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ネットウォッチング

自殺報道ガイドライン作成の議論を

ネットでの自殺方法提示を受けて考える

渋井 哲也(2008-03-14 20:05)
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 岡山市の医師(45)宅で12日、高校2年生の長男(17)と母親(43)が薬剤を混合させて中毒死した事件で、自殺予告とみられる書き込みがインターネットの掲示板に書かれていた──と、毎日新聞が伝えた。この自殺報道がインターネットで流れる前から、同様の方法での自殺が相次いでいる。そこには、自殺報道の難しさがある。しかし、インターネットで自殺の方法が普及してしまう可能性について関係者は危惧する。

2ちゃんねるでのスレッドが影響?

相次ぐ有毒ガス中毒自殺は2ちゃんねるのスレッドの影響なのか?
 毎日新聞の報道によると、亡くなった2人が倒れていると、帰宅した中学2年の次男(14)が119番通報。病院に搬送されたが間もなく亡くなった。自殺予告と思われる書き込みは、12日午前0時50分ごろに、「中国地方O市、自宅自室(四畳半、天井2・2m、引き戸には目張り予定)」などとあった。同日午後3時ごろには、「私に関わってくれた人、全てに感謝します、では、さようなら」などと書き込まれていた、という。

 今回の薬剤調合による中毒死については、最近になって、2ちゃんねるで「練炭自殺に代わる、新しい自殺方法が開発されました」というスレッドが立ち上がったことが影響しているのではないか、とも見られている。

 NPO法人自殺対策支援センター「ライフリンク」代表の清水康之氏も、このスレッドに注意を払い、内閣府に対策を取るように進言した。

 「このスレッドは昨年でたもので、当初は事実関係を書いていただけでしたが、今年に入ってから『練炭自殺に代わる、新しい自殺方法が開発されました』などの文言が加わったんです。書き込みも加速しています。こうした情報が簡単に入手できることは、本気で自殺したいと考えていなくても、自殺のハードルを下げてしまうことになる」

 2月16日、埼玉県川越市のラブホテル内で男性2人と女性1人が死亡しているのが発見された。いわゆるネット心中と見られているが、このときに使われた自殺の方法が、これまでネット心中の主流だった練炭による一酸化炭素中毒死ではなく、薬剤調合による有毒ガス中毒死だった。これまでネット心中の方法では、練炭以外に、首吊りや飛び降りは見られたが、有毒ガス中毒は初めて、と思われる。

 私は、自殺未遂者の取材を続けているが、薬剤調合によって有毒ガスを発生させるやり方はそれほど珍しくはない。しかし、川越市で3人が亡くなったのはネット心中と思われるために、ネット上に情報がヒントではないか、と想像した。偶然にも、ネットをチェックする前に読んでいた「漫画ナックルズ」(ミリオン出版)にも、同様の自殺方法が記されていた。

どんな情報が自殺志願者に影響を与えるか

 インターネット上で自殺の方法が提示されることは珍しいことではない。また、新聞報道を受けた自殺の連鎖もよく指摘されている。2003年以降連鎖したネット心中で使われた方法も、以前から2ちゃんねるでスレッドがあった。

 自殺に関する情報があると、自殺志願者にとっては、自殺の道具が提示されたと同じという負の面がある。その一方で、自殺願望の背景を考えなければならず、報道することの社会的意義はある、という面もあり、報道の現場としてはジレンマを抱えている。

 私も新人記者時代に、サツ回り(警察取材)をしてきたが、自殺に関する報道はほとんどしていない。あるとき、全国でいじめ自殺が連鎖したときに、私の取材エリアでも中学生が自殺した。その取材をしたが、結局は報道しなかった。いじめがあったとの一部証言はあったものの、確証をもてなかったためだ。

 難しい自殺報道に関して、世界保健機構(WHO)はガイドラインを定めている。それによると、「報道がすべきこと」として、

 ・事実を提示する際は、ヘルスケアの専門家と協働する
 ・自殺が「成功した」という表現は用いない
 ・関連するデータのみを提示する
 ・自殺に代わる別の問題解決の選択肢があることに情報提供の重点を置く
 ・電話相談や地域支援の情報を提供する
 ・自殺のリスク要因や警告のサインを提供する

 また、「報道がすべきではないこと」として、

 ・写真や自殺の手記(遺書)は掲載あるいは出版すること
 ・方法を詳細に伝えること
 ・自殺の理由を単純化して伝えること
 ・自殺を名誉あるものとして、センセーショナルに扱うこと
 ・宗教的/文化的なステレオタイプを用いて説明すること
 ・自殺(者)を非難すること

 といった内容だ。

日本でも自殺報道ガイドラインの作成を

 日本では自殺報道のガイドラインがないが、内閣府の自殺対策推進会議等でも、報道のあり方は議論の対象になっている。 

 自殺志願者にとっては、インターネットのどのような情報が「自殺の手段」として提供されるかは未知数だ。それは、ネット心中が連鎖するきっかけとなった埼玉県入間市でのネット心中の呼びかけ人が参考にしていたネット上の情報が、毎日新聞の記事(自殺系サイトで知り合った人同士の自殺を報道したもの)や保健所のサイト(一酸化炭素中毒に注意するよう呼びかけたもの)だったことを考えれば明らかだ。

 「(自殺方法を提示する情報は)有害情報として削除すべきだろうが、なかなかできるものではない。できることとすれば、相談窓口の情報をカウンター的に書き込むしかない。自殺対策も考える必要はあるが、日々、現場ではこうした対応が迫られている」(清水氏)

 報道としては事実を伝えたい。そのため、方法を含めて、入手できた情報は書きたいという欲求はあることは十分に理解できる。しかし、報道は多くの人が目にし、時にインターネットに情報として流れるために、影響力は大きい。結局、今回問題となったスレッドも報道が元になったと思われる。そのため、報道がどのように自殺を伝えていくのか。自殺報道のガイドライン作成について、議論すべき時期ではないのだろうか。


■参考サイト
都道府県・政令指定都市等自殺対策HP
WHOによる自殺予防の手引き(pdf)
WHOによる報道ガイドライン(英語、pdf)


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