フェアトレードの新しい道

フェアトレードという考え方には基本的には賛成なのだが、実際のフェアトレードには複雑な問題が絡み合っていて迂闊には論評できない。ということはちゃんと分かってますよ〜という逃げを打った上で今回の記事を書いておく。サントリーの缶コーヒーのことだ。

サントリーが８月２８日から販売開始した「ボス　レジェンドブレンド」。テレビCMも大量に投入されて大々的なプロモーションを展開しているのでご存じの方も多いだろう。
サントリーのニュース・リリースによれば、このレジェンドブレンドは、コーヒー発祥の地という伝説のあるエチオピアの、気品ある伝説の香りを追求するため、エチオピアの生産者団体とオリジナルのコーヒー豆を開発したとある。
リンク: Suntory News Release No.9867.
この「レジェンドブレンド」のマーケティングには、フェアトレードという言葉はいっさい出てこない。そのようなコミュニケーションも行っていない。少なくとも、ニュースリリースにはフェアトレードという言葉は出てこない。にも関わらず、僕にはこれもフェアトレードの新しい形だと思えるのだ。しかも、大企業だから出来るフェアトレードだと。

従来のフェアトレード商品の問題点は、フェアトレードであるということが、競合商品との差別化のポイントになっていることだ。中には、フェアトレードで、しかも有機農法のカカオで作ったからおいしいチョコレートですよという訴求をしているケースもあるが、フェアトレードだからおいしい、という理屈にはなっていない。やはり、多くのフェアトレード商品は、フェアトレードだから買ってくれと言ってるだけで、フェアトレード支持者は買うけど、世の中には「今のフェアトレード活動」を疑問視している人もいて、そんな人たちはフェアトレード商品は買わない。フェアトレードに関心が無い人も買わない。今は、フェアトレード商品のマーケットも小さいので、急速に市場拡大しているように見えるかもしれないが、本当の意味でメジャー化できるかどうかは疑問だ。

レジェンドブレンドはフェアトレードとは言ってない。しかし、この商品は日本のコーヒー市場におけるエチオピア・ブランド確立には大きく貢献したと思う。一連のプロモーションによって、エチオピアがコーヒー豆発祥の地であることを知った人も多いだろう（僕もそうだ）。そして、気品ある伝説の香りという訴求は、この商品だけでなく、エチオピアのコーヒーっておいしそうというイメージを日本の生活者に植え付けた。ブランド価値が高まれば、レジェンドブレンドが売れるだけでなく、街のコーヒーショップでもエチオピア・コーヒーの売り上げが伸びるだろうし、ブルマンのように他の豆より高い価格で販売できるようにもなる。

農業生産物も他の商品と同じで、適正価格は市場が決めるのが本筋だ。貧しい農家を助けたければ、より高付加価値の農産物を生産できるよう指導し、一方で消費地において正しいマーケティングを行い、それを流通させるのが正しいやり方だろう。フェアトレードでやるべきことは、本来はそういうことだと思う。
サントリーのレジェンドブレンドが、実はフェアトレードだと思うのはその意味においてであるし、ネスレもこういうやり方をやっておけば、活動家から非難を浴びたりもしなかったのではないか？　他の飲料、食品会社の良い参考になるだろう。本業としてのCSRのお手本にもなると思う。