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2008年03月14日(金曜日)付

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胡主席来日―ギョーザの影をはらえ 

 中国の胡錦濤国家主席が5月のゴールデンウイーク明けに来日する。日中両国政府は、その方向で日程の最終調整を急いでいる。中国元首の来日は、98年の江沢民主席以来だ。10年ぶりの訪問を心から歓迎したいと思う。

 しかし、ギョーザ中毒事件が主席の訪日に暗い影を投げかけている。

 日本から見ると、中毒事件をめぐる中国側のこれまでの対応には不満に感じる点が少なくない。「互いに連携して捜査を」と合意しあっていたのに、中国の捜査当局が記者会見を開き、強い姿勢で「中国で農薬が混入した可能性はきわめて低い」と発表した。

 日本は逆に「国内で混入した可能性は低い」とみていたから、「中国はこのまま捜査から手を引いてしまうのか」と懸念する声が広がったのも無理はない。

 外交当局同士は、この問題と訪日を絡めたくないと考えているようだ。確かに、この事件だけで両国の関係全体が損なわれることは避けなければなるまい。

 中国は経済的にも軍事的にも急速に台頭しつつある。そんな隣国と日本がどう向き合っていくのか。国際社会の様々な問題を解決するため、両国間でどんな協力ができるのか。ようやく軌道に乗り始めた首脳同士の意見交換は極めて大切だからだ。

 といって「日中関係とギョーザは別」と割り切ることもできない。なぜなら、ことは食の安全にかかわるからである。日本国民の関心はたいへん高い。なのに、中国当局はあいまいなまま幕を引こうとしているのではないか。日本側は中国側の誠意を疑っているのだ。

 大事なことは、解決の道筋を見いだそうとする双方の努力だ。そうした明確な姿勢があれば、たとえすぐに問題が解決しなくとも両国の関係は前進する。

 しかし、それが見られなければ、せっかくの首脳交流もむなしいものに映るだろう。

 中国にしてみれば、捜査が先行した日本が先に、中国での混入をうかがわせるような見解を示したことで、メンツをつぶされたと感じたのかもしれない。だが、万一それで捜査を投げ出すようなことがあっては、中国にとってもマイナスが大きすぎる。

 現在の日中関係には東アジアにおける主導権争いの側面もある。ちょっとしたことがナショナリズムに火を付ける。下手をすれば、日本の中にある反中感情を刺激して小泉元首相の靖国参拝のときのような負のスパイラルに陥りかねない。

 幸い中国側は捜査員らを再度、日本に派遣する意向を示している。できるだけ早く両国の捜査担当者が顔を合わせて会議を開くことだ。捜査協力の進め方や検証のための実験方法などを率直に話し合い、打開の道を探ってもらいたい。

 せっかく立て直した日中関係だ。主席来日を念頭に、中国にも冷静で真剣な捜査を求めたい。

春闘―後半戦で巻き返せ

 スタンドの歓声を背に助走に入ったものの、逆風が吹きだして失速し、目標のバーを落としてしまった。

 春闘の前半戦は、こんな尻すぼみに終わった。大手製造業の賃上げは、多くが前年並みにとどまった。3年連続の賃上げとはいえ、渋い結果である。

 賃上げを通じて、輸出と設備投資の好調を内需拡大へつなぐ。例年になく強い期待が今春闘には寄せられていた。日本経団連も久しぶりに賃上げ容認の姿勢を示し、期待はさらに膨らんだ。最終盤には、福田首相が御手洗冨士夫・経団連会長を官邸へ呼んで、賃上げを要請する猛プッシュを見せた。

 だが、米国から吹きつけた金融不安の逆風にはかなわなかった。株安と円高が波状的に進み、きのうは1ドル=100円を突破した。日本の景気の先行きにも不安感が広がっている。米国発の動揺はもっと強まる気配である。

 世界的な環境悪化に経営側が身構え、財布のヒモを締めたのはやむを得ない面がある。とはいえ、企業は全体として5年連続の好業績を続けている。いまはその蓄積を家計へ回し、内需を柱とした成長路線へ構造転換する好機にある。それを逃すとしたら残念だ。

 ここは、これからの後半戦に期待をつなぐことにしよう。

 商業やサービス業、中小企業では、これから交渉が本格化する。内需依存度が高い産業群だ。経営側には、景気全体のことも考えて判断してほしい。

 組合側も大手のリードに頼るのではなく、取れるものはきちんと取る気構えが必要だ。大手の組合も中小の組合の活動を支援するなど、賃上げのすそ野を広げるよう気を配るべきだ。

 今後の焦点は、非正規社員の待遇改善にある。賃上げ抑制で残った原資は、非正規社員へ回す余地があるはずだ。

 連合の集計では、パートなどの待遇改善を訴えている組合が、前年より100多い415組合にのぼる。非正規雇用の人たちの自立のためにも、雇用構造に生じているゆがみを是正するためにも、これからが踏ん張りどころだ。

 賃上げの原資を、働き方の改善に使う試みも目につく。松下電器産業では、キャリア形成や健康維持などに役立つ支援金にあてる。社員のワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)への配慮である。三菱重工業は原資をすべて業務成績に応じて配分し、社員のやる気を引き出そうとしている。こうした試みはもっと広がってほしい。

 残業代の割増率の引き上げに力を入れた組合も多かった。残業のコストを高めて長時間労働を抑制する狙いだが、電機産業などでは継続協議に終わった。

 経営側は残業代を引き上げても時短効果はないと主張するが、理解しがたい論理だ。時短につなげられるかどうかは、経営側の働かせ方いかんによるのではないだろうか。

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