救命士の再教育、病院からMC協議会にシフト

 救急救命士が資格取得後の再教育として受けている病院実習が128時間から48時間に短縮し、残りの80時間は地域のメディカルコントロール(MC)協議会が担うようになる。消防庁のMC作業部会は今月21日の救急業務高度化推進検討会に、救急救命士の再教育内容を充実させるための変更を盛り込んだ報告書を提出する。消防庁は通知の改正を経て、早期の実施を目指す。

 新しい再教育は、これまで128時間以上だった病院実習を48時間に短縮して実習内容を絞り込む。実習項目を▽安全・清潔管理▽基礎行為(血圧測定や輸液ルート作成など)▽特定行為(除細動やアドレナリン投与など)▽生命の危機的状況(呼吸不全など)への対応能力▽病院選定時の判断能力―に分類。病院選定時の判断能力については、疾患別に分け、脳卒中やアナフィラキシー、産婦人科救急などを学ぶ。これまで実習施設は救命救急センターやICUのある施設としていたが、ほかの救急医療機関などにも幅を広げる。
 MC協議会は残る80時間以上の再教育を担う。病院実習時に作成したノートをもとに、実習内容を把握。不足している内容について、医師がかかわることを前提にした症例検討会や集中講義、実技教育などを実施する。出動回数が少ない救急救命士など個人に応じた実習プログラムも提供する。

 救急救命士の再教育内容について検討してきたMC作業部会は、今月21日に救急業務高度化推進検討会に報告書を提出する。消防庁と厚生労働省は再教育内容の変更を盛り込んだ通知を来年度に出す予定。

■救命士の病院実習「人員のやりくりできない」
 救急現場で除細動や気管挿管、アドレナリン投与などの医療処置を実施する救急救命士は、資格取得後2年の間に再教育として128時間以上の病院実習を受けなければならない。特に最近新しく処置範囲として加わった気管挿管やアドレナリン投与については、旧カリキュラムで国家試験に合格した救急救命士の場合、それぞれの実習を受けなければ処置を実施できない。しかし、救急救命士の数が少ない地域では病院実習に出すと出動人員の確保が難しくなったり、教育体制が整っていない病院では見学のみになってしまったりするなどの問題が現場から指摘されていた。

 自治医科大学の加藤正哉准教授が国内の救急救命士1,533人に実施した調査によると、44%が128時間の病院実習を達成できておらず、実習をまったく受けていない救急救命士も11%いた。実習を受けられなかった理由としては、「人員のやりくりができない」が54%で最も多かった。都道府県別に見ると、128時間の実習を達成できているのは17府県で50%未満と、地域差があった。実習内容は「初療の見学」が94%、「蘇生介助」が88%と多かったが、実技がある「初療補助」は69%、「処置補助」は47%と経験率が下がった。加藤准教授は昨年5月に開いたMC協議会連絡会で、「都道府県で大きな差がある病院研修を是正するシステムを確立し、救急救命士の病院実習の質を担保する必要がある」と訴えていた。

 MC協議会は、消防庁が2001年度、救急隊員が病院到着前に実施する応急処置などの医療の質を保障(メディカルコントロール)するための協議の場として、医師や消防機関などのメンバーを構成員として都道府県や各地域に設置するよう求める通知を出したことが始まりだ。同時に救急救命士に対する128時間の再教育を求める通知も出たが、MC協議会が未整備のため、教育機関として病院を当てた。しかし、現在MC協議会は250か所まで増えるなど、MC協議会で救急救命士の再教育を担う体制が整ってきたため、消防庁は病院実習をMCの一環として位置付けるとする再教育内容の変更に踏み切った。


更新:2008/03/17 18:34     キャリアブレイン

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08/01/25配信

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医師の山田規畝子さんは、脳卒中に伴う高次脳機能障害により外科医としての道を絶たれました。しかし医師として[自分にしかできない仕事]も見えてきたようです。