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2008年3月17日

◎新幹線建設費 「負担軽減」にも一理ある

 石井隆一富山県知事や三村申吾青森県知事が、与党の整備新幹線建設促進プロジェクト チームの意見聴取で、あらためて新幹線建設費の地元負担の軽減を求めた。重い負担に耐えて既に開業にこぎ着けた地域や開業に向けてラストスパートに入っている地域とすれば、今さら地元負担の軽減を図ると言われても不公平と映るかもしれないが、客観的に見れば、交付税減額などで地方財政を取り巻く環境が激変したという主張にも一理ある。政府・与党は早急に具体的な負担軽減策をまとめてほしい。

 北陸新幹線沿線では、抱える路線が長く、しかも全県ほぼ同時に工事が進められている 富山県の負担が最も重く、新年度は約百五十億円。今後も徐々に膨らみ、ピーク時には二百八十億円超に達する見通しだ。石井知事が「このままでは正常な財政運営ができない」と危機感をあらわにするのも当然と言える。

 石川県の場合、スーパー特急方式で先行整備した富山県境―金沢の工事が既にほぼ終わ っているため、現段階では、新幹線建設費の地元負担が富山県ほどの重荷にはなっていない。しかし、仮に政府・与党の整備新幹線建設計画見直しで金沢以西の着工が認められると、状況は大きく変わる。新たに一千億円程度の地元負担を背負い、富山県並みとはいかないまでも、県財政の重い足かせになるのは間違いない。

 新幹線建設費は現在、三分の二を国が、三分の一を地方が負担している。地方負担の九 割については起債が認められており、そのうち五割は交付税で措置される。つまり、建設費全体の二割弱が実質的な地元負担となるわけだ。それなりに地方に配慮した仕組みになってはいるものの、状況に応じた見直しはあってしかるべきである。「地域エゴ」との批判が出るかもしれないが、東海道新幹線などは全額国費で建設されたことを考えれば、その見方も当たるまい。

 石川、富山、福井の三県知事は先月、そろって上京して政府・与党関係者に北陸新幹線 の金沢以西への延伸とともに、地元負担の軽減を要請したが、今後も粘り強く声を上げ続けなければなるまい。北陸以外の関係道県も巻き込み、声をさらに大きくしていきたい。

◎政府系ファンド論議 政治を絡めず冷静に

 日本の外貨準備高が初めて一兆ドルの大台を超えたことが、自民党の国家戦略本部で議 論されている政府系ファンドの設立構想に弾みをつける形になっている。外国の政府系ファンドがこのところ国際金融市場などで存在感を増しているが、自民党内の議論の背景には、国の資産の運用益で財政を豊かにし、将来の増税を抑えようという「上げ潮派」と、消費税率の引き上げをめざす「財政再建重視派」の政治的対立もあるとされる。国の資産をどう運用するかは、国内外の経済や国民負担に大きな影響を及ぼす問題であり、政治的な主導争いや感情的な対立を排し、冷静に議論してもらいたい。

 国が保有する外貨準備や年金積立金などを運用し、利益を上げる政府系ファンドは、オ イルマネーが豊富な中東産油国や、外貨準備高が世界一になった中国、投資に積極的なシンガポールなどがよく知られる。

 日本の外貨準備高はいまや百兆円を超え、年金積立金も百五十兆円に上る。特別会計の 積立金もあり、これを官僚ではなく、有能な投資のプロに運用させ、米国債などよりもっと高い利回りで財政再建や社会保障に役立てる、というのが政府系ファンド支持者の主張である。

 その考え方にはもっともな面がある。ただ、投資には当然リスクが伴うし、外貨準備の 活用には厄介な問題も潜んでいる。外貨準備は、対外債務の返済や外国為替市場で自国通貨の下落を止めるための介入資金として国が保有している。日本の巨額の外貨準備は、政府・日銀が円高阻止のため、円売りドル買いを積極的に行った結果である。ドル買いの資金は、政府短期証券を発行して金融機関から調達したもので、外貨準備の裏で政府の借金も膨らんでいることを忘れてはならない。

 外貨準備の大部分は米国債で運用されているが、運用先を変えるとドルや米国債の下落 を招き、日本にとってかえってマイナスになる恐れもある。その一方、ドルと米国債一辺倒の政策で米国を支える構図からそろそろ抜け出すべきという意見もある。米経済の変調で基軸通貨ドルの価値が揺らいでいる今は、外貨準備の運用の在り方や適正規模について考えるよい機会でもある。


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