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インタビュー路上生活から上場企業社長に――オウケイウェイヴの兼元氏
6月20日に名古屋証券取引所セントレックスに上場したオウケイウェイヴ。ネットの利用者がわからないことを質問をして、他の人が答える「Q&A」サイトの構築、運用を手がけている。創業者で社長の兼元謙任(かねもと・かねとう)氏は、2年間の野宿生活を経験した特異な経歴の持ち主だ。上場までの曲折や今後の事業展望を聞いた。 ――20日の上場後、株価は公開価格を大幅に割り込んでいます。 「株価は株主や市場が決めるもので、現状の株価について特に感想はありません。公開価格についても、証券会社などと話し合って決めたもの。気持ちとしては米グーグルを超えるような可能性を秘めていると思うので、後はただひたすらがんばるだけです」 ――東証マザーズやジャスダックなどにしなかったのはなぜですか。 「名古屋出身で、原点に立ち返って再出発したかった。また名古屋周辺にはトヨタ自動車などの自動車産業の工場があり、世界に誇れるモノづくりの地域です。IT業界は海外のモデルが日本に輸入されるということが続いていますが、日本発のモデルを作り出したいという気持ちもあります」 ――どうしてQ&Aサイトの事業をやろうと思ったのですか。 「原体験として振り返ると小学校で受けた差別だと思います。私は在日韓国人で、小学校のとき役所で書類に指紋を押す必要がありました。それを友人に見られていて、それまで仲良くしていた友達が翌日には突如として石を投げつけてきました。そうした突如とした差別を受け入れられず、最終的には自律神経がおかしくなってしまいました。しばらく車椅子での生活も余儀なくされました」 「そうした経験から身体障害者向けの社会活動に関心があります。芸術大学を出てから、身体障害者向けの製品デザインに取り組んだりもしました。現在のQ&Aサイトの原型は1999年に考えましたが、身体障害者向けに無料で利用できるコミュニティーサイトを作ろうと思ったのがきっかけです」 「身体障害者に自分がなっていたということもありますが、小学生のときに差別を受けた体験は、現在のQ&Aサイト思想につながっていると思います。人間は基本的にはお互いを分かり合うことは難しいのです。突然の差別をしたほうも、されたほうも互いをよく分かってないし分かり合えない。でもコミュニケーションをきっかけに、お互いの共通認識、合意を持つことが大事です。Q&Aサイトで質問をし、返答が来て、それにお礼をすることでその合意になるのではと思います」
――Q&Aサイト立ち上げ前の約2年間、都内で路上生活をしていたとのことですが。 「名古屋で芸術大学を卒業後、製品のデザインをする会社に勤めました。その後、自分で身体障害者向けの製品デザインをする事業をしたのですが、これがうまくいきませんでした。銀行から借金したということではないのですが、たくさんの個人からお金を借りてしまっていて、97年に逃げるように高速バスに乗って東京に来ました。今回の上場で、ようやくそのお金は返せましたが」 「東京で事業をしている知り合いの社長がいて、その人をあてにして上京しましたが、『自分で何とかしろ』と言われ一蹴されました。仕事だけでも紹介してほしいと頼むと名刺のデザインをする仕事をもらいました。しかし、1枚あたり1000円程度。東京に来るときにあったお金は仕事用のノートパソコンを買ってなくなったために、とても家は借りられません。ノートパソコンを持って、駅の周辺や公園のトイレ、ドーナッツショップで追い出されるまでコーヒー1杯で粘ったりしました」 「半年ぐらいすると、デザインの仕事もとにかくたくさんこなしたので、安定した量の仕事をもらえるようになりました。月30万から40万円ぐらい。家を借りることも考えましたが、名古屋に残してきた妻子のために仕送りすることを考えるとそれどころじゃなかった。寝袋を持って、友人の家に泊めてもらったり、公園で寝たりということが結局2年間続きました」 ――Q&Aサイトの立ち上げ時、資金調達などの問題はなかったのですか。 「もちろんベンチャーキャピタルには、当初出資を断わられました。仕送りしていたお金を妻が貯金してあって、有限会社を設立するときの資本金として提供してくれました」 「画面デザインとサイトの流れや構成はできたのですが、それを作るためのプログラムは自分じゃできませんでした。いろいろ探していたら、友人がサイトの思想に賛同してくれて、無料で作ってくれました」 「その後、00年3月にサイバーエージェント、00年6月に楽天から出資を受けて、そのうちQ&Aのサイトの仕組みを利用したいという企業から受注することもできたので、何とか回るようにはなりました。それでも赤字は続いてましたが、昨年ぐらいからQ&Aサイトというジャンルが認識されて、ようやく黒字になったところです」
――他社が参入するなど今後強力な競合が現れる可能性はないのでしょうか。 「Q&Aサイトの単に質問を受け付けて答えるという仕組みは簡単で参入しやすいかもしれませんが、ユーザーインターフェースのレベルは6年間取り組んでいる分アドバンテージがあります。またQ&Aサイトではどんな内容でも掲載していいわけではなく、不適切な質問を機械的に削除できる技術を持っています。その技術がコアで、言語に依存しないので、海外でも同じものを展開していけます」 ――今後の事業展開は。 「Q&AサイトのシステムをASP(ソフトの期間貸し)方式で提供するのは着実に利益を上げているので、今後も重要な柱としてやっていきます。まだほとんど広告に手をつけていないので、それも進めていきたいと思います」 「中長期的な目標としては2010年に100カ国で、10億人、10万社の利用を目指します。疑問を世界中の人に聞くとか、世界中の専門家に聞くとかいうコミュニティーが作れればそれ自体の付加価値が高まり収益源になるかもしれません」 兼元謙任(かねもと・かねとう)1966年生まれ。89年GK京都入社。99年有限会社オウケイウェブを設立。2000年2月に株式会社に組織変更しオーケイウェブを設立、代表取締役に就任。(オーケイウェブは06年1月に社名変更しオウケイウェイヴに)。愛知県出身 [2006年6月28日/IT PLUS]
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