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2007年12月26日 (水)

社会起業家も命がけだ

国際赤十字を作ったアンリ・デュナンのドラマを見ました。
11月29日にNHKで放送されたもので、HDDレコーダーに録画していました。
僕は昔から、赤十字ってなんだか怪しいなあと思っていたわけですが、このドラマを見ると怪しい理由がよく分かります。

ドラマは、アンリ・デュナンが赤十字を作ろうと思ったあたりから、設立までの物語です。NHKの公式ページから引用すると、

戦争の絶えない19世紀後半のヨーロッパ。負傷した兵士を救う中立的な救護団体が必要と説いたスイス人、アンリ・デュナンが『赤十字』を設立するまでの物語。

アルジェリアで事業を行っていたスイス人実業家のアンリ・デュナンは、水利権を得ようと、イタリア統一戦争に参戦中のナポレオン三世に直訴することを決意する。デュナンは戦地の北イタリアに赴くが、そこには医師も薬も不足する中で次々と死んでゆく負傷兵の悲惨な姿があった。 衝撃を受けたデュナンは野戦病院を手伝うが、まもなくフランス軍が病院を支配。オーストリア兵士は敵とみなされて治療を受けられない。デュナンは負傷兵を脱出させるため、血で十字架を描いた白旗を掲げながら幌馬車隊を率いて戦場を横切っていく。

赤十字の赤は血の色だろうなあと思っていたら、ホントに(文字通り)血の色だったんですね。

この後、デュナンは赤十字のアイデアを思いつくのですが、戦場で救護活動を行うには、多くの国と条約を結ぶ必要があります。赤十字は救護団体だから、戦場で活動していてもジャマしないでねという条約ですね。

しかし、時は植民地時代でヨーロッパ列強がしのぎを削る時代。もちろん、NGOなんて言葉もなかった時代ですから、そんな条約を結ぶ国なんてあるわけがないと、周囲はみんな反対します。

で、デュナンが考えたのは、大国フランスが条約を結んでくれれば、他の国もついてくるんではないか?ということで、デュナンに好意を寄せる兄の婚約者のおかげで、ナポレオン三世に会うことが出来ます。

その場でデュナンが思いついたのが「中立」という概念です。「赤十字は中立なんで、ひとつよろしく」というわけで、ナポレオン三世もそれならと了承します。

しかし、なにしろナポレオン三世ですから人道的な側面から赤十字支援を約束したわけではありません。デュナンとは別の側面から、「中立」の意味を悟ります。

中立の救護団体が戦場で活動してくれれば、それは有益な情報をもたらす諜報機関になるんじゃないかというわけです。

余談ですが、赤十字にとって「中立」という立場は、けっこうやっかいなものでもあります。

かつて、ナチス・ドイツがユダヤ人虐殺を行っていたとき、連合国の情報部より早く、その事実を掴んでいたのが赤十字なんですが、その事実を公表しなかったというので、戦後、非難されたりもしました。中立なんで、政治的な行動を取らなかったというのが赤十字の言い分だったと記憶していますが、しかし、スイスが中立国だったので、ナチス・ドイツの膨大な資産もスイスの銀行に預けられていたという話もあります。それで、赤十字もホロコーストの事実を隠していたとかどうとか。

赤十字がたまに怪しい臭いを醸したりするのは、この中立ということをめぐって、国際社会の思惑が入り乱れたりするからですね。中立というのも人道派の人たちが考えるほど簡単な話ではありません。

さて、話はドラマに戻って、赤十字を自分たちに都合の良い諜報機関にするというナポレオン三世の陰謀のせいで、デュナンの忠実な部下が殺されたり、デュナン自身も巨額な詐欺にあったり、その他にも、戦場の悲惨さを伝えるデュナンの行動に抗議した人間が新聞社を襲撃したりと、デュナンを支援する許嫁との関係を疑った兄に決闘を挑まれたりと、この時代、社会貢献も楽ではありません。文字通り、命がけであります。

そして、幾多の困難と陰謀を乗り切り、赤十字は設立されるのですが、ドラマではハッキリ描いていませんが、どうやら彼は、赤十字から追い出されてしまったようで、大国間の政治的争いに負けたのか、嫌気がさしたのか、Wikipediaによれば、彼は赤十字の活動から身を引き、晩年、ドイツの老人ホームにいるところを偶然、ジャーナリストに発見され、第一回のベール平和賞受賞となるそうです。

まさに、アンリ・デュナン、苦難の道ですね。

今の時代に、社会起業家を目指す人は、この物語をどう見るんでしょう?

僕などは、大きなことをやろうとすると、国際政治の荒波を乗り切る技と力も必要になってくるし、社会起業家といえども、清濁併せのむことも必要なのかと思った次第です。その線引きも難しいんですけどね。

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