イランのジャーナリストが見る米大統領選

　米大統領選の行方が、まるで日本の選挙のように連日報道されている。日本のサラリーマンも無関心ではいられないだろうが、ちょっとマスコミのバカ騒ぎが過ぎるんじゃないか。ブッシュ現大統領から「悪の枢軸」と名指しされたイランでは、もっと冷静に米大統領選を見つめている。テヘラン在住のジャーナリスト、レザー・ジャリルザーデ氏（３９）に聞いた。

●“お祭り”報道が過ぎないか？

　イラン国民の多くはオバマ上院議員の当選を望んでいます。ヒラリー上院議員は女性だからというのではなく、外交ブレーンが夫の前大統領とかぶるという理由から目新しさがない。共和党のマケイン上院議員は、ブッシュ大統領からの政策転換が期待できませんから、当然ながら支持されていません。「戦争だけはしたくない」というのが、イラン国民の一致した考えなのです。

　それだけにイラン国民の米大統領選への関心は非常に高い。日本のように「オバマガール」がどうしたなんて話はしませんが。

　イラン国内でも１４日に日本の国会にあたるイスラム諮問評議会（定数２９０人）の選挙が実施される。今後の対米関係の方向性を占う意味での重要な選挙になります。

　ご存じのようにイランは今、国連安保理による金融制裁下にある。現在はスーパーに食料があふれていますが、２ケタ台のインフレ率など影響はジワジワと出ています。さらに日本と同様、地域格差も選挙の焦点のひとつ。武装組織による犯罪が多発するパキスタン国境のシスターン・バルチスタン州の貧困をどうするのかという問題です。

　日本だって米大統領選の結果次第で国民生活が大きく変わる可能性があるでしょう。「小浜市」と「オバマ氏」もいいですが、もう少し冷静になってほしい。“お祭り”みたいな報道に乗せられてほしくないですね。

●米国人は日本とイランを知らない

　そもそもアメリカ人は日本とイランをどれほど知っているのか、素朴な疑問として残ります。例えばイランがどこにあるのか、彼らは本当に知っているのでしょうか。イスラム圏にあるため誤解されていますがイランはアラブではない。イラン国民のほとんどがアーリア人であり、人種的にはコーカソイド（白人）になる。ターバンも巻いていなければ、砂漠でラクダにも乗っていない。イスラムは一夫多妻がＯＫといわれますが、今の時代にそんなことをしたら、私は奥さんに烈火のごとく怒られます。

　一方、多くのイラン家庭でＣＮＮが見られているので、米国の情報はあふれています。政府は海外メディアの視聴を嫌がっていますが、アンテナとチューナーは日本円で３万円ほどで購入できます。もちろん、ＮＨＫも見られますし、テヘランの７つのチャンネル（国営２チャンネル）でも日本のニュースは頻繁に流れています。毒ギョーザ事件や沖縄の少女強姦事件に心を痛めているイラン人も多いのです。

　日本人にも、もっとイランを知ってほしい。イランの子供たちは日本のアニメを見て育ちますし、１０年ほど前に放送された「おしん」は、最高視聴率が８０％を超し、街や道路から人が消えたほどでした。

　もっとも、福田康夫首相のイランでの人気は高くない。「自分から発言しない人」という人物像が定着しています。

●最新オッズはオバマ優勢

　お祭り騒ぎと言えば、英国では米大統領選も賭け事として楽しんでいる。英最大手ブックメーカー「ウィリアム・ヒル」のオッズは、ここ数カ月で激変した。

　１月２８日の同社オッズは、民主党のヒラリー氏が２．１倍でぶっちぎりの独走。同党のオバマ氏は４倍で２位、共和党のマケイン氏が５．３倍で３位だった。

　しかし、２月５日の「スーパーチューズデー」でオバマが善戦。２月１９日のハワイ州党員集会で連勝が「９」に伸びると、オッズも約１．７倍でオバマが逆転。２位のマケインは約２．６倍。ヒラリーは７．５倍の３位に失速した。

　ところが、今月４日のミニ・チューズデーでヒラリーが挽回すると、オッズは３人の混戦模様だ。

　今月１１日時点のオッズは、１位がオバマの２．２５倍。２位はマケインで２．５倍。ヒラリーもぐっと差を縮めて３．７５倍まで戻している。

　カネがかかっているから、情勢分析も冷静だ。

　ちなみに、日本国内からインターネットで賭けに加わった場合、賭博罪が適用される可能性がある。ご用心。

【2008年3月14日掲載】