誰のものか分からず「宙に浮いた」年金記録五千九十五万件について、社会保険庁が今月上旬に終了した名寄せ(照合)の結果を明らかにした。40%、二千二十五万件に上るデータが持ち主を特定できないまま残ったことが分かった。
政府が「名寄せを三月までに終える」としていたことを踏まえ、舛添要一厚生労働相は「約束は守った」と述べた。だが、公約が果たされたかどうかの問題ではない。宙に浮いた年金記録の持ち主を特定し、保険料を払った人がきちんと年金を受け取れるようにすることが目的である。未解明記録が二千二十五万件もある現状は、不安解消にはほど遠い。
社保庁は、コンピューター入力時の転記ミスや変換ミス、結婚で改姓した人などの未解明データを昨年十二月時点で千九百七十五万件としていた。相談業務などを通じて基礎年金番号との統合を進めたものの、千七百十五万件が残った。これとは別に、名前が入力されていなかった記録について氏名の補正を進めたが、補正できなかったか、できても内容の解明に至らなかった記録が三百十万件もあり、合計で二千万件を超えた。
今後、さらに紙台帳との照合作業を行うほか、政府は住民基本台帳ネットワークの活用に期待を寄せている。社保庁は宙に浮いた記録を基礎年金番号のデータと突き合わせてきたが、住基ネットのデータと照らし合わせれば、基礎年金番号を持っていない人からも新たな持ち主が見つかる可能性がある。
旧姓の記録については、基礎年金番号の記録を旧姓に置き換えた上で名寄せを行うプログラムが開発された。これらの手段でも分からない記録はインターネットなどで公示して、心当たりのある人からの申し出を待つ方針という。
名寄せ作業の結果が出たのを区切りに、政府は一層態勢を整え、考えられる限りの手段を尽くして年金記録の持ち主を探さなければならない。
一連の解明作業がいつ終わるのか、あらためて知りたいところだ。政府は再検討した上で信頼のおける目標期限を明示すべきだ。記録を最終的に持ち主に結び付けるため名寄せに続いて必要な「統合」の処理も進んでいない。終了までのスケジュールも示す必要があろう。
未解明の記録の中に、自分の記録が含まれているかもしれない。年金を受け取る側も自分の記録を自ら取り戻す意識で「ねんきん特別便」などを慎重にチェックしたい。
中国チベット自治区の区都ラサで大規模な暴動が発生し、多数の死傷者が出ている。一九八九年のラサ暴動を上回る激しさとも伝えられる。
ラサではチベット民族が人口の九割近くを占め、漢民族は一割程度だ。現地からの情報が限られているため詳しいことが分からないが、中国国旗を踏みつける光景などから中国政府の統治に対する抗議行動との見方がある。中国当局はチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ十四世による陰謀と批判し、ダライ・ラマ側は反論した。
五一年の中国人民解放軍チベット進駐で中国政府の統治が始まった。五九年の動乱でダライ・ラマ十四世はインドに逃れ、亡命政府を樹立した。八〇年代にラサで独立を求めるデモが頻発し、八九年の暴動では戒厳令が敷かれた。近年は経済支援による融和政策がとられ、二〇〇六年には自治区と青海省を結ぶ青蔵鉄道が開業している。
だが、中国政府はダライ・ラマとの対話は断続的に行ったものの高度の自治要求には見向きもせず、政治的には強硬姿勢を貫いている。今回の暴動がチベット民族の不満の表れとすれば中国新指導部のスタートや間近に迫った北京五輪をにらみ、国際社会の関心を集める狙いがあるのかもしれない。
中国は国内に多くの民族問題を抱える。中国の人権や宗教の問題に対する国際社会の視線は北京五輪を控えて厳しくなっている。ライス米国務長官は今回の暴動を受け、中国政府に対して過度のデモ鎮圧を抑制し、拘束したデモ参加者を解放するよう求めた。
中国政府の抑制的対処が望まれる。対応を誤れば国際的な信頼は低下しよう。ダライ・ラマとの対話などで問題抜本解決の道を模索すべきだ。
(2008年3月17日掲載)