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市民とプロになお隔たり 模擬評議で浮き彫り

2008年03月16日22時29分

 来春から始まる裁判員制度に向け、市民が審理を見たうえで、裁判官と一緒に判決をどうするか考える「模擬評議」が各地で行われている。「量刑相場」を市民に示した方がいいのか、評議をまとめる裁判官の役割をどう考えるか。これまでは法律のプロだけで進んだ裁判の常識が通用しないなかで、市民の意見を聞きながらの模索が続いている。

 ■「常識」通用せず

 昨年、福岡地裁であった模擬裁判での評議。交際相手の男性(53)を殺害した元ホステスの被告(33)という設定で量刑を議論した。

 市民裁判員役の20代の女性は、被告の母親が「この子が出所したら、家族として迎え入れて普通に暮らしたい」と述べたことに強く反発。「他人の家族を壊しておいて、『普通に暮らす』とは虫がよすぎるんじゃないか」との理由だった。

 この様子を別室のモニターで見ていた検察官や弁護士は驚いた。「身元引受人がいるのは被告にとってプラスの情状のはずなのに」「僕らのこれまでの常識が通用しない。裁判官より裁判員の方が犯罪に厳しい」

 ■量刑1年上がる

 「福岡」の3カ月後、福島地裁でも同じ題材で模擬裁判が行われた。

 量刑を決める際、「交際相手から暴力を受けていた」など被告に有利な面と、「救護しなかった」など不利な面を白板に書き出した。

 検察側の求刑は懲役10年。それぞれが量刑を投票した結果、判決は「懲役7年」となった。だがその後、裁判官が過去の同じような事件の判決を紹介。再び投票したところ、量刑は「懲役8年」に。裁判長は「できるだけ市民の意思を尊重した」としながらも、「どこかで過去のデータを示さないと、同種事件で裁判所ごとに判決が変わってしまう」と指摘する。

 ■「誘導」と「放任」

 評議で裁判官がどう振る舞うかも課題だ。争点を絞り込み、進展を促すと「誘導」と批判されかねない。逆に「放任」すると、議論は盛り上がるが時間不足に陥る。

 仙台地裁では、二つのグループに分かれて模擬評議を行い、結果を比べてみた。

 裁判官が争点を示し、議論を取り仕切る方法がとられたグループでは、裁判官の指名を受けて裁判員が意見を言い、目標の1時間で事実認定まで進んだ。ところが、裁判員役の間では「私たちの意見はいらないのではないか」と不評だった。

 一方、議論の行方が裁判員に委ねられたグループでは、白熱したものの、時間を30分以上延長しても事実認定に至らなかった。この評議に参加した裁判官は「まずは各裁判員に疑問点を挙げてもらい、そのうえで裁判官が争点を整理し、議論を収斂(しゅうれん)させていくのがいいのだろう」と振り返った。

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