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この市、腐りすぎ〜『京都・同和「裏」行政』
村山祥栄著(評:栗原裕一郎)

講談社+α新書、800円(税別)

評者の読了時間2時間00分

京都・同和「裏」行政 現役市会議員が見た「虚構」と「真実」

京都・同和「裏」行政 現役市会議員が見た「虚構」と「真実」』村山祥栄著、講談社+α新書、800円(税別)

 去る2月17日、京都市長選がおこなわれた。この選挙のゆくえには興味があったので、そこはかとなく観察していた。

 私は東京都に住んでいる。京都市には住んだこともないし住む予定もない。ゆかりほぼゼロの西の街の選挙にどうしてまた注目していたかというと、昨年末にべつの書評仕事で本書を読んでいたからだ。

 本書はタイトルにあるとおり、京都市の同和行政問題を追究した一冊である。同和問題というと、宝島社の『同和利権の真相』シリーズ(一宮美成+グループ・K21)がまず浮かぶが、この本はなんと! 現職の京都市会議員が内側から実態を暴いたものである。

 いわば内部告発だが、『同和利権の真相』が「利権」すなわち“既得権益化した差別にたかる構造”全般を問題にしていたのに対し、この『同和「裏」行政』は、グズグズになっている行政に焦点を絞り、真の差別解消を目的としている点で若干フェイズが異なっている。

 「京都市まじやべー」などと思いつつ読み終わったのだが、「はじめに」にはつぎのような一文があった。

〈首長選のたびに「同和」という問題が争点になるような地域というのも、じつに希有なものであろう。来る平成二〇年(二〇〇八年)二月には京都市長選挙が予定されているが、現段階で争点化されると予想されるテーマのひとつは「同和行政をどうするか」であり、もうひとつは平成一八年(二〇〇六年)から続発した「京都市職員の不祥事問題」であろう。これら二つの問題は、「同和」というキーワードで複雑に絡み合っている〉

 つまり本書は、先の京都市長選へ向けて、市民にすらよく知らされていない同和行政の実態を伝え、問題を広く問うために書かれたものであり、この文章が頭に残っていたせいで、選挙の成り行きがなんとなく気になっていたのである。

終わっていない同和対策事業

 この本で暴かれている同和行政問題はどれも、同和特措法終結(2002年)にともない完結したはずの同和対策事業が、実際には終わっていないことに起因している。

 市職員の不祥事(犯罪)に象徴される市役所内部の腐敗はその最たるものだろう。桝本頼兼前市長の任期11年のあいだに、逮捕者92人、懲戒処分500人以上を数えたという京都市役所職員の不祥事はもはや全国区的に有名だが、あらためて並べられるとやはりすさまじいものがある。

 サラ金のATMをゴルフクラブで破壊しカネを盗もうとして逮捕され免職とか、仕事が気にくわないから公用車の窓ガラスをゴルフクラブで叩き壊して停職といった事件がめじろおしで、議会では「どこの犯罪記録か、暴力団か!?」と嘆息が漏れたという。なかでも覚醒剤の蔓延は深刻で、内部にバイ人がいる、というより暴力団の密売ルートが市役所に入り込んでいる。

 京都市役所には“同和枠”というものがある。部落解放同盟などが推薦する人間を京都市が雇う制度だ。推薦された人物は漏れなく市役所に採用される。つまり同盟側が人事権を握っているわけだが、驚くなかれ、これは縁故やウラ採用などではなく、同和対策事業の一環として維持されてきた「雇用創出」という名の正式枠なのである。そして、一連の不祥事のほとんどは、この枠で採用された職員によるものだった。

既得権益だけでは済まない同和問題の根の深さ

 “貸与”をタテマエとしながら実際は“給付”されてきた同和奨学金の問題や、家賃が非常識に安いのに、滞納率が異様に高く、さらには暴力団の組事務所に使われたりしている改良住宅(同和地区の市営住宅)の問題などが実地のレポを交えながら報告されているが、いずれも、同和対策として始められた事業が、いつしか運動側と癒着し、行政がコントロール能力を失ったがためのなれの果てである。

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このコラムについて

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筆者プロフィール

栗原裕一郎(くりはら・ゆういちろう)

1965年川崎市生まれ。最近はニュー評論家。『「パクリ・盗作」スキャンダル読本』(宝島社)、『禁煙ファシズムと戦う』(ベスト新書)ほか共著多数。『インビテーション』誌にて「毎月150冊出る新書からハズレを引かないための今月読む新書ガイド」連載中。ブログ「おまえにハートブレイク☆オーバードライブ

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