◎円高・採用手控え 北陸にも「政治不況」の影
日銀総裁が不在になりかねない状況下で、円相場がついに一ドル=九九円台を付けた。
輸出関連企業が景気をけん引してきた北陸でも原油高や雇用統計の悪化などで日銀金沢支店が景気判断を下方修正し、下ぶれリスクがますます高まっている。
三月の北陸金融経済月報を見ると、建築着工数の減少など「官製不況」は依然として深
刻で、原材料高と円高が企業業績を直撃しているフシがうかがえる。なかでも円相場は「通貨の番人」たる日銀総裁の後任が決まらない弱みもあり、一ドル=一〇〇円突破は確実と言われていた。サブプライム問題に端を発した世界的な信用不安に官製不況が加わり、さらに「政治不況」が追い打ちをかける負の連鎖が、北陸の景気にもジワジワと悪影響を及ぼしている。
改正建築基準法施行の影響で、北陸三県の新設住宅着工数は、昨年十一―今年一月の数
字で5・4%のマイナスだった。これまでよりマイナス幅は縮小したものの、マンションなどの分譲はマイナス55・2%と依然厳しい数字が出ている。北陸新幹線の開業に向け、金沢市や富山市で活発化していた不動産投資に冷や水を浴びせた格好であり、この影響はまだまだ尾を引くだろう。
主力の製造業では、原材料の高騰が重くのしかかり、企業収益は〇七年度計画が下方修
正された。生産は活発で、デジタル家電や携帯電話関連の電子部品や建設機械、工作機械が増加し、化学、鉄鋼・非鉄も強い半面、繊維やアルミ建材などが弱含んでいる。懸念材料は、このところ急速に進む円高である。北陸の企業にとって一ドル=一〇〇円前後のレートは想定外であり、この円高が定着すると、業績のさらなる下方修正は避けられなくなろう。
円高で輸入の原材料購入価格が安くなるとはいえ、円高によるマイナス面の方がはるか
に大きい。さらに米国景気の後退が中国やロシア経済などに広がった場合、生産も頭打ちになる懸念がある。
企業の景況感の悪化とともに、一部の中小企業で設備投資を減らす動きが出始めている
。採用の手控えムードも広がっており、新規求人は六カ月連続で減少した。雇用環境の悪化は、北陸経済の新たな不安材料と言えるだろう。
◎新銀行東京 敗戦処理の時のようだが
資金繰りに苦しむ中小企業を支援するため、東京都の石原慎太郎知事の強い思い入れで
二〇〇五年に設立された新銀行東京が約一千億円の累積赤字を抱えて経営難に陥り、石原知事が四百億円の追加出資を都議会に要請し、その是非についての審議が行われている。
再投資による立て直し案が示されてはいるものの、見通しの甘さが指摘されている。都
議会では与党の自民、公明両党の議員が過半数を占めているため、追加投資の要請が通る可能性もあるのだが、仮に要請が通ったとしても、いわゆるソフトランディングで“敗戦処理”に取りかかる時がきたように思われる。
都によると、同行は昨年三月期で「深刻な経営状況」が分かり、昨年夏から再建に向け
て「業務提携」や「営業譲渡」や「出資依頼」を金融機関に働き掛けてきたが、ことごとく断られてきたという。
そうした状況について石原知事はここでつぶしてはさらに一千億円が必要になり、「進
むも地獄、引くも地獄」と語っている。結局はさらに軟着陸の道を探すしかあるまいと言わざるを得ないのである。
先日、昨年十一月から同行のトップに就いた津島隆一代表執行役が記者会見し、多額の
赤字の原因となった不良債権増加は「(旧執行部の)過剰融資の実行など常軌を逸した業務運営が要因」と断じた、信じがたいずさんさを糾弾する調査報告書を公表した。同行の設立に都が一千億円を、複数の民間企業が約二百億円を出資したが、その大半が損失になったのだ。こうなった結末は石原知事の責任でもあるだろう。
同行が「失われた十年」の後始末に追われて貸し渋る銀行に対するアンチテーゼとして
出発したことを思うと、石原知事の無念は察するに余りある。が、無担保融資などの大胆さに当初から先行きを危ぶむ声や、民業圧迫にならないよう既存の銀行と組み、支店などそのネットワークを借りてバーチャルなメトロポリタン銀行として中小企業を支援していく道もあるのではないかとの指摘があった。その意味で、何かと教訓を残したことは否定できないのだから、石原知事が意地を押し通すことには賛成しかねる。