検索サービスが取り締まられて良いか?
小倉秀夫弁護士の「IT法のTop Front」に、「『検索サービスの抗弁』の必要性」という記事が掲載されている。その趣旨は、わが国では、「検索サービス」は、著作権等の侵害行為であるとされたり、犯罪行為の幇助犯とされる危険があるから、検索サービスの提供者は法的責任を負わないとする法律を制定すべきであるというものである。
ここでは、特に、検索サービスが何らかの犯罪行為の幇助犯とされる危険について考えてみたい。
そもそも、検索サービスが、どうして、犯罪行為の幇助犯とされる余地があるのか。
それは、例えば、検索サービスで、「わいせつ」とか「児童ポルノ」という用語が検索すると、わいせつな画像が掲載されているホームページや児童ポルノ画像が掲載されているホームページがリストアップされ、それらのホームページとリンクが張られている場合を想定すれば分かりやすいだろう。
この場合に、検索サービスを利用して、それらのホームページへ訪れるユーザーが増えるとしたら、わいせつ画像公然陳列罪(刑法175条)や、児童ポルノ提供罪(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条4項後段)の幇助犯(片面的共犯)が成立するのではないかが、ここでの問題である。
そして、この問題は、リンクを張る行為が、そもそも幇助行為たりうるかという問題である。この点については、園田寿・甲南大学法学部教授が、次のように述べていることが参考になる(電脳世界の刑法学の「質問と回答」欄)。
「リンク行為自体はインターネットではまったく通常の行為といえるでしょう。しかし、たとえば果物ナイフの製造や販売それ自体については何ら違法性がなくても、殺人を犯そうとする者にそれを知って果物ナイフを貸すことは殺人の幇助となることも当然です。リンク行為がインターネットでは当然の行為だからという理由だけでは、わいせつ図画公然陳列の幇助を否定する根拠にはなりにくいと思います。」
私は、かつて、自分の著書の中で、この点について、次のように述べたことがある(拙著『最前線インターネットQ&A集・サイバースペース法入門』〔1997、情報管理〕184頁)。
「リンクを張る行為というのは、ホームページ上に、リンク先のURLを記述して、リンク先のホームページからの公衆送信を促すものとは言えますが、それ以上のものではなく、原則として、リンクを張る行為それ自体は無色の行為であると考えられます。したがって、リンク先のホームページにわいせつな画像データが掲載されているとしても、リンクを張る行為それ自体については、その共犯(幇助犯)は成立しないと考えられます。ただし、リンク先のホームページの内容を認識した上で、ことさらにそのホームページを宣伝して、リンクを張って、そのホームページへのアクセスを容易にしたような場合には、わいせつ図画公然陳列罪の幇助犯が成立する場合があると思われます。」
随分前に書かれたものであるが、現在においても、この見解は基本的に妥当するのではないかと思われる。そして、園田教授の見解とは少し観点が違っているが、結果においてはあまり違いがないように思われる。
そこで、検索サービスに対してこの理論を適用することができるかどうかが次の問題である。
一般的に、検索エンジンには、ディレクトリ型とロボット型があると言われている。ディレクトリ型というのは、人の手によって細かくカテゴリに分類されるものであり、ロボット型というのは、検索ロボットがホームページを巡回して収集するものである(参考になるサイト)。
したがって、この問題を考えるには、この2つのタイプによって分けて論じる必要がある。
ロボット型については、機械的にリンク先を収集しているのであるから、リンク先のホームページの内容に対する認識はないと考えられるので、常に、幇助の故意(幇助意思)はなく、幇助犯が成立する余地はないと考えられる。
これに対して、ディレクトリ型については、人が審査をしているのであるから、リンク先のホームページの内容を認識していないとは必ずしも言えない。そういう意味では、この場合には幇助犯が成立する可能性があるといえそうであるる。
しかしながら、ディレクトリ型の検索サービスについても、それを日常取引と見たり、中立的行為と考えるべきである。そして、「それが外形上平穏な取引である限り、犯行に利用される未必的な認識がある場合でも、幇助にならないと解されるべきである」(松宮孝明『刑法総論講義〔第3版〕』〔2004、成文堂〕269頁参照)。
そして、この点については、立法によるまでもなく、解釈論として確立されるべきであると考えられる。もちろん、小倉秀夫弁護士は、立法によってこの点を明確にすべきだと主張されているようであるが、まず、解釈論として裁判例などで、このような法理を確立することが必要であると思われる。
ちなみに、警視庁は、本年7月に、国内の検索サイトの運営各社に対して、不正口座などの売買のサイトなどについて、検索結果を表示できなくする措置を講じるよう文書で要請し、ヤフーがこれに応じたことが報道されている(Yomiuri ON-LINEの記事)。警視庁による要請がいかなる法的根拠をもって行われたかは不明であるが、現実は、このように、検索サービスに対する規制が進んでいることも事実であり、検索サービスの法的な位置づけを明確にすることが急がれている。
【Today's Back Music】
Dominick Farinacci/Besame Mucho(MYCJ30291)
若手トランペッターのドミニク・ファリナッチの3作目。私は初めて聴きましたが、安定感があり、心地よいトランペットの音色を聴かせてくれます。
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Tracked on 2004.10.12 at 11:21 AM
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Tracked on 2004.10.17 at 11:22 PM
Comments
児童ポルノへのリンクについては、提供罪正犯とされる可能性があると考えています。
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20041012#p3
著作権の送信可能化権侵害罪についても、「著作権を侵害した者」という構成要件ですから、やはり、リンクを正犯に取りこめる余地があります。
まあ、極端悲観論ですけど。
Posted by: 奥村(大阪弁護士会) | 2004.10.12 at 09:43 AM
↑
だから立法が必要だという意見です。
Posted by: 奥村 徹(大阪弁護士会) | 2004.10.12 at 09:58 AM
奥村さん
コメントありがとうございました。
児童ポルノ提供罪に、リンクする行為が含まれるかどうかについては、奥村さんのプログも拝見しましたが、大変に微妙な気がしました。私としては、リンクする行為自体は提供には当たらないと考えておりますが、この点については、サイバー犯罪条約の規定や解釈も含めて、私自身、もう少し勉強して、いずれ見解を明らかにしたいと思います。
Posted by: ビートニクス | 2004.10.15 at 09:49 AM
ライブドアだけがこの問題でやられてしまいましたね。
Posted by: 奥村(大阪弁護士会) | 2004.10.15 at 11:49 AM