2.読み方に関する問題
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(正)(許)(△)(誤)のしるしの基準
(正) |
規範的、標準的、一般的な形 国語表記の本則 |
(許) |
現代仮名遣い・送り仮名の付け方など、国語表記の許容 |
(△) |
やや一般的でない形 やや適切でない形 |
(誤) |
表記・用法上の間違い |
(ほ)
(158) (正)ぼいん(母音) /(△)ぼおん(△) 現代日本語のぼおん(母音)は、ふつうア・イ・ウ・エ・オの五つに区別する。(コメント:「母音」は「ぼいん」(「イン」は漢音)と読むのが一般的である。しかし、文部省編「学術用語集 物理学編」では「ぼおん」(「オン」は呉音)を掲げているなど、「ぼおん」も否定はされない。「子音」の「しいん」「しおん」についても同様である。)
(159) (正)ほうがんびいき(判官贔屓)/(正)はんがんびいき(正) はんがん(判官)びいきからか、劣勢のチームが攻撃を開始すると、観客の声援がいちだんと大きくなった。(コメント:「判官びいき」とは、不運な英雄九郎判官 (ほうがん)源義経(みなもとのよしつね)に同情しその肩を持つことから、弱い立場にある者への同情を意味する。「判官びいき」の当初の読みは「ほうがんびいき」であった。しかし、「ほうがん」(歴史的仮名遣いは「はうぐゎん」)は「はんぐゎん」から転じた読みであり、そのもとの読みによって「はんがんびいき」も使われるようになった。「判官」は、律令制で、四等官中の第三等官で、特に検非違使(けびいし)・兵衛府(ひょうえふ)・衛門府(えもんふ)の三等官を指した。義経は検非違使の尉(じょう)(=三等官)であったことから「判官」と呼ばれた。)
(160) (正)ぼうげん(妄言)/(正)もうげん(正) 彼は君に僕のことをうちの会社の専務の親戚(しんせき)だと言ったんだって。とんでもないもうげん(妄言)を吐いたものだ。(コメント:「妄言(=でたらめな言葉。いいかげんな言葉)」は、「あの男の妄言に惑わされるな」「妄言多罪」などとも使われる語であるが、「ぼうげん」とも「もうげん」とも読む。(「妄」は、漢音「ボウ」、呉音「モウ」。「言」は、漢音「ゲン」、呉音「ゴン」。)現在、「ぼうげん」のほうが優勢であるが、「暴言(=乱暴な言葉)」との紛れをなくす意味では「もうげん」のほうがよいとも言える。)
(161) (正)ほうもつでん(宝物殿)/(誤)ほうぶつでん(誤) ほうぶつでん(宝物殿)で、神社の秘蔵の品々を鑑賞する。(コメント:「宝物殿(=たからものを納めておく建物)」は、「ほうもつでん」が伝統的な読み方であり、「ほうぶつでん」は誤りである。単に「宝物」とある場合も「ほうもつ」である。「物」を「モツ」と読む語には、他に「一物」「貨物」「禁物」「供物 (くもつ)」「献物」「穀物」「食物」「書物」「進物」「臓物」「荷物」などがある。)
(162) (正)ほご(反故)/(△)ほぐ(△) いくら書いても満足のいく作品が出来上がらず、山のようにあった画仙紙をほぐ(反故)にしてしまった。(コメント:「反故(=書き損じたりして不用になった紙)」(「反古」とも)には、「ほご」「ほぐ」「ほうご」「ほうぐ」「ほんご」「ほんぐ」などさまざまな読みがある。しかし、現在では「ほご」が一般的であり、新聞でも放送でも「ほご」を用いている。なお、「約束(契約)をほごにする(=ないものとする。破る)」の「ほご」もこの「反故」である。表記については、常用漢字表の「反」「故」欄に「ほ」「ご」の音がないので、仮名で書かれることも多い。)
(163) (正)ほっそく(発足)/(△)はっそく(△) 環境保全のための委員会がはっそく(発足)した。(コメント:「発足(=団体・組織などが新しく作られて活動を始めること。もと、旅などに出発すること)」は、「ほっそく」が伝統的・規範的な読み方と言える。(「ホツ」は慣用音。一説に呉音。)今日、「はっそく」(「ハツ」は漢音)と言う人も多いが、標準的な読み方とは言えない。他に、「発願」「発起」「発句」「発作」「発心」「発端」などの「発」も「ホツ」と読む。)
(164) ほてい(補綴)/ ほてつ (△) 教師が生徒の文章をほてつ(補綴)する。(コメント:「補綴」は「ほてい」とも「ほてつ」とも読むが、「ほてい」が一般的である。意味は、「破れや足りないところを繕いつづること。転じて、(文章などに)手を加えて、不足などを補ったり誤りを直したりすること。また、古人・先人の語句をつづり合わせて詩文を作ること」をいう。近年、「欠けた歯を義歯や金属冠などで補い、機能を回復させること」の意でも「補綴」が使われるが、この場合の読みは、ふつう「ほてつ」であり、「ほてい」とは言わない。)
(165) (正)蒲柳(ほりゅう)の質(しつ)/(誤)蒲柳のたち(誤) 彼は若いころから蒲柳のたち(質)と見られ、周囲の人にもそう長生きできないのではないかと思われていたが、徹底した摂生を続けたためか、八十を過ぎても元気でいる。(コメント:「蒲柳」はかわやなぎの異称で、秋が近づくや早々に枯れて葉を落とすという。そこから、「幼少のころから体質が弱いさま」を「蒲柳の質」という。中国の「世説新語」<言語>にある「蒲柳の姿 (し)は秋を望んで落ち、松柏(しょうはく)の質(しつ)は霜を凌(しの)いで猶(なほ)茂る」を出典とする。ふつう、「たち」は、「おこりっぽいたち」「蕁麻疹(じんましん)の出やすいたち」などと使われるが、「蒲柳のたち」とは言わない。「しつ」は、「天賦(てんぷ)の質に恵まれる」などとも使われる。なお、「蒲」は常用漢字表にない字。「質」の「たち」は表外の訓である。)
(166) ほんぶん(本文)/ ほんもん (誤) 民法の「遺言の方式」第967条には、「遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってこれをしなければならない」というほんもん(本文)に続いて、「但し、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない」というただし書が付いている。(コメント:「本文」は、意味によって次のように読み分けるのが普通である。(1)(頭注・脚注・割り注・傍注などの)注釈に対して、もとの文章。<読みーほんもん> (2)文書・書物の本体となる部分。目次・序文・跋文 (ばつぶん)(=後書き)などを除いた、主になっている文。<読みーほんぶん・ほんもん。近年は「ほんぶん」が優勢> (3)古い詩や文章に見える、よりどころとすべき文句。典拠のある気の利いた句。<読みーほんもん> (4)(法律上の専門用語として)ある条項中にただし書が設けられている場合、そのただし書に対して、その条項の本体に当たる部分。<読みーほんぶん>。冒頭例は(4)の場合であるから、「ほんぶん」が正しい。) |