バックナンバー2003年版

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熱さまシート 2003年11月24日(月)

おかげさまでだいぶ体調も良くなってきた私だが、病気になると常々思うことがある。相方のことだ。
熱を出す度に何故か相方のことが頭に浮かぶ。
なぜだ、なぜなんだ?実は最近その答えが出た。
私が愛用する「熱さまシート」のパッケージの絵の男がちょっと相方に似ているからなのだ…。

 

たけしの一週間 2003年11月20日(木)

11月12日(水)
バイト中から体がだるく、深い咳は肺をしめつける。草野球のスコア付けがはかどらない。帰って熱を計ると37度4分。やはり風邪か…。
11月13日(木)
何とか今日をのりきれば二連休だ。薬を飲んで寝て早く治さねば。しかし体がだるい…。
11月14日(金)
今日は一日寝ていられる。咳が肺と頭に響く。食欲が無い。37度5分熱が下がらない。
11月15日(土)
一向に体調は良くなるどころか悪化している気がする。おじやを作るが食えずに捨てた。38度2分やはり熱が上がっている。
11月16日(日)
二日間寝ていたが悪化するばかり。今日熱があればバイトは休み、明日は病院に行かなければなるまい。38度5分、か…。
11月17日(月)
寝れば咳地獄、起きれば熱地獄、39度2分…医者は言った「肺炎です…」
11月18日(火)
バイトも仕事もしばらくキャンセル。一刻も早く治さないと入院もありうる。薬で少し楽になり食欲も少し出てきた。
11月19日(水)
熱は下がり食欲も復活!しかし抗生物質の副作用でジンマシンが体を移動しながら増え体中がかゆい!久々に体を動かそうとした瞬間、「メキメキッ!」と腰からにぶい音が聞こえ、激痛と共に私は床に倒れた。ギックリ腰だ。友達よ これが私の 一週間の仕事です
トゥリャ トゥリ ャ トゥリャ トゥリャ トゥリャ トゥリャリャー
トゥリャ トゥリャ トゥリャ トゥーリャーリャー♪

 

 

「火を返してもらえますか?」 2003年9月9日(火)

人のライターを盗む奴がいる。
たばこを吸う時なんとなく近くにあるライターで火をつけ、無意識に自分のたばこと共にポケットにしまうのだ。私はこれをされるのが海の幸ぐらい嫌いだ。
海の幸はどれぐらい嫌いかというと海なんてなくなればいいのに、というぐらい嫌いだ。
別に寿司や刺身が世の中から消えても私は一切困らない。生まれつき魚貝類が受け付けない体の私にとって人と食事に行くことほど苦痛なことはない。
「たまには贅沢に寿司でも食うか!!あ、富澤いるからだめか…」
「へー!ここはカニが名物なんですか!?じゃあ、夜はカニ鍋でも…あ、富澤いるからだめか…」
「明日休みなんだろ?泊まってけよ。今日は…帰さないよ…!あ、富澤いるからだめか…」
「富澤!富澤いないのか!?あ、富澤いるからだめか…」食べなさいよ。食べればいーじゃない寿司でもカニでも。
「富澤いるからだめか」
軽くあなたがたは言うが「お前さえいなければ俺達は寿司を食えたのによぉ…チッ!」と私には聞こえている。「富澤が可哀想だから」などと食事を肉などに変える時「可哀想なのはお前らだ」と私は心で叫んでいる。
高校のラグビー部の試合で気仙沼に行ったことがある。ここはマギー審司さんの故郷でもあり自慢はモロに海の幸だ。夜の食事は当然魚貝類。皿にてんこもりにされた死んだ魚をバラバラにしたやつや殻に閉じこもったインドアな生き物を熱して無理やりこじあけた貝とかいうのをほおばる先輩や同級生をしりめに私は死んだ魚の横にある大根の細く切ったやつをおかずにもくもくと白米を食った。
それでいいのだ。はた目には可哀想に写るのかもしれないが本人は逆に「オイシイ」と思ってたりするのだ。もしこれから先、一生食卓に魚貝類しか並ばなくなったとしても私は横の大根を食い続けるだろう。そして大根もなくなって究極の選択をせまられた時、私は間違い無く死んだ魚より自分の死を選ぶ。
なぜ魚貝類が食べれないのだろうと考えた事がある。
幼少の頃にトラウマになるきっかけがあったのかもしれないが物心ついた時には既に食べれなかったし、母に聞いても思いあたるふしは無いと言う。たぶん私の前世が魚貝類だったのではなかろうか?
つまり何が言いたいのかというと、人のライターを盗むな青木サンシャイン!!!!!!!!
あ、たばこもなっ…!

 

泣いた富澤 2003年7月12日(土)

「うそだろ…最悪だ…」
たばこが値上げになって三時間が過ぎた頃だった。
トイレから戻りスタンドライトの明かりだけが照らしてる私の布団の枕元を見てそう言わずにはいられなかった。薄明かりの中で蠢く黒いシルエット。ヤ ツ ガ イ ル ッ !
ヤツの名は「ゴキブリ」。嫌われている。去年はフロ場に二回登場しド肝をぬ いた。そして今年は早くも七月一日から初登場ランクイン!何故突然出てくる?外にだって食べ物は沢山あるだろうに!?せめて現れる時はテーマ曲を流すなりして心の準備をさせてくれ。そして寝室はやめてくれ。私は瞬時に選択をせまられた。一つは見なかったことにする、一つは隣で寝ている百貫デブを起こして戦う、そしてもう一つはふすまを少しだけ開けて隣の部屋から殺虫剤で百貫デブごと闇に葬る、の三つ。響きで面 白いのは三番目だが二つの死体処理のめんどくささを考えると私は二番を選択した。
「伊達、起きろ!」
「ムニャムニャ…もう食べられないよ…」
「バカ野郎!食うんじゃねぇ!早く起きろ!逃げろ!」
「ん…何、なんなんだよ?」
「いいからそっち行って道具持ってこい!」
「何、何?!」
確か「コクローチ」という殺虫剤があったと思うがゴキブリが出た時、もし英語圏の外国人に「コクローチ持ってきて!」などと言ったら大変だ。ゴキブリは英語で「コクローチ」。彼は急いで「ゴキブリ」をもう一匹探して持ってきてしまう。テブは居間に移動しふすまを閉めようとした。
「だからふすま閉めんなよっ!」
「何だよ?」
「あれを見…あぁっ!」
夢であってほしかった。黒光りのアイツはこともあろうか私の枕と布団の感触を確かめるかのごとく、踊る様に何往復かした。
「速いっ!シャアか!?」
などと言ってる場合ではない。
「て、てっめーこの野郎、ぜってー許さねぇ!ブッこぼしてやる!」
何をこぼすのだ?私は興奮のあまり間違えていた。だがしかし手を出せない。今ここで、私の布団の上で殺虫剤を噴霧し私の布団の上でヤツがのたうちまわり私の布団の上で永遠におやすみになられることの衝撃にたえられるほどの強いハートを今の私は持ち合わせていない。両手に殺虫剤を持ちながら手を出せない私はさながら何もできない「男達の挽歌」だ。「フゥーッ…」相方は目覚めの一服をたしなんでいた。
「テメー休んでんじゃねぇ!武器持ってこっち来い、戦うんだよ!」
「それはなしだなー…」意味がわからない…。戦力外もいいとこだ。
寝室は「富澤ゾーン」と「伊達ゾーン」に分かれているが黒い彗星は富澤ゾーンに現れた。したがって私は慎重にならざるを得ない。ヤツの死に場所まで考え、私の私物に被害のないとこでしとめなくてはならない。布団はもちろんだが、PS2の上なんかで死なれたら黒いからどこにいるのかわからない。そして何より気分が悪い。なんとか紙袋の上におびきだすと私は一気に勝負に出た。三本の殺虫剤で、ん?三本?
「お前一人にいいカッコはさせないゼッ!」振り向くとシャバさ丸だしの百貫デブは完全に安全なのを見計らってトドメをさしに来ていた。
こうして三日が過ぎた。平和だった。深夜、メールの音で目が覚めた。「う〜ん…」私は暗闇の中を手探りでスタンドライトの明かりをつけた。
「うわぁーっ!!」
私の叫び声にストレイン伊達も目を覚ます。
「えっ、な、何?どうした?!」
古畑任三郎か?引退するボクサーか?闇の中でスポットライトに照らされたそこには、まるで明転板付きで始まるコントの様に「黒い彗星」が今まさにスタンダップコメディーを始めるがごとく私の枕元に仁王立ちしている…!!「もうやめてくれーっ!!!!!」
私の枕元にゴキブリがこう何度も現れるのには理由があるはずだ。
私の手によって葬り去られた仲間の「仇討ち」だ、と私は思った。「いや、違うな…」相方は続けた。「きっとお前と仲良くなりたいんだよ…」
「泣いた赤鬼」という話がある。
人間と仲よくなりたい赤鬼が青鬼に相談する。青鬼のアイデアによって、わざと人間をいじめてる青鬼の前に赤鬼が現れ青鬼をやっつけるという一芝居を打つのだ。案の定作戦は成功し赤鬼は人間の信頼を得て仲よくなるのだが、それが芝居だとばれたら赤鬼は人間の信頼を失う為、きっかけを作ってくれた青鬼は二度と赤鬼の前に現れることはなかった。赤鬼は泣いた…。という話だ。
青鬼の完璧主義には恐れ入るが、もし二匹のゴキブリが同じ作戦をとったなら赤鬼ゴキブリの登場は遅すぎる…。三日後って、バカなのか?そしてゴキブリが出た時点で泣きたいのは私の方だ。
最後にこれを読んでいるゴキブリ共よ、これだけは言っておく。私はお前らゴキブリと仲良くする気など微塵も無い…。そして、頼むから、仲良くしてもいいから寝室だけは勘弁してくれ…(T_T)m(__)m

 

仕事 2003年6月25日(水)

我々サンドウィッチマンは実は日テレ「ぐるナイ」に出ている。「矢部ベラ早口ステーション」という「矢部ベラ久米ベラ宏」に扮した矢部さんがニュース原稿と称した早口言葉を読み、読めなかったらバツゲームというコーナーだ。そのバツゲームとは、スタッフの格好をしたマッチョメンズが時にはハリセン、時にはパイ、時には蒸しタオルを手にベラかんだ矢部さんを「フクロ」にするのだ。その中に我々がいる。教育上よろしくない為そのシーンはあまり写 らないのだが…。
そもそも早口言葉の見本を言うスタッフ役のオーディションということで行ったのだが幸か不幸かこのガタイのおかげでマッチョメンズに選抜されたのだ。
収録日、待ち合わせの日テレ「なんだろうショップ」前にいると我々より一回り大きく、ボディを美麗にビルドアップさせ、筋肉誇示に命をかけた人々が次々に集まって来る。確実にそこだけ二度は気温が上がっているであろう暑苦しさだ。たむろする筋肉。はたから見ればこれこそまさに「なんだろうショップ」だ。
人数に見合わない狭い控え室に通されるとスタッフが言った。
「こちらに着がえて下さい」見ると白い布とたび。
「え、これは?」
「サラシとふんどしです。あ、あとこれが前バリですのでテープでとめてください」サラシとふんどし。そして前バリ…。
私は頭の中で何度かつぶやいてみた。前バリ…。噂は聞いていた。ドラマや映画で男女のカラミのシーンで役者がつけるという前バリ。芸能界にはかかせない前バリ。夢にまで見た前バリ。私は前バリとはプロ野球選手がつけるようなプラスチックなどでできたカップのような物だとばかり思っていたが実際は前と後ろを隠すナプキンの様な形でストッキングみたいな伸びる生地の物だった。着がえの為、目の前に突き出される筋肉とチン肉、ケツ。なんだこれは。ピカソの絵も真っ青だ。しかし、オールバックでサラシにふんどし、ハチマキに白たびをまとったボディビルダー達は実に絵になる。漢と書いて「おとこ」だ。
だが、はしゃぎだしたビルダー達はお互いにポーズを取りながら写 真を撮り始めた。はたから見れば「なんだろうショップ二号店オープン初日」だ。私はシリにくいこむ前バリを気にしながら収録スタジオへと向かった。
何十回と繰り返されるリハに私の前バリは悲鳴をあげているが、既に相方の前バリはおたけびをあげ完全にズレている。「矢部ベラかんだーっ!!」叫ぶ度に私の前バリはその役目を放棄していく。
しばらくすると、「さぶ」の表紙を飾れる男達の鋼のボディに汗が光り始め、誰かのワキからは男女共通 に所有する「男の香り」がたちこめる。吐きそうだ。意外と繊細な私は胃からこみあげる物を口の中で押し戻す。「嘔吐リバース」でその場をしのいだ。
本番。相方は前バリをずらしながら貪欲に、そして常に一番最後に矢部さんの頭を狙う。私の頭の中では既に番組などどうでもよくなっていた。今一番大事なのは前バリがズレる違和感との戦いだ!ここまでくるともう前バリがメインだ。きっとこれを読んでいるあなたもそう思ってるに違いない。前バリが勝つか私が勝つか、私も、そしてあなたも、前バリありきでの自分なのだ、と。
本番終了。終電の時間が無い為、我々は急いで電車に飛び乗った。
終電一本前の電車は満員とまではいかないまでも混んでいる。見渡す限りふんどし一丁にサラシ、はちまきに白たびの客は我々二人だけのようだ。電車が揺れる度に前バリを押さえているテープがはがれかける。強力なテープの粘着力で、デリケートな体毛を飲み込みながら前バリは我々から独立しようと身を躍らせる。その激痛が走る度に我々の口からは思わず「矢部ベラッ…!」と言葉が漏れる。
駅に着いた時には私達の前バリは背中にまで移動していた。
家に着き、私は間違えて買ったホットコーヒーを胃に流し込んだ
窓の外を見ながら同じ様な初夏の日のことを思い出していた。
五年前の夜、仙台駅を出た高速バスには二人の男と期待と不安が乗っていた。色眼鏡の男が言った。
「でもなんかさぁ、脱ぐ仕事とかはしたぐねーさねぇ?」
間違えて買ったホットコーヒーを一口飲んで男は答えた。
「そんなんあったりめーだっちゃ、ぜってーやんだよ…」
二人は窓の外しか見てなかった。普段何も考えず車で走っていた景色を目に焼きつけていた。いつもと同じはずのネオンがやけにノスタルジックに、けやきの木がセンチメンタルに感じられた。バスは思い出の店も場所も無視して容赦無く加速した。「東京」を目指して…。
あれから五年の月日が立つ。
今ある私達の仕事は、毎回『裸で』体当たり!雑誌「宝島社 遊ぶDVDアンドCDロム お笑い風俗リポート」とマッチョメンにまざって『ふんどし一丁で』ナイナイ矢部を襲う!日本テレビ「ぐるぐるナインティナイン 矢部ベラ早口ステーション」だ…。

 

朝歩く 2003年5月14日(水)

私の住んでいるアパートは一階の角部屋で三方をすぐ家で囲まれているため日ざしは皆無と言っても過言ではない。家同士が近すぎてうっかり手を伸ばすと隣の家の住人の鼻にすっぽり五本の指が入る。
家同士は胸ほどの高さの壁で一応さえぎられているが、このわずかな家同士のスペースが問題だ。
早朝決まった時間になるとこのスペースを蜂らしき虫が通る。この五年間、姿は見たことはないがブーンという、わりとおおきめな虫の羽音が朝を告げる。果 たして蜂なのか?気にはなるがいちいち起きあがって見る気にはなれないしどちらかというと蜂なら危ない。待てよ、ということは蜂の巣が近くにあるのか?蜂には嫌な思い出がある。昔、実家の玄関に拳くらいの蜂の巣ができ、洗濯物にくっついては夜中に家の中を蜂がとびまわるというプチ恐怖があった。それだけならまだいい。はいたズボンの中に蜂がいたことがある。
想像してほしい。太もものあたりであの超攻撃的な『ブーン』という音が聞こえるのだ。それが『何か』わかった瞬間にチクッと激痛が走る。
潰さなくては!
でもそれを押しつける対象は『自分の足』なのだ。どうしたら…チクッ!二回目の激痛が足を襲う。
私が必死なら蜂はもっと必死だ。なんとかズボンを脱いだ私はショックで戦意喪失しヒロシを呼び始末してもらった。異端とされたジャンヌダルクのごとく見せしめとして蜂は煙になっていったが私の脳裏にこびりついた恐怖は消えることはない。話はそれたが、だから蜂だとしても私は見ない。そして次に聞こえるのはバッサバッサという羽音と庇(ひさし)の上を歩くカツカツという音だ。おそらくカラスと思われる鳥類がやってくる。なぜそんなせまいスペースをカラスが?二階の奴が餌付けでもしているのか?それとも誰か死期の近い人間でもいるのか?本当にカラスなのか?実に気持ち悪いがそれだけでは終わらない。
家同士をさえぎる壁を黒猫が一日何往復もするのだ。往復は勘弁してくれ。黒猫に横切られると不幸が訪れる、と聞く。別 に迷信を信じるワケではないが気分のいいものではない。
テレビを見ていて視線を感じると壁の上からジーッと黒猫が見ていることがある。一回通 りすぎて何かに気づいた様に戻って来て見ることもある。見すぎだ。一度ハムをあげたらいなくなったが何分後かに違う猫が来てまた私を見ている。ここはどれだけ獣道なのだ?それとも猫の目から見て私はイケメンなのか?猫まっしぐらタケシ。
いや猫がメスとは限らない。じゃあホモか?猫のオスにだけわかる哺乳類界のダンディズム。いや、いらないそんなフェロモンは。だが猫好きの私はまた壁にハムを置こうとひょいっと投げたら勢いあまって隣の家にハムは消えていった。猫はくるりと身を翻すとすみやかに立ち去った。食わねーんだハム…。蜂、カラス、黒い猫。家同士の狭いスペースを通 る不吉の象徴達は何を意味するのだろうか?。毎朝、死に限りなく近い誰かの様子を見に来ている、やはりそんな気がしてならない。時計は朝八時。そろそろ寝ようとすると玄関のチャイムがなった。こんな時間から一体誰が?ドアを開くと私の目に黒猫が飛び込んできた。大きな荷物を持った黒い猫の男は言った。
『おはようございまーす!宅急便でーす!』母から救援物資の食料が届いた。どうやら今月も私は死にそうにもない…。

 

音 2003年5月7日(水)

『ガサガサッガサッ』その音に気づいてはいた。
しかし隣でバービーボーイズの曲にリズムを取る相方が何かにふれてる音とばかり思っていた。
時計は深夜四時をまわっている。
暗闇でテレビモニターだけが光り、その中では私の操作するアイバーソンがクロスオーバーからダブルクラッチを決め観客をあおっていた。
『ガサガサッ』また聞こえた。
しかし相方にもこの音は聞こえているはずだ。聞こえているのに無反応ということは本人がその音の正体だからだ。私の脳ではそう解釈しようとしていた。だが、一つおかしいのはその『音』が窓側の上の方からすることだ。曲がサビに入ろうかという所で相方が突然演奏をやめた。何かを確認しているかのようにしばらくジッとしている。『ガサガサッ』確実に相方ではない、別 の『何か』がその音を出していた。
てっきり相方だと思っていた私はその刹那、意識のスイッチを戦闘モードに切り換えた。異変に気づいた相方が明かりをつけた。その瞬間信じられない物が私達の眼に飛び込んできた。
たばこの箱ぐらいはあろうかという巨大な『蛾』が、その醜い羽から粉状の物を噴霧しながら私達の寝室の窓際をあの独特な飛行法で飛んでいるのだ!!
『うわっ!』私の叫び声にメガネをかけておらず、何の虫がいたのかわからない相方は危険を察知したのか軽く身を翻すとリビングに移り静かにふすまをしめた。
『何?!ゴキブリ?!』
『いや、でかいガだ!』
『…。』
そっとふすまが開きその隙間からポーン、と何かがこちらに投げられた。手に取ると、白と青と赤のオランダ国旗を思わせるその缶 は『殺虫剤』と書かれていた。この缶一つで飛び箱ぐらいある蛾とタイマンを張れというのか!?あまりに無策すぎる。
『いやいやそうじゃないっ!』などと言いつつ私も一時リビングへと退避した。
『バカヤロー!こんな適当な対応があるか!』私はDFラインからロングボールを放り込み、あとはFWまかせの『イタリアサッカー』的な応対に憤慨した。
『だって虫嫌いなんだもん…』ファーブルじゃあるまいし私もこの年で虫が好きなワケがない。仮に好きだとしても相手は蛾だ。私も我は強い方だが蛾とワキガには弱い。しかし相方が戦意喪失した今、戦えるのは私しかいない。ゴキブリ用の殺虫剤を手に私はふすまをあけるとゲタ箱ぐらいはあろうかという蛾が私のプレステ2で熱チュープロ野球をしていた。
『おいテメー、蛾の分際で何やってんだ?!うす汚ねぇその手を放せ、このにぎり金玉 が!』虫は私の忠告を無視してペタジーニでツーランホームランを放った。
『てめぇーナメやがっ…』私がセリフを言い終わる前にティッシュの箱くらいある蛾は私めがけてそばにあった何かのフタを投げてきた。
『ぐおっ!』それは額を直撃し私の眉間はフォッサマグナの様に真っ二つに裂け、おびただしい量 の鮮血が壁に飛び散った。『いい材質使ってんじゃねぇかぁ、あ?』言いながら私は迷っていた。このうすらハゲの横っツラを一発でいい、おもいきりブン殴ってやりてえ。だが、そうすると粉みたいなのが手に付くから嫌だ。手に…ハッ!そうだ、私の手には『殺虫剤』が握られている。
『これでも食らえっ!』噴霧される毒の霧はさすがに嫌だったのかキャパ70の箱くらいはある蛾は羽をばたつかせた。その風により毒霧はベクトルを変え、全て私の口の中へと吸い込まれていった。
『ゲホッゲホッウエッ』あの羽をなんとかしなくてはやられる!
『チェストーッ!』蛾の後ろにまわりこみ羽は押さえた!が、完全に掛け声は間違っていた。よし殺虫剤を!バシッ!あっ!殺虫剤はテレビの裏へとにころがった。しまった!
『伊達っ!』
『ん?』リビングで横になってVシネを見ている相方がめんどくさそうにこちらを見た。
『それで、そのチャカで、こいつを打て!!』
リビングのこたつの裏にはもしもの為にガムテープでトカレフがとめてある。
『でもそんなことしたらお前が!』
『俺のことはいい、俺のことはいいから早く俺ごとこいつを打て!!』
『できねぇ、俺にはできねえよ!』
『馬鹿野郎!時には友達を見捨てることが友情になることもあるんだよ…』
『でも…』
『いいから早くっ!』
『うぅっ』
『打てーっ!!』
『う、うわーっ!!』ズキュン、ズキュン、ズキュン!!
発射された弾丸は私の顔にむけて放たれた。手の平サイズの蛾は自分で窓を開けて飛び立っていった…。
薄れていく意識の中であの羽の音だけが響いていた…。

 

アルバイト 2003年5月1日(木)

 我々の様ないわゆる『売れてない若手芸人』にとっての収入源は『アルバイト』が主 だ。
『アルバイト』がドイツ語だと数年前に知ったが、言われてみればドイツ語っぽい。ぽい、というかドイツ語なのだからドイツ語っぽいのは当たり前だ。バイエルン、ハンブルガー、アルバイト。
 なるほど何となく共通する物がある。タモさんばりに発音してみたくなるよね?二つ、三つかけもちしてる芸人も少なくない。この世界は急に仕事が入る為、バイトに穴をあけがちでクビになることもしばしばだ。そんな星の数ほどあるバイトだが、うまくハマれば融通 もきくしそれなりに続けられる。私は人の車を誘導、管理するバイトを地元にいる頃からしているが芸歴より駐車場管理歴の方が長い。だが、望もうが望むまいが自然にシフトの一番上に名前が来て知らないうちに『責任』が重くなってることもある。私もそうだ。そしてそこで私は今やプリンスだ。
  いや、『駐車場の王様』と人は呼ぶ。王様とてたまに暴力団の皆様に殴られたりもするが絵的に面 白いからそれもアリだと思っている。そんな『富澤独裁政治』を敷くバイト先だがココは少々頭がオカシイ人間じゃないと勤まらないようだ。そんなある日、急遽就職が決まり頭のオカシイ二人がやめた為、あわててバイトを募集したのだが来たのは55歳の男性。駐車場と言えばわりと定年退職後に勤める人が多い為か初老の白髪頭の方が多かったりする。だがなにせここは敷地が広く運動量 と『独自のファンタジー』が必要とされる為、年配の人は続かないのが大半だ。
  歩いて二、三分のとこに住むという新人のおじさんはおしゃべり好きのようで色々な話を何回もするのだがいかんせんジェネレーションギャップを感じずにはいられない。 『一期一会』という言葉があるがクソ食らえだ。すぐやめる人間が多い為できれば私は新人に仕事を教えたりしたくないのが本音だ。はたしてこの人に勤まるのだろうか? 半信半疑で業務を教えていると突然『オエーッ!』と、おじさんは嘔吐し始めた。『すいません、死ぬ んですか?!』急に死ぬタイプは勘弁だ。
『やっぱりさっきのおいなりさんくさってたな…ちょっと匂ったからねぇ…』気づいてたら食うな。今日はもういいですよ、とうながすと『いや吐いてだいぶ楽になったからだいじょ、オエ〜ッ!…帰ります…』帰ったし研修中に嘔吐する奴は帰れ。私の中であだ名は『オイナリさん』に決定した。そしてあの人なら続くな、と、帰路に着く後ろ姿を見て思った…。

 

雨後青木サンシャイン 2003年3月27日(木)

青木サンシャインがついに我が家を退去した…。六日間…。六日間だ!わかるか皆の者よ、我々のシックスデイズウォーが?!
眩しい光を直視した後に眼に光の残像が残るがごとく、ベッドの上で愛みたいなことをしたあの娘のシャンプーの残り香のごとく、私の鼓膜には青木サンシャインの声がかすかに残る。『兄さ〜ん』、『違うんですよ、これっていうのは…』、『あーちょっとコレ見てくださいよ!』『違いますよ、何言ってんですかバカじゃないんですか?』
伊達ニモマケズ、弾ニモマケズ、熱イパンチニモマケズ、丈夫ナ体ヲモチ…。私は青木サンシャインとは同期の桜だ。私は21歳でゆやゆよん、サンシャインは20歳でモランボンとしてお笑いを初め、仙台吉本で共に『虎の穴コーナー』を闘った戦友だ。コンビニのバイトの夜勤開けのその足で私のバイト先にきて8時から17時までしゃべり続けた青木サンシャイン。一足早く東京に出てポプラ並木として電波少年的アルマゲドンに出演し、脱走した時も朝五時に我が家を訪れてしゃべり続けた青木サンシャイン。ホリプロをやめ我々のいるHR事務局に流れついてしゃべり続ける青木サンシャイン。私達の横には常にしゃべり続ける青木サンシャインがいた。我が家に来る度に青木サンシャインは物マネを覚えて帰る。今回は『獅子舞』と『レッツダチ公で殴られた奴の顔』をマスターしたようだ。違う!そうじゃない!間違ってるぞ青木サンシャイン!!
見る見る髭が伸びるぞ青木サンシャイン!!大人しくなったと思うと顔がうるさいぞ青木サンシャイン!!青木さん手淫!!ソウイウ者ニ私ハナリタクハナイ…。

 

青木サンシャインの部屋 2003年3月25日(火)

青木サンシャインがうちに来て五日目になる。寝ている青木サンシャイン。しゃべっている青木サンシャイン。阿修羅マンと青木とサンシャイン。青木サンシャイン。夜なのに青木サンシャイン。スペイン三大祭りの一つ、『火祭り』と青木サンシャイン。アルバイト、正社員、青木サンシャイン。青木さん、車輪。色んな青木サンシャインを見た。料理する青木サンシャイン。料理される青木サンシャイン。『熱い物に触る』青木サンシャイン。『熱い風呂に入る』青木サンシャイン。ぶん殴られる青木サンシャイン。寂しそうな青木サンシャイン。嬉しそうな青木サンシャイン。新モノマネ『獅子舞い』をマスターした青木サンシャイン。生活の一部、青木サンシャイン。一家に一台、青木サンシャイン。いつまでも帰らない青木サンシャイン…。

 

青木サンシャインの部屋 2003年3月24日(月)

青木サンシャインがうちにに来て四日目になる…。
『安い床屋に髪を切りに行く』というだけでなぜ四日もいる?すでに床屋には二日目に行っているのにもかかわらずにだ。携帯の充電などとっくの昔に切れ、連絡がとれず心配をかけている人もいるはずだ。なぜだ!?なぜ帰らない青木サンシャインよ!?でもいつもと違う事が一つある。寝るのだ。とめどなく寝るのだ!あの、眠らない街と言われた青木サンシャインが!!こんなことは今までなかった。やはり青木サンシャインと言えど年には勝てぬ のか?だがなサンシャインよ、寝る時は明かりは消せ。エアコンも消せ。ビデオもテレビもだ!!全部つけっぱなしで寝るな!うちの家電はお前のソーラーパワーで動いてるわけではないのだ!何回早朝に起こされればいいのだ?ジュースを床に置くな。携帯も眼鏡もだ!なぜ帰らない?なぜ帰らないのだ!?風呂に入ってる間に伊達にパンツの肛門プレイスにマヨネーズをぬ りたくられて気づかずに履き、また風呂に入る青木サンシャイン。ゲームをしている私にしつこく話かけた為にモデルガンで容赦無く撃たれた青木サンシャイン。なぜ帰らない?なぜだ!?そして伊達よ、寝言で『ふーちゃん!』と青木サンシャインを呼ぶな!
それに『はい!』と青木サンシャインも寝言で答えるな!起きてる私は気持ち悪い!なぜだ?なぜ帰らない青木サンシャイン?!お前がそう来るのなら私が実家に帰ってやる…!

 

機種変更 2003年2月24日(月)

やっとピッチ、いや、ハイブリット携帯の機種変更をした。
何人にも連絡をまわしたりするのであまりにメール代が高くつく為、おもいきってメール使い放題の機種に先行投資してみたのだ。これでも電話料金が高くつくならD社と「俺」が合併して何とかしなければならなくなる。
携帯に比べると着信音はいささかショボいが、何といっても嬉しいのは自分で声や音を録音して着信音にできるところだ。今回はメールの着信音を「時限爆弾大爆発」音にしてみたが、派手な音のわりに来たメールは「了解。」だけなどギャップがあるのが非常にマヌケで心地良い。
前回の電話では哀川翔の声をVシネマから録音して着信音にしてみたのだが、電話がくる度に少し高めの声で「てめえ…」などと言われると気分が悪くて出る気がしなかった。さらに昔の電話では「ゴッドファーザー愛のテーマ」をアカペラでおもいっきり歌って入れてやったのだが、これは恥ずかしかったがやめられなかった。もう、止まらなかった。
ある晴れた日、私はショッピングモールに当時の彼女と買い物に出かけた。クリーム色のマークツーを屋上駐車場にぶちこみ、カップルや親子連れでにぎわう満員のエレベーターへ彼女をぶちこんだ。人嫌いの私は満員に対する怒りのオーラを隠すことなくエレベーター内にまき散らした。
幼い子供は本能でそれを察知し恐怖で今にも泣き出しそうになり、両親は戦時中の様に必死に子供の口をおさえた。しかしエレベーターというのは不思議な空間で、なぜかしゃべってはいけない様な独特の雰囲気がある。黙してかたらず、ただただ現在階を示すランプが移動するのを見つめるのが「最善の作」がごとく全員が光を凝視する。
「♪ラーラーラー、ラーラーラーラーラーラーラーラーラ〜…」
突然、静寂を切り裂いて「富澤たけしで『ゴッドファーザー愛のテーマ』」が満員のエレベーターに流れ出す!しまった、私はハイブリット携帯をマナーモードにするのを忘れていのだ!だが、あえて私は完全に「シカト」をきめこんだ。スピーカーから流れ行くテノールの「私のゴッドファーザー」が満員のエレベーター内に鳴り響く! 突然の出来事に乗客はパニックだ!!
緊張の糸が完全に切れた子供は泣き叫び、その両親は激しくお互いを求め合い、初々しく見えた若いカップルはお互いの手をロープで縛っている。友達同士の男二人はお互いの服に火を放ち、母娘の親子は心の奥底にある汚い、ドロドロとした物を吐き出すかの様に殴り合う。老婆は数珠を手に祈りを捧げ、西から昇ったお日様が東へ沈む。「修羅場」?「地獄絵図」?その絵的にはどんな言葉がベストだったかは私には定かではないが、まごうことなくBGMは「愛のテーマ」だ。
「チーン!」二階。
ドアが左右に開く。視界が開ける。「もしもし?」私は何事も無かったかのように電話を取り、彼女とエレベーターを降りた。電話を切るとふいに前を行く彼女が振り向いた。次の瞬間、彼女はこぶしを振り抜いた。私はスローモーションで床につっぷすと同時に「ブチブチッ!」ワイヤーの切れたエレベーターが断末魔の叫びと共に急降下していく。私のハイブリット携帯からはメール着信を知らせる「伊達みきおと富澤たけしで『金鳥水性リキッドの唄』」が悲しく流れていた…。

 

心霊mail 2003年1月13日(月)

Eメールってやつを使うようになって結構経つが、実に気味の悪いことが起こる。皆さんもたまにお化けは本当にいるのか?とか心霊現象について話をしたりすると思うのだが、私がたまにそういう話に夢中になると夜中に知人に私のアドレスで送ってもいないメールが届いたり、逆に私に届いたりすることがあって非常に怖い。
この前は知人と霊がいるいないの話をした日の夜中に、話とは全く関係ない奴から「いないよ」とだけ書かれたメールが来た。意味がわからないので「何これ?何がいないの?」と返信すると、私のアドレスで「いるよ」とだけメールが来て意味がわからないからとりあえず「いないよ」と返したという。青空球児好児師匠でもあるまいし「いるよ」なんてメールはもちろん私は送ってないのに、だ。こんなことが二回くらいあった。霊について話す度にメールが来る。最近携帯で「メールが0円!」などというサービスがあるようだが、「霊園からのメールサービス」なんてありがたくない。月いくらなんだ。ちなみに私はメールのみで一ヶ月に通 話料が一万円を越える。全くもって気がmail話だ…。
こういうのはお嫌いですか?

 


 


 

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