現在位置:asahi.com>社説 社説2008年03月16日(日曜日)付 チベット騒乱―流血の拡大を止めよ中国チベット自治区のラサで、僧侶や住民と治安当局が衝突し、多数の死傷者が出ている。状況はまだよく分からない点が多いが、中国政府は武力行使を控えて、流血の事態の拡大を防ぐべきだ。 ラサでは最近、中国の統治に反対する僧侶らの抗議活動が行われていた。現地からの情報は限られているが、国営通信社はきのう、10人死亡を伝えた。死者はもっと多いという未確認情報もある。 街の中心部で警察の車がひっくり返されて煙を上げる写真や、投石している住民の画像が国外に流れている。状況はかなり緊張している。 インドに亡命しているチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世は「抗議行動は、現在の統治下でチベット人に深く根ざした憤りの現れだ」との声明を出した。同時に、チベットの住民に非暴力を訴えた。 中国当局者は「ダライ一派が組織的、計画的に策動したことを証明する十分な証拠がある」と述べたが、ダライ・ラマ側は否定している。 チベットではこれまでも、僧侶のデモや治安当局との衝突が繰り返されてきた。その発端は、新中国の建国から間もない1951年に人民解放軍がラサに進駐したことにさかのぼる。 59年に起きた動乱を解放軍が武力鎮圧し、ダライ・ラマは亡命した。中国政府は65年にチベット自治区を成立させたが、89年には独立を訴えるデモが騒乱となり、戒厳令が敷かれたこともある。今回の衝突はそれ以来の規模と見られる。 外国メディアの取材が制限されているため、最近の事情には不明なところが少なくないが、当局の取り締まりで表面的には平静が保たれていた。そんな中、数日前からラサで僧侶や住民による中国政府への抗議活動が起きていた。 8月の北京五輪を前に、中国の人権状況にはいつにも増して厳しい視線が国際社会から注がれている。ダライ・ラマ14世にノーベル平和賞が贈られたように、チベットに対する国際的な関心は極めて高い。 中国当局は武力を使うような強硬策を自制し、住民との対話によって事態の沈静化を進めなくてはならない。このうえさらに住民側に死傷者が増えるようだと、五輪にも深刻な影響が出かねないことを覚悟すべきだろう。 非難合戦でダライ・ラマ側との対立を深めるばかりでは、平和的な収拾は遠のいてしまわないか。 中国には新疆ウイグル自治区でも独立運動があり、テロ事件も起きている。気功集団への弾圧や、人権活動家の投獄などの報道もある。 今後、五輪を成功させることを最優先に、事前の治安対策が強まることも予想される。だが、手荒な対応はかえって中国の評判を落とすだけだ。日本政府はあらゆる機会を利用して、中国側に自重を求めなければならない。
年金の記録―いつまで足踏みするのか約5000万件の「宙に浮いた年金記録」のなかで、いまだに持ち主がわからず統合がむずかしい記録は2000万件余り残っっている――。 社会保険庁が「宙に浮いた年金記録」と1億人の基礎年金番号を照合した作業の結果を発表した。 政府・与党は昨年夏、この3月末までに照合作業を終えると約束していた。その約束はとりあえず果たしたといいたいのかもしれない。 しかし、参院選で当時の安倍首相は「最後の1人になるまで年金記録をチェックし、正しくお支払いする」と訴えた。それなのに2000万件の特定がむずかしいとあっては、公約違反といわれても仕方あるまい。 それだけではない。持ち主を突き止めにくい記録は、昨年末の推定に比べて50万件増えるという皮肉な結果になった。 参院選の大敗の後、安倍首相から政権を引き継いだ福田首相も、ひとごとではすまない。宙に浮いた記録の問題には年金の信頼がかかっている。ここは社保庁まかせにするのではなく、政府を挙げて取り組んでもらいたい。 コンピューターの照合で持ち主が分からなかった記録をどうするのか。 政府は今後、住民基本台帳ネットワークを使ったり、原簿にさかのぼって調べたりして持ち主を捜す。その一方で、すべての年金受給者や加入者の約1億人に対し、10月末までに「ねんきん特別便」を送り、一人ひとりに年金記録を確認してもらうという。 福田首相は「信頼回復のため国民の目線で進めてほしい」と指示した。この際、市町村や企業、老人クラブなどにも幅広く協力を呼びかけて、持ち主を捜し出すための知恵をしぼるべきだ。 政府はいつまでに決着させるかのメドも示せないでいる。問題の解決がむずかしいからといって、いつまでも長引かせるわけにはいかない。「ねんきん特別便」の送付もできるだけ急いで、決着の見通しを早く立てるようにしなければならない。 持ち主がほぼ特定できたという1000万件余りについても、なかなか本人の確認ができず統合作業が進まないというのでは困る。 もとはといえば、社保庁のでたらめな運営が原因である。郵便で知らせた後は、本人の届け出や記憶に頼るという「申請主義」を振り回すことなく、もっとていねいな対応をした方がいい。 年金をめぐっては、ほかにも多くの問題が残されている。その一つは国民年金保険料の徴収率が依然として6割台で低迷していることだ。徴収にあたる職員まで記録問題の処理に追われていることも影響しているのだろう。 「安心できる年金」にするためには、いつまでも記録問題で足踏みしているわけにいかない。政府には集中的な素早い作業が求められている。 PR情報 |
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