生徒らが情報交換を目的に非公式で開設した匿名の電子掲示板を「学校裏サイト」と呼ぶ。文部科学省が行った初めての調査で、その実態がようやく明らかになってきた。
未集計の九州・沖縄地方を除いた中間的なまとめだが、三十九都道府県で少なくとも計約三万八千に上っている。いじめなどの温床になっているとの指摘がかねてからあったが、調査では「キモイ(気持ち悪い)」など特定の個人を中傷する言葉が書き込まれたサイトが約二割を占めた。
学校裏サイトの問題は、本紙でも今年一月から始まった連載企画「ネット汚染―迷走する子どもたち」の第一部「見えない悪意」で岡山県内の事例がリポートされた。卑劣な書き込みをされてクラスで孤立してしまう被害者と、「匿名なので何でも書ける」と憂さ晴らしをする加害者との意識の落差は大きい。一方で、そういった掲示板の存在すら知らない教師の実情も浮き彫りにされた。
全国的には、ネット上でのいじめによる自殺といった衝撃的な事件も起きている。今回の文科省の調査は、実態把握という点で第一歩にすぎない。今後、内容分析とともに具体的な対応策を盛り込んだ報告書を作成し、各地の学校や教育委員会などでの活用を促すという。早急な取り組みが求められよう。
学校裏サイトは、子どもたちの間でアドレスが口コミで伝わるなど、親や教師が見つけにくいことから、存在がわかっているのは氷山の一角とされる。教育現場や家庭も、日ごろから子どもたちとのコミュニケーションを深めてネットの現状を知ることが重要だ。互いに連携を図り、いじめ防止に真摯(しんし)に向き合うことが必要だろう。
(2008年3月18日掲載)