2008年3月11日(火) 東奥日報 特集

断面2008

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■ 国会で武藤敏郎日銀総裁候補の所信聴取/株価低迷も空席の恐れ

 国会は十一日、次期日銀総裁候補として政府が提示した武藤敏郎副総裁から所信を聴取した。武藤氏は日銀の独立性確保などを強調したが、民主党は反対していた財務省出身の武藤氏提示に憤りを強め不同意を決めた。政府、与党は武藤氏再提示も辞さない構えで、双方とも対決姿勢を崩さなかった。株価低迷が続く中、総裁空席の可能性もはらみ、新総裁選びは混迷の度を増している。

 ▽既定路線

 十一日午後の参院議院運営委員会非公開質疑。「ミスター財務省と呼ばれていたが」と指摘され、武藤氏は顔色を変えて反論。「そう呼ばれるのは心外。私は副総裁を五年務めた日銀マンだ。そういって信じてもらえないなら姿勢で示す」

 民主党が重視する財政と金融の分離を意識した発言だったが、同党は夕方の役員会で不同意を決めた。

 実は不同意の方針は、政府が七日に武藤氏昇格案を国会提示する前に固まっていた。ある党幹部は、与党が二月末に二〇〇八年度予算案などの衆院採決を強行するまで「小沢一郎代表は多少党内ががたがたしても(武藤氏で)まとめるつもりだった」と明かす。

 「東大じゃない、文系じゃない、男じゃない、官僚じゃない…」。小沢氏は三日、武藤氏と親しい若手議員に総裁像を聞かれ同意条件を示した。「そんな人はいるのですか」と驚く若手に、小沢氏は岩手弁で「いるわけないっぺよ」と笑った。

 山岡賢次国対委員長も提示を数時間後に控えた七日朝、町村信孝官房長官に電話し「武藤氏昇格なら不同意」を伝えた。町村氏は「そんなこと言わずに何とかしてください」と懇願すると、山岡氏は「おれは何とかできる立場にない」と突き放した。

 ▽期待と自信

 福井俊彦現総裁の任期切れまであと八日。自民党の伊吹文明幹事長は「国会同意人事を形骸(けいがい)化し、政治的パワーゲームに利用している」と民主党を非難。二階俊博総務会長は「正常な判断をすることを期待しながら待ちたい」と述べた。

 町村氏は記者会見で、野党が過半数を握る参院で不同意が議決された場合、武藤氏再提示も選択肢と明言。「ベストの人選を提示した」と何度も繰り返してきた福田康夫首相の思惑を政府高官は「心の底から認めてもらえると思っている」と解説。首相周辺も「首相は自信を持っている」と強気を崩さなかった。

 ▽対抗馬なし?

 武藤氏の昇格は財務省の悲願でもある。前身の旧大蔵省は総裁ポストを日銀生え抜きと分け合っていたが、接待汚職批判も背景に日銀出身総裁が二代続いており「奪還」へかける思いは強かった。武藤総裁案提示にもOBと現役を合わせた「大蔵一家」が水面下でフル回転した。

 サブプライム住宅ローン問題などの影響で米国経済の後退期入りが現実味を帯び、株価が一万三〇〇〇円割れで低迷を続けるなど日本経済の減速懸念が強い局面であることも「武藤氏は金融行政に精通している」と大蔵一家を勢いづかせた。相次ぐ行政処分でメガバンクOBの起用も早々に消えており、財務省幹部は「最後は武藤氏しかいない」と断言する。

 だが、与党の国対関係者は「何も決められないなら大連立の方がましだ」と疲れを隠さない。首相は十一日夜、官邸で記者団にこぼした。「なんで悪いのか分からない。困っている」




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