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2007年10月 9日 (火)

CSRは本業でやれ

日本でも企業の社会的責任=CSRが重視されてきて、CFでも積極的にCSRをPRするようになってきている。このような傾向はグッドニュースではあるのだが、聞こえてくる活動は、地球の緑化事業を推進していますとか、チャレンジドの社会参加を支援していますとか、もちろんそのような活動は有意義ではあるものの、本業を活かした画期的なCSR活動というものは、残念ながらあまり聞こえてこない。

CSR活動は本来、本業を軸にしてやるべきだと思うのだが、特に日本の場合、事例が少ないように思える。それで、何か無いかな? と思って少し調べてみたら、こんなレポートを見つけた。

野村総合研究所の経営コンサルティング部主任コンサルタントである伊吹英子さんのコラムである。

リンク: 第1回 本業を軸にCSRの戦略を考える-CSR最前線! 〜CSRにおける企業と市民とのコミュニケーションを読み解くコラム集〜.

伊吹さんはこのコラムで「本業を軸にCSRの戦略を考えることである。」と主張されていて、それにはまったく同感だ。
このコラムでは、海外の二つの事例を紹介している。

一つ目は、オランダのフィリップス社のCSR活動で、同社の照明機器工場があるブラジルのスラム街で、スタンフォード大学やNGOなどの協力により、通信手段を整備し、住人の生活サービスへのアクセスが格段に向上したという事例。
もうひとつは、デンマークの製薬会社ノボノルディスクファーマの活動で、同社は「糖尿病の撲滅」を企業理念としてあげているが、糖尿病患者の急増に対応が追いつかない中国で、医療従事者や糖尿病患者に対する生活指導、教育、認知向上の機会をはかっているという。メディアなどとタイアップして、情報発信も積極的に行っているという。

ノボノルディスクファーマの事例など、まさに本業としてのCSRど真ん中であります。

もちろん、世界にはまだまだ本業としてのCSR事例はたくさんあって、僕が感銘を受けた事例ではこんなものもある。

たとえば、ヒューレット・パッカード(HP)がインドで展開している写真屋さん事業。大ベストセラーになった「フラット化する世界」(トーマス・フリードマン著)でも紹介されているので、ご存じの方も多いと思うが、こんなお話しだ。

インドでは国民全員が写真付き身分証明書を持つ必要があるが、貧しい農村には写真スタジオもなく、 多くの農民は、仕事を休んで遠くの町まで写真を撮りに行っていた。そこでHP社は、同社のデジカメとプリンタ、 そして独自のキャリー式太陽発電機を組み合わせたシステムを開発。貧しい女性たちに写真技術を教え、 彼女たちがカメラマンとして自立できる方法を開発、支援した。
HPのこの事業は、インド女性の自立を実現させると同時に、農村の人々に新たな喜びを与え、さらに自分たち自身に誇りと希望を与えることになった。

こんな事例もある。プロクター&ギャンブルの事例だ。

最先端の水処理施設で使われている化学薬品を活用し、低所得者向けの浄水剤を発売。1セント程度の浄水剤一袋で10リットルの水を浄化できる。この浄水剤を核として「子供たちのための安全な飲料水プラグラム」を世界中で展開。アフリカのマラウイでは、まったく無名のP&Gだったが、同プログラムの導入により知名度が急上昇。さらに保健相から「来てくれてありがとう」と言われた。P&Gは、この事業が拡大し市場が拡がれば、十分に採算ベースに乗るとコメントしている。

HPの事例もP&Gの事例も、彼でなければ実現できなかった事業だ。しかも、BOP市場(貧困市場)において新たなマーケットを生みだし、自社の認知度をアップさせている。長期的に見れば、これは有益な開発事業だと言える。これぞ本業としてのCSRの見本だと思う。

アジアやアフリカの貧しい農村に、電話屋さんという携帯電話事業モデルを普及させたグラミンフォンも、ノルウェーのテレノールという通信会社の協力がなければ実現できなかった。逆に言えば、テレノールのおかげで、通信会社は新しい市場を開拓できたとも言える。これもまた、本業としてのCSRの見本だと思う。

多くの企業では、CSR活動はまだまだ企業PRの範疇でしか考えていないように見える。しかし、その多くは他社のCSR活動と差別化できていないことが多く、せっかく良いことをしていても、それをテレビやウェブサイトで広報しても、生活者に対してはあまりインパクトが無いケースが多い。つまり、企業広報としても寄与していない。CSR活動も商品と同じで、差別化が必要なのだ。
そして、差別性を生み、企業広報としても大きな成果を得るためには、本業としてのCSRが最も効果的だと言える。その企業にしかできないことで社会貢献するということは、生活者に対して大きなインパクトを与えるし、なによりも、その企業の本業が、世の中の役に立つし、事業としても大きな可能性があることを、つまりその企業の成長性、未来を生活者に大きく深く印象づけられるからだ。

また、CSRは企業広報としての価値しかないと主張する論者も世の中にはいるが、そうではなく、大きな市場を生み出せるということは、HPやP&G、テレノールの事例であきらかだ。企業広報の価値しかないCSRとは、所詮、その程度のアイデアでしかないということでもある。

日本の企業は技術もアイデアもあるし、そもそも本業としてのCSR的な発想で創業した企業が多いのだから、ぜひ世界をアッと言わせるCSR活動を生み出して欲しい。

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