東京に雪が降った。薄汚れた都会を覆い隠すかのごとく舞い降りた白い天使達。聞けば15年ぶりの大雪だという。
しかし新潟に三年住み、のちに仙台から上京した私にとってこれが大雪とはチャンチャラおかしい話だ。へそで茶が沸く、風呂が沸く。
東北に住む人間の生活にとって車は欠かせない。成人した四人家族なら一人に一台持っている。ビデオデッキも真っ青だ。上京前は我が家もそうだった。ビデオが青かったのではなく、家には免許の数だけ車があった。しかしその反面
、事故に会う確立も当然高くなる。かくいう私も凍結した道路でスリップ、そしてスリップストリーム。前から来た車とほぼ正面
衝突でコルサを地獄へとおいやった。
相方伊達みきおなどは会社員時代に高速道路での居眠り運転でスリップ、そのままリップスライム。ガードレールに激突し、血まみれのカリブは爆破炎上突破熱唱、カレーまみれの腕に50針の怪我を負う事故を含め、軽く二ケタの車をあの世送りにしている猛者だ。
私の場合無傷だったが精神的な後遺症は残り、レースゲームのドリフトの滑る感覚が事故の記憶を思い出す為しばらくできなくなるほどだった。それからは雪の日の運転が非常に怖くなり少しでも雪が降るとバスでバイトへむかっていた。人間嫌いの私はバスや電車が大嫌いだが仕方あるまい。ある雪の日バイトを終え、足元の悪いバス停で時刻表を見ていると背中に悪寒が走った。
『グア゛ァ゜ーッ!!』
完全に背中に雪が入っている!誰か知人のイタズラだ!とっさにそう決めつけた私はそいつを絞殺しようと『テメー!!』と両手をあげてふりむくとそこには知人の顏はなく、仕事帰りの人たちの長蛇の列が何事かという顏で全員こちらを見ていた。
パニックだ!誰が背中に雪を!?頭上を見上げた瞬間に謎は解けた。ちょうど頭上に電線があり、そこにたまった雪がスポリと綺麗に私のスカジャンの襟の中へ落ちたのだ。謎は解けた。しかし問題はこの上げっぱなしの両手だ!どうすればこの場を切り抜けられるのか?とっさに私の口から出た言葉は『ユ、ユキハフッテマスカァ?』
間違えていた。並んでいた全員に無視された私は何もなかったかのように前を向きコソコソと背中の雪を取り出した。
きっと顏は赤より紅く、白い雪との『紅白の美』は完成していたに違いない。雪が降るとその思い出と正解の言い訳を考えずにはいられない…。
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