実際に病院の勤務の話でいきますと、救急医療が崩壊している。勤務医が過酷な勤務を続けている。実際の勤務医の状況はどのようなものなのでしょうか?
「基本的に総合病院の内科や外科、ちょっとハードな医師、多数派ではあるのですが、医師の9時ごろから5時ごろまでの通常勤務の後、夜勤帯に入るのです。当直と言ってはいるのですが、夜勤帯に入って朝まで仕事をして、そのまま翌日も日勤、通常勤務に入る。これが常態化しています。常に、日常あることになっていますので」
それが例えば月や週で何回なのでしょうか?
「一般的には大体月に3〜5回。そういう32時間以上の労働をしている人は多いと思います」
では、休みはどうなのでしょうか?
「自分の話でちょっと恐縮ですが、僕が若いころ、今もまだ若いのですが、医者になってすぐの研修医やそれに近いころは、年間で1日か2日ですね。ちゃんと休めるのは」
年間でですか?
「年間です」
それは最近のほうがひどいのですか?そういう勤務というのは。昔からそういうものなのでしょうか?
「ただこれは、昔からだと思います。最近わかってきたというのが本当の正解だと思います」
救急医療で受けてもらえなくて、患者が何軒もたらいまわしになるという状況が続いていますよね。それが顕著に現れてきたのが2〜3年前からとなっています。2〜3年前からそうなっていることというのは、どうやったら解消できますか?
「どうやって解消するかということの前に、どうしてそうなったのかと少し考えなくてはなりません。そういう雰囲気が出そうだなと思われてきたのはもう少し前です。5〜6年前か2000年ごろだと思います。
救急車の搬送が多くなってきて、手が回らない。医師の数、特に勤務医の数が少ない以上、時間外の救急対応は専門外の患者を診なくてはならないわけです。脳外科の医師なのに泌尿器科の患者を診なくてはならないとか。そういうこともあって、無理な状態があふれ出てきていたわけです」
それが2000年ごろからずっと。
「そのころから何が変わってきたかというと、インターネットの普及やそれが中心になって情報が、日本全国の他の病院や救急など、いろんな情報が手に入りやすくなりました。これはちょっとおかしいというか、患者にとってもおかしいし、これだけ働いていれば事故は起こるし、事故が起きれば現場の責任になる。
『医師が悪かった』とか、2000年以降、医師側個人の責任が追及されるようになったのです。」
いわゆる医療訴訟ですね?
「そういった経緯があってここ数年までに、一気に『このままではこちらも危ない』と、患者を受けて良心を持って治療しようとしても、何か専門外のことで問題があっても、やはり完璧ではないじゃないですか。専門のことはある程度わかっても、そうでないことはかなり難しい。
その中で緊急の、急を要する判断をするということに関して、不可能になってしまったのです。それが顕著に出てきたのがここ数年。自分の受けることのできない患者を、責任を持って受けると、裁判で負けているのです」
患者を受けて自分が専門外のことをすると、自分で最善を尽くしたつもりでも?
「裁判では負けてしまうという状況が散見されています。いくつかの裁判では、(患者を)受けた側が悪いと」
(患者を)受けるから悪いと……
「そうです。責任が取れないのに(患者を)受けたからいけないとか、良心を持ってやっていても、それは(患者を)受けたほうが『できないのに受けたからいけない』と」 |