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2007年10月11日 (木)

ところでボルヴィックは売れたのか?

今年の夏、ボルヴィックの「1ℓ for 10ℓ」プログラムと連動したCFが盛んに流れていた。

リンク: Volvic.co.jp|1ℓ for 10ℓ.

僕はこのCFを見る度に心配になっていた。
こんなんでボルヴィックは本当に売れるのだろうか?と。

個人的にはボルヴィックの水は好きなので、ペットボトルの水を買わなければならない状況、たとえば海外出張したときなど、ホテルの部屋に飲み水を常備しておきたい時には、必ずボルヴィックを買っている。ところが、日本や韓国ではボルヴィックは人気がないのか、単に販売力が弱いのか、コンビニなどで置いてないことも多い。だから、大いにプロモーションをしてもらって、売れるようになって欲しいのだが、この「1ℓ for 10ℓ」プログラムのキャンペーンはどこまで日本での売り上げを伸ばしているのか、ちょっと気になっている。

あまり効果がないのでは? と思うからだ。

ご存じの方も多いだろうが、「1ℓ for 10ℓ」プログラムというのは、ボルヴィックの水を1リットル買うと、アフリカの人たちに10リットルの清潔な水を提供できるという、つまりボルヴィックの売り上げでアフリカに井戸を掘るというプログラム。ボルヴィックのサイトに拠れば、マリ共和国で7億リットルの水を確保できたそうで、ちゃんと成果は上がっているようだ。

これはもちろんグッドニュースなのだが、問題は、これでボルヴィックの売り上げがアップしたのかどうかだ。

CFの映像は、アフリカの大地に掘った井戸からキレイな水が溢れだして、子供たちが大喜びしているという内容で、これではよく知らない人が見たら、まるでボルヴィックが、アフリカで井戸を掘って出てきた水をボトリングした商品であるかのように見えるだろう。こんな間違ったイメージを持たれたら、六甲山とか富士山麓とか南アルプスとか、名水揃いの国産品には太刀打ちできるわけがない。アフリカの人には申し訳ないが、日本人はアフリカの水に対して、おいしそうとか、ミネラルが豊富だろうとか、オシャレといったイメージは持っていない。

また「1ℓ for 10ℓ」というプログラムの理念は立派だが、これも残念ながら、今の多くの日本人には、地球環境を守ろうという意識はあっても、アフリカの人たちにキレイな水を提供しようという意識はほとんど無い。つまり、このプロモーションによって、ボルヴィックのマインド・シェアが上がるとも考えにくい。

そんな話を、環境事業をやっている友人に話したら、
「ヨーロッパの人たちは社会意識が高いから、このようなプロモーションは有効なんでしょうね」と言っていた。

この友人が言うことも分かる。しかし、環境問題に関してでさえ、意識の高いいわゆるグリーン・コンシューマーは生活者全体の20%くらいしかいなくて、それは10年前も今もほとんど変わっていないという調査結果もある。つまり、日本には意識の高い行動的な消費者は、思っているほど多くはないのだ。

また、グローバルな展開をしている企業は、世界統一のコンセプト、メッセージ、ビジュアルでプロモーション展開することは、よくあることだし、ブランディングの観点から言えば、その方が適切な場合もある。ボルヴィックもそのような戦略をとっているから、日本法人がローカルなプロモーション戦略をとることが出来ない、という事情もあるかもしれない。

しかし、アフリカはヨーロッパ人にとっては身近な地域だろうが、日本人にとっては遠い国だし、そもそも多くの日本人は、日本は水資源の豊富な国で、おいしい水がたくさんある国だと思っている。そんな国の人間が、なんでわざわざ外国の水を買わなければならないのか? そこに説得性を持たせるのはたいへんなことなのである。ましてや、ボルヴィックはアフリカの水なのか?などという、間違ったイメージを与えかねないCFを見せられたら、せっかくのおいしい水も売れるわけがないと思うし、ルイ・ヴィトンやベンツのように、世界統一のブランドイメージ訴求を、ボルヴィックがやる必要もないと思う。何故なら、フランスの水が、世界統一イメージで世界展開できるほど、高品質で高いイメージを持っているとも思えないからだ。

というわけで、せっかく良いことをやっているボルヴィックが、果たして日本での売り上げを伸ばしたのか? 全世界的にはどうなのか? 気になってしょうがない。本当は売り上げが伸びていて、日本でもこのような社会性のあるプロモーションが有効であると証明されていればグッドニュースなのだが、売り上げがあまり伸びなかったというのであれば残念だ。

で、評論家みたいなことばかり言っていてもしょうがないので、ひとつだけ、簡単に私案というかヒントを述べておく。

アフリカの人たちにとっては、水は文字通り「命の水」なのだが、どのような人にとっても、水はやはり命の水。ところで、ボルヴィックが訴求すべきなのは、まずフランスの水であること。そこで、「命の水」というキーワードをブリッジにして、フランスとアフリカを結びつける。結びつけるストーリーが何かあるはずだ。
「1ℓ for 10ℓ」プログラムの詳細については活字媒体中心に訴求する。さらに、テレビの特番か海外情報番組とのタイアップで、プログラムの成果をキッチリ見せる。その方が、社会意識の高い層には、ボルヴィックの姿勢がちゃんと伝わるだろう。
という感じですが、どうでしょう?

(追記)
ボルヴィックの売上げ大幅増だったそうで。これはグッドニュースですね。よかった、よかった。
リンク: Global Good Newsなブログ: ボルヴィック、売り上げ大幅増.

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コメント

ボルヴィックのお話、興味深く拝見しました。

売り上げに貢献したのか、非常に気になるところですね。やはり、折角面白いCSRを展開したのであれば、それ相応の利益をあげて当然ですからね。

NPO、特に日本のNPOの方たちと話していると、CSRをやること自体が大切、利益が出るか出ないかはあまり関係無いのでは、という方がいたりする。どうせ、ここは見ていないと思うので、はっきりと書かせて頂きますが、そのようなNPOは、正直言うとファンドレージングがしっかりとしていなかったりする。資金は天から降ってくるのとちゃいまっせ(^^;。

最後の提案ですが、本当に面白いと思います。どうせなら、その提案、本当にやりませんか。キリンさんあたりから、話を持っていくのがいいですかねぇ。いずれまた、お話でも。

投稿 尾鳩 | 2007年10月11日 (木) 16時15分

コメントありがとうございます。
>CSRをやること自体が大切、利益が出るか出ないかはあまり関係無いのでは、という方がいたりする

この主張の最大の間違いは何かといいますと、利益が出ないと持続可能な活動ができない、ということではありません。
もちろん、それも大事なことなのですが、寄附に頼った活動とは、援助しか出来ないということですね。援助はもちろん、人を助けることはできますが、人の自尊心を生み出すことはできません。これは、後日、記事に書きたいと思ってますが、社会起業家の活動で、僕が一番感動したのは、人の尊厳、自尊心を生み出していることなのですよ。

>最後の提案ですが、本当に面白いと思います
そうですか? ありがとうございます。
なにかグッドニュースがありましたらぜひご連絡下さい!!

投稿 竹井 | 2007年10月12日 (金) 15時10分

ボルヴィック、あのキャンペーン以降、30%以上の売り上げみたいですよ。市場は、確実に成熟している・・・のかな。

投稿 尾鳩 | 2007年10月19日 (金) 01時38分

おお!!それはグッドニュースですね!!
重要なニュースなので新記事にします。

投稿 竹井 | 2007年10月19日 (金) 23時45分

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