正会員社である社団法人新情報センターにおける一連の調査において、不適切な調査実施が行われた件につきまして、当協会は、社団法人新情報センターに対し「無期限資格停止」の処分を決定し、過日通告しました。
この事件が業界に与えた影響は重大であり、世論調査、市場調査一般の社会的信頼、信用を失いかねないものと当協会では重く受けとめ、慎重に調査、審議を重ねてきた上での結論であります。
同社に関しては既に複数の調査の不正疑義が報道されていますが、最初に報道されたのは日本銀行から受託して6月に実施した「第23回生活者意識調査」における不正事件でした。
この事件の発覚後、当協会の倫理綱領委員会が行った事情聴取では、クライアントと合意した調査仕様に反して名目上の回収率を確保するためにいわゆる「飛び込み」を指示した事実、また調査後のインスペクション(実査監査)を全く実施せずに、調査員によるメイキング行為を見逃したまま実査完了した事実などが確認されています。これらの行為はJMRQSから逸脱するだけでなく、まさに「調査の倫理性と科学性」を裏切るマーケティング・リサーチ綱領違反行為であり、当協会としては断固として許せない行為であります。
その後、内閣府より受託した「地域再生に関する特別世論調査」「食育に関する特別世論調査」、総務省より受託した「家計消費動向調査」についても、調査の不適切性が報道されました。既に内閣府、総務省とも調査内容の修正と同社に対する処分を発表しております。報道内容や各省からの発表内容から判断するに、これらの調査においても実施時期、実施体制、品質管理基準において日本銀行より受託した「第23回生活者意識調査」と概ね同様の状況下で調査が実施されており、同様の綱領違反が行われていたと推察されるものであります。
今回、当協会は「無期限資格停止」という除名に次ぐ重い処分を決定したわけですが、この処分の趣旨は今回の事件が1回限りの個人の過失に基づくものではなく、組織の品質管理姿勢・体制に問題の根幹を持つ悪質なものであると判断したからであります。
本件は、マーケティング・リサーチの信頼性を揺るがしかねない大事件であったわけですが、これを受けて業界として、またはJMRAとしての責務は何であるかを考えてみました。
まず、当然のことですが、正会員社の皆様方に改めて「マーケティング・リサーチ綱領」「JMRQS」の社内普及を進めていただき、リサーチャーの一人ひとりが「調査の社会的意義」と「調査の品質向上」を理解していただくことであります。不正を絶対に許さない、品質第一の企業姿勢こそが、調査の信頼性の基盤となると考えます。
もうひとつは、本件の背景的考察から申し上げます。
訪問調査のフィールド環境は、在宅率の変化などを考えてもお分かりのように、激変しています。この20数年で訪問面接調査の期待回収率は毎年少しずつ低減していったはずです。それにも関わらず、金科玉条のごとく前年踏襲を繰り返し、回収率目標も20数年前そのまま、調査仕様もそのままとすれば、無理が出るのは当然です。
なぜ前年踏襲を繰り返すのか。それはある意味、調査という仕事が背負っている宿命かもしれません。「ResearchはRe-Searchである」。つまり繰り返し同じ方法で調べることによって市場の変化を知ることが市場調査の役割であるがゆえに、「前年踏襲的に」対応する姿勢が身についてしまっているところがあります。しかし「前年踏襲的な対応」が何年も積み重なれば、原点からはるかに遠ざかり、原点に回帰することは不可能な状況が生まれてきます。今回の新情報センターは「調査の倫理性と科学性」という原点を見失った状態といえるかと思います。
「回収率の高い調査は良い調査」というドグマがありますが、現代の訪問調査のフィールド環境においては、回収率そのものの定義から再出発する必要があると思います。我々は原点に立ち返って、フィールド環境を調査研究する必要があります。JMRAではこの問題意識を捉え、既に調査研究部会において「被調査者の調査」委員会を立ち上げ、取り組みを始めております。
市場調査業界は否応なく変化への対応を求められています。今までのような前年踏襲的な対応では、マーケティング・リサーチ業界の今後の発展もなければ、市場調査の原点である「調査の倫理性と科学性」の保証もないと考えなければいけません。変化を捉え、変化に対し勇気をもって対応していける業界であり、それを支えることができるJMRAでありたいと思います。皆様のご理解とご協力をよろしくお願いします。
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