企画・連載

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

「あした」へ:瑞浪いじめ自殺から1年/上 少女はなぜ死んだ

 ◇問い続ける家族、級友

 バスケットボール部でのいじめに悩んだ岐阜県瑞浪市立瑞浪中学2年の少女が、14歳の誕生日だった昨年10月23日、自分の部屋で首つり自殺してから1年が過ぎた。遺書には部の同級生に向けた「これでお荷物が減るからね」の文字が残された。少女を救えなかった家族や友人は、今も自分への問いかけを続けている。死を選ぶほど悩む子どもと、死のふちから救おうと試行錯誤する大人。いじめと向き合う人たちの姿を追った。

 「数カ月前までは『あの世に行って、あの子に会いたい』と思っていた」。命日の1週間前、父親(45)は瑞浪市の自宅兼会社事務所で、時折目をつむりながら話した。「子どもを助けられずに、おめおめ生きられない。でも1年もたつと、もう娘に天国で追いつけない」。そう考えることで思いとどまっているという。

 父親は、少女がいじめの標的となったのは、いじめられていた後輩をかばったことが原因の一つと考えている。中2の時の授業で「第1希望の職業」に刑事を挙げた少女。「正しいことを言っても小ばかにされずに済みそうだから」。プリントにそう書いていた。

 そんな少女がなぜ死を選んだのか。同中が昨年10月末、全校生徒に実施したアンケートで、少女が受けていたいじめとして挙げられたのは「ウザイ」「キモイ」などの言葉のいじめだった。この1年間、生徒会は、何気ない言葉でも苦痛に感じる人がいると集会などで繰り返し呼びかけた。今では「ウザイ」などの言葉は聞かれなくなった。だが、伊藤勝彦教頭は「誰のどんな言葉が彼女を自殺に追い込んだのか、今でも分からない」と声を落とす。

    ◇

 少女と同じ塾に通っていた同級生の山内里紗さん(15)は「苦しみを分かってあげられなかった」との思いにさいなまれ、心から笑えなくなった。「彼女の死と向き合わなければ」と考えるが、何をどうしたらいいか分からない。そんな時、大勢の人が夢を書いた白いハンカチをつなぎ合わせて富士山の噴火口を囲む企画「富士夢祭り」を知った。

 今春、少女の同級生だった3年生十数人で「Smile School」プロジェクトをスタートさせた。生徒や保護者、地域住民らから集めた約7400枚の「夢ハンカチ」をつないで8月、校庭に「Smile School」という文字を作り、周りをハートで囲んだ。「彼女への思いを形にできた」という。「良かったら読まん?」とコミック本を貸してくれた少女の生き生きとした笑顔を思い出す。同じ笑顔が、山内さんに戻りつつある。

    ◇

 父親の脳裏に浮かぶ少女の顔は「パパ、何やっとるの」と、いつも怒っているという。「いま天国に行っても、娘から『パパがやってないことがたくさんあるじゃないの。私は14年でこれだけのことをやったんだよ。帰りゃあ』と追い返されると思う」

 今年1月、父親は少女が中学校の課題で作製したポスター「地球が壊れる音がする」を、会社のシャッターに二つ並べて描いた。割れゆく地球の上に、一つは「SAVE the Earth」(地球を守ろう)と少女が訴えた文字。そして父親はもう一つのポスターの上に「SAVE the Life」(命を守ろう)と新たに加えた。

 取材の2日後、父親から記者にメールが届いた。

 それぞれの方が、いま現在のそれぞれの立場で、それぞれの心で娘のことを感じて、それぞれの気持ちで彼女の死に込めた思いや伝えたかったことを発信していっていただければ幸いです。

毎日新聞 2007年10月24日 中部朝刊

企画・連載 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報