数字で見る男と女の働き方

【最終回】数字だけでは分からない、働く日本女性の実態


 これまで本連載では、「米国男女の働き方から何を学ぶか」見てきた。今回は視点を変えて、「日本人の働き方を米国人に理解してもらうためにどうしたらよいか」を考えてみたいと思う。今回、数字はあえて出していないが、その理由は最後に書いた。

 2006年7月に渡米してしばらくした頃、親しくなった米国人が、私の調査に役立ちそうな本や記事を見つけると、教えてくれるようになった。米国人の共働き夫婦に関する本や米国の働く女性に関する記事の中には、日本女性に関するものもあった。ある時、こうした資料の中で、日本の企業社会や女性に関して書かれたものに何となく違和感を覚えることに気づいた。切り口は違えど「男性優位で保守的で遅れた日本。そこで苦労する優秀な女性たち」を描く姿勢は、いつも同じだった。

 確かに米国と比べ、日本女性の社会進出は遅れている。本連載でも書いてきたように、管理職に占める女性の割合は低く、女性政治家も少ない。男性の長時間労働は夫の家庭参加を阻み、結果として主に女性が家事育児負担を負い、仕事と育児の両立が困難になっている。私が渡米したのは、日本に比べて格段に女性管理職が多く、男性の家事育児時間も長い米国から、現状打開のヒントを探るためだった。

 ちなみに、私が約10年仕事をしてきた日本のマスコミは男性優位の世界である。深夜勤務や休日出勤も当たり前。私も20代の頃は、終電を気にせず仕事ができるよう会社からタクシーで十数分の所に引っ越した。また、出産後も仕事を続ける女性は最近では増えてきたが、女性管理職は数えるほどしかいない。ダイバーシティーという観点からは、非常に遅れた業界の1つだと言えるだろう。

 一方で、部下の性別にかかわらず取材や原稿の書き方をみっちり指導してくれた上司のおかげで、仕事の面白さややりがいを感じるようになったのも事実である。私に仕事を教えてくれた上司の大半は男性だったが、相談を持ちかければ嫌な顔ひとつせず、時間を割いてくれた。職場に男性が多いからといって、その働き方や企業文化を全否定することはできない。

 

働く日本女性の一面しかとらえない記事も

 こういう環境で働いてきた私は、日本企業社会の良い面も悪い面も見てきたので、米国人が紹介する“日本女性の姿”は、決して日本女性全体を代表しているようには見えないこともあった。英文の記事や本に登場する日本女性には、偏向があるのだ。

 例えば、"Kickboxing Geishas"(Veronica Chambers著、Free Press刊)という本の著者は、舞妓の服装をしてみたり地方都市の音楽文化を体験したりと、日本に関して非常に丁寧な取材をしており、随所に日本文化へのリスペクトが感じられる。男子学生や進歩的な大人の男性の本音も描かれ、“日本の今”を適確に捉えている。

 著者は公平な目線で日本を描いているのだが、日本女性を描いた部分には納得のいかないところがあった。例えば保守的で男性優位の日本企業を嫌い、海外に活路を見いだしたとされる日本女性の取材記事があった。ここに登場する日本女性たちは、取り立てて有能ではなく、単に周囲との協調性がなかっただけなのに、自分の置かれた状況を日本社会の保守性のせいにしているように見受けられた。

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このコラムについて

 米ミシガン大学で、客員研究員として男女のキャリアについて調査をした筆者が、米国の研究やリポートなどの数値を基に、働く男女の現状や意識を再確認していく。 女性リーダーのための記事は「NBonline Women at Work」へ。

筆者プロフィール

治部 れんげ

1997年、一橋大学法学部を卒業し日経BP社に入社。「日経エンタテインメント!」「日経ビジネス」編集部を経て「日経ビジネスアソシエ」編集部所属。2006年7月より1年間、フルブライト奨学金を得て、米ミシガン大学 The Center for the Education of Women客員研究員として、「米国男性の家事育児参加と、それが妻のキャリアに与える影響」をテーマに調査や取材を行った。

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