2008年03月12日 週刊ダイヤモンド編集部
敗者HD-DVD派生規格をゴリ押しする中国の“商魂”
2月中旬、中国の中央電視台(CCTV)のプライムタイムのニュースが、東芝のHD-DVD撤退を報じた。政府の意向が色濃く反映されるCCTVがHD-DVDの敗北を報じたことで、業界関係者のあいだには「(HD-DVDの派生規格である)中国独自のCH-DVDもこれで終わり」という見方が広がった。
だが、それははずれた。CH-DVDの推進団体が、この春にも加盟会社からプレーヤーが発売される見通しを示したのだ。ブルーレイ・ディスク(BD)の勝利が決定的であるにもかかわらず、なぜ中国は独自規格をごり押しするのか。
狙いは明白だ。「BDのライセンス料の軽減と技術支援」(大手メーカー幹部)である。振り返れば10年ほど前にも、中国は世界標準規格のDVDに対抗してSuper Video CDなる独自規格を押し通すことで、DVDのライセンス料軽減と技術移転を目論んだ。結局、ライセンス料の交渉は不調に終わったが、技術移転は勝ち取った。今回も、CH-DVDという“当て馬”をつくることで、BD陣営からなんらかの譲歩を引き出す作戦と見られる。
その証拠に、CH-DVD陣営の中心的存在である中国TCLは、すでにBDのライセンシー(特許実施の許諾を受ける者)リストにも名を連ねており、本気でCH-DVDを立ち上げようという気はさらさらない。中国メーカーが早晩BDに参入するのは確実だ。
さらに中国は、HD-DVDから撤退した東芝やワーナー・ブラザーズも、巧みに利用する。
両社は昨年、陣営拡大を目的にCH-DVDの推進団体に加盟した。今となっては一刻も早く“足抜け”したいところだろうが、そうはいかない。中国側の見解では、CH-DVDは、HD-DVDとは一部異なる信号変換方式を採用している“別規格”であり、CH-DVDが撤収を宣言しない限り、加盟会社には規格推進の責任がある。国内企業だけでなく東芝やワーナーなど海外企業も陣営に抱き込むことで、中国は、BDの対抗勢力としてのCH-DVDに箔をつけているのだ。
転んでもただでは起きない中国。BD陣営にとっては、一難去ってまた一難である。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 前田剛)
第75回 | 政府系ファンドだけではない、製造業誘致目論むアブダビの野望 (2008年03月14日) |
---|---|
第75回 | “トヨタの牙城”南アに進出するスズキの戦略転換 (2008年03月13日) |
第74回 | 敗者HD-DVD派生規格をゴリ押しする中国の“商魂” (2008年03月12日) |
第73回 | クオーク救済の色が濃い三井住友のノンバンク再編 (2008年03月11日) |
第72回 | “旧三菱”への反発が引き金!? 池田銀と泉州銀の経営統合 (2008年03月10日) |
第71回 | 直営店参入でディズニー頼み脱却が急がれる舞浜ホテル戦争 (2008年03月07日) |
第70回 | イー・モバ音声通話参入で、携帯CM“場外乱闘”が熱い (2008年03月06日) |
第69回 | 勝者ブルーレイ陣営の増産難航。DVD規格戦争の思わぬ爪跡 (2008年03月05日) |
第68回 | 総資産100兆円「かんぽ」と提携した日本生命の大きなメリット (2008年03月04日) |
第67回 | 2010年度に3000万台!“テレビのソニー”壮大な野望 (2008年03月03日) |
産業界・企業を取り巻くニュースの深層を掘り下げて独自取材。『週刊ダイヤモンド』の機動力を活かした的確でホットな情報が満載。
【子供を襲うネット・ケータイの罠】
子供の携帯電話の所持率が増加する中、携帯電話やインターネットでのトラブルが増加の一途を辿っている。犯罪に巻き込まれることも少なくない。その実態を追った「週刊ダイヤモンド」編集部総力特集