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2008年3月15日

◎志賀原発再稼働へ 原子力、共生本部の責任重い

 機は熟したと言えるだろう。志賀原発2号機を速やかに再稼働させ、夏場に想定される 電力不足に備えねばならない。年間五百五十億円の利益を生む志賀原発を止めておくのは、一企業のみならず、地域や地元自治体にとっても大きな損失である。

 臨界事故隠しを受けた北陸電力の再発防止策は、実施状況が一〇〇%に達し、耐震性を 高める工事も今月完了した。国の最終的な検査結果が「問題なし」だった以上、再稼働に向けての障害はなくなった。残された課題があるとするなら、北電が練り上げた再発防止策の中身や耐震設備ではなく、人の問題に尽きるのではないか。地元との信頼関係を再構築し、より太いきずなにしていくために、社員一人ひとりのさらなる努力が必要だ。

 特に地域に根を下ろす原子力本部と地域共生本部の責任、役割は極めて重い。その一挙 手一投足に県民の厳しい目が注がれていることを忘れないでほしい。

 志賀原発2号機は昨年三月、タービン損傷で点検中に発覚した1号機の臨界事故隠しの 余波と能登半島地震の影響で停止した。臨界事故隠しについては、外部の検証委員会が再発防止策を点検し、「完ぺきに近い」と高く評価し、国の最終検査もこの結論を裏付けた。

 もう一つの懸案だった原発の耐震性に対しても、運転再開を急がずに、耐震補強工事を 優先させ、石橋をたたく慎重さで耐震補強の追加工事を実施してきた。新潟の中越沖地震で発生した柏崎刈羽原発のトラブルをつぶさに調べ、教訓を十分に反映させることができたのは、不幸中の幸いだったかもしれない。

 ただ、机上のプランや設備がいかに優れていようと、社員や現場の担当者が手順や決ま りを守らなければ、絵に描いたモチに終わる。トラブルの際に、チームが一丸となって危機に対応できるかどうかは、日ごろの訓練と士気の高さ、この地域を大切に思う心にかかっていよう。

 幸い、原子力本部の創設で、現場と北電本社の間にあった壁が無くなり、風通しは随分 良くなった。地域共生本部は、地元の声を吸い上げ、社員が地域に溶け込む環境も整った。この地域密着の強みを信頼性向上に役立てていく必要がある。

◎日銀総裁人事 政府案優先が常道では

 次期日銀総裁に武藤敏郎副総裁を昇格させる政府の人事案が参院で否決されたため、政 府が総裁候補を差し替える方向で調整に入ったことには疑問が残る。

 衆院と参院で国家意思が分断された状況では、与野党の歩み寄りが必要であり、法案づ くりで政府・与党側が譲歩することはあり得る。しかし、内閣が任命する人事、政府の行政権の行使である人事についてはどうであろう。憲法や日銀法が想定していない今回のような場合は、やはり内閣の意思を優先し、野党側の譲歩で国家機能が動くようにするのが議院内閣制による政治の常道ではないだろうか。

 日銀総裁という国の最高次の人事が権力闘争にほんろうされ、首相がベストだといって 提示した案が、野党の胸一つで覆されるようでは、日銀の国際的な信認が低下し、国の威信まで傷ついてしまうのではないかと心配である。

 民主党は「武藤総裁」に反対した理由の一つに、超低金利政策を長年続け、国民の利子 収入を激減させたことを挙げている。しかし、民主党が副総裁にふさわしいと賛成した白川方明氏も、元日銀理事として超低金利政策を支えた一人であり、民主党の反対理由は一貫性に欠け、筋が通っていないことが分かる。

 武藤氏は財務省の幹部だったから「財政と金融の分離」原則にそぐわず、日銀の独立性 も脅かされるという最大の反対理由は、乱暴で短絡的な論理と言わざるを得ない。財務省出身者が中央銀行のトップに就く例は欧米では珍しくない。

 改正日銀法は、日銀の独立性を強める一方、政府と意思疎通を図り、政府の経済政策と 整合性のある金融政策を行うことを求めている。そうした点で武藤氏が日銀総裁に最もふさわしいという福田首相の判断は、もっともであると考える。総裁候補を替えることによって与野党の対立が解け、総裁の空白状態が避けられたとしても、福田首相の指導力や求心力の低下は避けられないと覚悟しなければなるまい。

 衆参両院の同意を得て内閣が任命するとだけ規定され、衆院の優位性も再議決の仕組み も認められていない現在の日銀総裁決定の在り方を見直す必要もあると思われる。


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