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ひろゆき氏が考える、ニコニコ動画と日本の目指すべき方向性とは |
ねこ鍋、初音ミク、THE IDOLM@STER――2007年にネット業界で大きく話題になったこれらは、いずれもニワンゴが運営する動画コミュニケーションサービス「ニコニコ動画」で人気に火がついたコンテンツだ。
ニコニコ動画は、ユーザーが動画を投稿し、その再生画面上に別のユーザーがコメントを書き込んでいくことで、ユーザー間で盛り上がれるサービスだ。2006年12月に試験サービスを、2007年1月に本サービスを開始。当初はYouTubeなど外部サイトの動画にコメントを付けられるサービスとして開始したものの、アクセス数が伸びすぎてYouTubeから接続を遮断される事態に。その後、動画投稿サービス「SMILEVIDEO」を2007年3月に自社で開始し、1年後の2008年3月には会員数が560万人に達した。年内には1000万人規模にまで拡大する計画だ。
CNET Japanではニワンゴの取締役管理人であり、2ちゃんねるの管理人「ひろゆき」としても知られる西村博之氏に、ニコニコ動画が人気を得ている理由や運営のコツ、開発秘話などについて聞いた。今回は、ニコニコ動画誕生時の話や、目指している将来像、西村氏がこだわっている部分、さらには日本が目指すべき方向などについての話を紹介する。なお、前回の『ひろゆき氏が明かす、「ニコニコ動画が人気な理由」と「コミュニティ運営のコツ」』ではニコニコ動画というコミュニティを運営する上での鍵について語ってくれている。
数年前に、携帯電話アプリで2ちゃんねるの実況板をテレビ番組と連動させて流すという実験をしたことがあって、その頃からテレビ関係のものは何かやると面白そうだよね、という話はしていたんです。
「YouTubeでいいんだ」というのが僕にとっては割と面白かったですね。当時、YouTube以外の動画サービスはまだあまり普及していない頃で、僕はテレビと(実況板のコメントを)どうくっつけるかというのを考えていたんですね。テレビだと、同じ番組でも地域によって放映時間が違っていたりするので、関東圏の人はみんなで盛り上がれるけれども地方の人はまったく面白くない。2ちゃんねるの実況板の問題はそこにありました。
で、YouTube実装版をみて、「あ、時間は関係ないんだ」って。それですごいなと。関東限定でしかできないと思っていたサービスが世界中でできるじゃないかと思いました。
その頃はこんなに大きなサービスになると思っていなかったから、あまり細かいことは覚えていないんですけどね。
当時のYouTubeの国内ユーザー数が確か1000万人いないくらいで、その3分の1くらいはいけるんじゃないかな、とは思っていました。そもそもまだYouTubeの日本語版がない頃だったので、「YouTubeというものが流行しているらしいけれども、使い方が分からない 」という人がいる。検索しても英語のものと日本語のものが混ざって出てくるし、面白いものがどれだか分からない。初めの頃のニコニコ動画はYouTubeなどの動画のうち、日本人が面白いと思うものだけが登録されていたので、フィルタリングがされていたんですよ。だもんで、割と面白がられて使われるんじゃないかという期待はしていたんですけれど。いまやぜんぜん違うサービスになりましたけどね。
まぁ、YouTubeに(接続を)切られたことだと思うんですけど(笑)
YouTubeがなかったら、今こうなっていなかったですしね。しかも良いタイミングで切られたので、余計大きくなったっていう(笑)。あのタイミングは今考えると切られて良かったと言えるのかもしれない。
多分YouTubeのままだったら、初音ミクのようなブームだったり、ユーザーがいろいろ曲作ったりということは生まれなかったと思うんですよね。「YouTubeにある素材を楽しもう、僕らは別に作り手じゃないよ」というのが最初のニコニコ動画の概念で。それよりもやっぱり今のほうが僕は面白いと思っているので、そこの文化を作れたのは、YouTubeに切られたからなんですよね。そういう意味では、変な組み合わせですけどYouTubeには感謝していると。
僕が前面に出ないようにいろんな人を前に出して、僕は何もやらなくて良くなったという、おいしいポジションをゲットしたんですけど(笑)
元々僕がやっていた作業も、そんなにないですからね。会議で茶々入れたりとか、「それはこっち側にいくと失敗しますよ」とか「これはこうしたほうがいいですよ」というアドバイスをたまにする程度で。
たとえば、SMILEVIDEOを立ち上げたばかりの頃に、これは10万人くらいしか見られないからログイン制しかないよね、という話になって、ユーザーが10万人を超えたら登録できないようにしよう、という話だったんです。でも、そのまま登録させていって、徐々に利用できる人数を増やしていったほうがいいよ、という話をしたり。
あとは、メディアにはなるべく出たほうがいいですよ、というアドバイスをしつつ、出る人がいなかったので仕方なく自分で出ていたというのはありますね。
言葉でニコニコ動画を説明して面白いと思える人はあまりいないと思うんですよ。
「動画があって、文字がかけるんだよ」
「あ、そう」
っていう。そうすると、面白いと思ってる人を見せたほうがいい。Wiiの広告が近いと思うんですけど、Wiiってゲームの画面だけを見てても、グラフィックはしょぼいじゃないですか。でも、動いて楽しそうにしている人を見て、面白そうだなと思う。
ただ別に僕、ニコニコ動画について面白そうに語っていたわけでもないと思うんですけどね(笑)。何かがきっかけでニコニコ動画を見てみようと思ってもらえればよくて、そのきっかけはメディアに誰かが出て説明するのでもいいし、ニコニコ動画で何かが流行していたりでもいい。2006年の1月ぐらいに僕の失踪騒ぎがあって、それについての話を動画で上げます、みたいなしょぼいことをやったりとか(笑)。そういうきっかけづくりを一生懸命やってたというのはあるかもしれないですね。
例えば「検索エンジンを作ります」という場合は、社長が「検索エンジンを作れ」と技術者に言って、でき上がってきたらサービス完成なんです。でも、ニコニコ動画って技術者が場を作って、そこに動画を載っけるユーザーがいて、その動画に対してコメントをつけるユーザーがいて、初めて場として回りだすんですよね。
そうすると、何を目指すべきなのか、それをどういう風にしたら面白いと思うのか、というのを、動画をアップロードするユーザーとコメントをするユーザーに対して伝えなければいけないんですが、直接そのまま言っても伝わらないと思うんですよね。
で、どうするかね、と思ったら、ものすごい回りくどいのが届いて、もう、それでいいんじゃないって(笑)。あの頃にニコニコ宣言を初めて見た人は、みんな「なんだこりゃ」っていう気がしてたと思うんですけど、10年後ぐらいに「ああ、こういうことが言いたかったのね」って思ってくれればいいかな、と。
かなり要素が多すぎるので複雑なんですよね。技術者が「こうしました」と言って、動画職人もそれに合わせた、でもコメントをする人が合わせなかった、っていうと、それは成り立たない。だから、どっちを目指すべきかというゴールを僕らが決めることもできないし、どこにあるのかもよくわからないんですよね。
僕らがコントロールできる要素とできない要素があって、コントロールできない要素のほうが、ニコニコ動画の未来に与える影響が大きいというところが面倒なんじゃないですかね。似たような例があんまりないので、説明しづらいですね。
2ちゃんねるは別に僕、止めないですから(笑)。行き過ぎた人が警察に捕まるっていうだけ。あ、ここはこれ以上はいけないのねって。
ニコニコ動画には一応それなりの予算がかかっているので、ビジネスという落としどころに最後は行かないといけないというのがスタッフの総意としてある。でも、そこに向けようとし続けると、ユーザーはぷいっと別のところを向いてしまうので、そうならないようにどこでバランスを取るかだと思うんですよね。
面白くなる要素があるかどうかですかね。ニコ割を使った連続ドラマというのをちょこちょこやっているんですが、脚本をユーザーに書かせちゃって、初音ミクが喋るような形で募集したりとか、そういう感じで使うのはありかな、という気もするんですよね。
結局、正解が分からないということなんですかね。検索だったら「キーワード広告を出せばいいんじゃね?」とかあると思うんですけど。
大多数というか、多数派の人が面白いと思える場所であればいいと思いますけど。少数の人が「すげぇこれ面白い」といっても、みんなが「つまんない」といったらその人たちしか残らないので、なるべく多数の人たちが「あそこはそれなりに面白いよね」っていう場ですね。
少数の人がつまんないと言うのはアリだと思うんですよ。すべての人が満足するというのを狙っちゃうと個性のないサービスになっちゃう。ニコニコ動画の場合って、PTAが「こういうサイトはけしからん」と言っても、「知るかボケ」っていうのがポジションなんですよね。僕らにとってPTAは少数派なんですよ。文句を言う人はいる。それは、僕らが面白いものがみんなにとって面白いわけじゃないから。
で、文句言うやつは来なくていいんじゃね?、と。ただ、「来なくていいんじゃね?」というのを少数の人たちが言っているようなものは、どんどん廃れてしまう。多数派が「あいつら変なこと言ってるなぁ」と思っている限りは、どんどん伸びていくんじゃないかと思っています。棘(とげ)はありつつ多数派、保守的でありつつ軟弱なところはあんまり見せないような感じですかね。
多数派って結局、保守じゃないですか。あくまで多数を取るというのが守りなんです。ただ、それに対して、「ニコニコ動画はけしからんよね」という人がどんどん増えたら、「あ、ほんとけしからんっす」って多分そっち側につくと思うんですけど(笑)。それまでは強硬にこっち側で「そんなことないっす」って言い続ける。その辺りの柔軟さというか八方美人さというか、っていうのが今後ニコニコ動画が生きていく上で必要なことかなと(笑)
YouTubeにはインフラコストとかの面で、どうがんばってもかなわない部分がある。毎年赤字垂れ流しても問題ないというような会社とは違います。そうすると多分、小回りの速さでどのくらい勝負できるか、というところしかないような気がしているんですけどね。
筋は通すとか、そんな感じじゃないですかね。例えば、YouTubeが記者会見をしたときに、パートナー企業をずらっと壇上に上げたのを見て「動画共有サイトのパートナーってユーザーだとおもうんだけどなぁ。。」とブログに書いたことがあるんですが、ちょっとずれてるんじゃないかなという気がしていて。ユーザーにそれ突っ込まれたら何ていうの?って考えたときに、答えがないようなことをやっちゃっている気がするんですよね。
そういう意味で、相手が納得できるかどうかは別として、論理として成り立っていることが大事だと思うんですよね。嘘をつかないとか、「お前こっちではこう言ったけど違うじゃねぇかよ」と言われないようにするとか。
ニコニコ動画はプレミアムといいながら実験的なことをいっぱいやるので、お客さんを客として扱っていないというか、神様ではない。お金を払ってもらってありがとうございます、でも、すべてに優先してサービスを使えるというわけではありません、と。
それはなんか、会社というより人としてどうかという話のような気もしますけどね。
多分、ぜんぜん別のものになっている――テキストがどうこう言う時代じゃないんじゃないですかね。ものすごい良いスペックの携帯電話で、動画を見ながら適当に「あー」っていうと、それが文字化されるか、もしくはサラウンドで、本体の動画とは違うところで流れるとか。
多分デバイスがかなり進化していると思うので、それに合わせた形になるんじゃないですかね。ニコニコモバイルがメインになって、「普通、ケータイで見るっしょ」みたいな感じで、携帯電話に合わせたインターフェースになるんじゃないかと思うんですよね。文字じゃなくて口で言ったほうが早い、とか。ケータイになると友達にも転送しやすくなるので、その辺のコミュニケーション系が発達したりとか。そう考えるとけっこう変わってる気がします。
台湾をやってみてそれなりに面白かったので英語圏も余裕があったら僕はやりたいなと思っているんですけど、どうなんですかねぇ。やったことがないからなんとなくやってみたいとか、そういうレベルでやってみたいです(笑)
台湾版はでも、うまくいってほしいですね。今は・・・日本人がいっぱい(笑)。台湾版なんだけど日本語ばっかりで、「あれぇ?」っていう(笑)。まぁ、しょうがないんですけどね。そもそも、僕が台湾人の運営する日本語のサイトに登録しないように、やっぱり台湾の人は登録しないと思うんですよ。ログイン制でいくにはどういう見せ方をするかとか、プロモーションをどうするかというのをちゃんとやらないとやっぱり伸びないとは思うんですけど。
集団同士の国家間のコミュニケーションをする場所って、あまり成功した例がないんですよ。NHNがenjoy Koreaという日韓コミュニティポータルをやっているんですが、やっぱりユーザー間でもめるんですよね。
英語圏だと、英語使うのが当たり前でしょ、という雰囲気があって、英語を使う米国人的文化のなかに埋没していくので、「国としての文化がこういうものです」というのを集団でやっている例ってあまりないんですよね。ニコニコ動画ではそれがうまく行きかけている部分があるので、そういうのは伸ばしたら面白いかなというのは薄々思っているんですけど。
前にとある飲み会で、30年後、40年後の日本はどうあるべきかという話をしたことがあって、僕は「観光立国を目指すべき」という話をして。結局、資源がないんだからお金を持っている人にお金を落としてもらうしかない。お金を持っている人たち=資源を持っている人たちは外国にいる。それで、日本に興味を持ってもらうには、資源がないんだからひたすら文化的なもの、独自文化を創らないといけないんですよね。ハリウッド映画みたいなものを作るんだったらハリウッドでいいじゃんってことになるので、エスニックっぽいオリジナルの文化をどんどん作って、世界中に「こんなのやっています」と言って、いろんな人に興味を持ってもらえるものを作らないといけないんじゃないかなぁと。
そういう風に考えると、漫画とアニメとゲームは結構うまくいっている。せっかくインターネットって直接ものをもっていかなくても情報が手に入って、そっちの方向が情報流通としては効率がいいので、そこでうまくいく方法はあるんじゃないかなと。かなり抽象的な話になっちゃいましたが(笑)、国際的なものについては、うまくいくといいなと思っています。
日本発のネットサービスでうまくいった例があんまりない、というのが気になるんですよね。日本の自動車は世界中でものすごい普及しているじゃないですか。ポテンシャルでいえば、自動車産業で働いている人とネット業界の技術屋さんとで、そんなに変わらないと思うんですよ。でもなぜか、ネット系のサービスの海外進出はうまくいっていない。何かきっかけがあればうまくいくんじゃないかなという期待はしています。
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