少年事件の審判で被害者らの傍聴を認めるよう、法制審議会が少年法の改正を求める答申を出した。法務省はいまの通常国会に改正案を提出する見通しだ。
なぜわが子がひどい目に遭ったのか。事実を知りたいという被害家族の思いにこたえるものだ。半面、罪を犯した少年の更生を目的とする少年法の理念を揺るがしかねない面もある。慎重に検討すべきだ。
成人の刑事事件の裁判は、原則として傍聴は自由にできる。少年事件の裁判にあたる「少年審判」は、原則非公開で行う
事実経過を明らかにするだけでなく、家庭の状況や人間関係にも踏み込み、教育的な対応を検討する。少年の立ち直りを主眼にするのが少年法の基本的な考えである。
少年の保護が優先されるため、被害者側が蚊帳の外に置かれがちとの批判は強い。犯罪に巻き込まれても、何が起きたのかよく分からないことへの憤りはもっともだ。
そういった声を反映して、▽家庭裁判所が被害者の意見を聴く▽事件記録の閲覧やコピーを条件付きで認める▽審判の結果を伝える、といった制度改正を行ってきた。
今回の見直し案はさらに踏み込んでいる。故意や過失による死傷事件で、被害者らの申請があれば家庭裁判所が傍聴を許可できるようにする。少年の年齢や事件の内容を考慮する、との条件付きだ。
同時に、記録の閲覧やコピーの制限の緩和を求めている。
被害者の感情を考えれば、情報公開を充実する方向は歓迎する。ただし、審判の場に傍聴者が入ることは、慎重に考えたい。
被害者やその家族が近くにいると、少年が心を開いて話せなくなる心配が高まる。とりわけ、14歳未満の審判も傍聴を認めるのは納得がいかない。犯罪の背景には虐待など生育環境が影響している場合がある。傍聴者がいるとプライバシーにかかわる問題を明らかにしにくく、ふさわしい判断を出せないのではないか、といった指摘もある。
事件後まもなく開かれる審判では、加害少年の生の声を聞いて、被害者が精神的にダメージを受ける可能性もある。
少年を立ち直らせるには、被害者や家族の痛み、悲しみを伝えることも大事だ。そのために、審判の場で顔を合わせることがふさわしいのかどうか、慎重に考えたい。
突然、犯罪に巻き込まれた家族には司法の手続き一つひとつが分かりにくい。少しでも被害者の声が届くよう、裁判所や弁護士らが、いまの制度でできることを分かりやすく伝えるのが先だろう。