The Global Good News

グッドニュースなインタビュー第2回=鵜尾雅隆さん


ファンドレイジングでNPOが変わる!!
NPOが変われば社会も変わる!!
ファンドレイジングの第一人者・鵜尾雅隆氏インタビュー

NPO、ボランティア団体に対する日本の募金総額は年間約二千億円。アメリカは二十兆円。まさに二ケタも違う。これまで、その差は、税制や寄付の文化の違いにあると言われてきた。しかし、実際にはそうでもなさそうだ。アメリカにはNPO向けの寄付を調達するファンドレイジングのノウハウが確立されており、プロであるファンドレイザーの活躍で、NPOが巨額の資金を調達しているという。つまり、寄付金集めのプロの存在が、日米の寄附文化と寄付金額の差となっている。今回は、日本のファンドレイジングの第一人者・鵜尾雅隆氏に、寄付金集めという視点から、日本のNPO活動の実態と問題点、今後の課題を語っていただく。


Global Good News(以下GGN):そもそもファンドレイジングに興味を持ったきっかけは何ですか?

昔、いろいろとNPO活動に関わってたんですが、お金に絡むことで揉めて分離しちゃったり喧嘩別れしたりして苦労したことがあったんですが、その中で、NPOやNGOの運営って何でこんなに苦労するんだろうと。

良いことをやろうとみんなやってるんですけど、たいへんなんですよね。何がたいへんって、善人同士の喧嘩ってタチが悪いっていうのがありますよね。

個人の哲学みたいなモノがみんなありますので、人生観をかけて仕事している感じがあって、ある人の意見を否定すると「お前、俺の人生を否定するのか?」っていう感じになっちゃうんですよ。それで、議論が集約しない。

で、この運営の難しさってなんなんだろう?と思って、それで突き詰めてみて、最初は経営を変えるということが良いんじゃないかと思ったんですよ。

ところが、経営を変えるには結局は人、経営する人っていうところに行き着くじゃないですか? 

中小企業でも社長さんがシッカリしているとなんとかもつと。でも、中小企業診断士とかコンサルタントがいくらいいアドバイスをしても、社長がいいかげんでその気がなかったら会社も変わらないじゃないですか。

だから人材が大事なんですけど、良い経営者をNPOに入れていくにはどうすればよいかって考えてみると、実際、今の日本のNPOって若い人は良いんですよ。でも、30代、40代になると優秀な人はみんな辞めていくわけですよ。生活できなくなるんで。

その状況を変えなきゃイカンと。それには、やっぱり金だろうと。お金がちゃんと入ってこないと、いろんな悪循環が起こりますと。

活動がちっちゃくなりますし、ダイナミックな発想が出来ないとか、いい人がみんな逃げていってしまうとか、いろんな悪循環が起こるので、悪循環を好循環に変えるためには、資金というモノをNPOが取れるようになるという状況を作らなきゃいけない。

90年代の終わり頃からそんなことを考え始めて、NPOの資金調達をどうするのか、関心を持ち始めたんですよ。

ファンドレイジングというキーワードが自分自身の中に入ってきて、これをライフワークにすべきだと思ったのは、インドネシアにいたときに、バリでシンポジウムがあったんです。

これは、NPO、NGOの自立発展性を考えるという国際会議みたいなもので、200団体くらい、ベトナムからシンガポールから中南米まで、世界中から人が集まって話し合ったんですね。

その場で、あるベトナム系カナダ人がファンドレイジングについて語ったのが、私にとっては非常に印象に残ったんです。

当時のインドネシアというのは、スハルト政権というのが30年間、独裁政権が続いたんですね。98年に辞任するんですが、スハルト時代にはNPOとかNGOなんて禁止されてたんですが、それが、急に自由化になったんです。

それで何が起こったか? これが、凄いことが起こったんですね。

NPOが自由化になりましたというと、何千というNPOが雨後の竹の子のごとく立ち上がったんですよ。

それで、何故、そんなにたくさん出来るんだ?と。お金はどこから来るんだ?というと、国連とかアメリカのエージェンシーとか国際的な(資金の)ドナーが一斉に、インドネシアのNGOにお金を入れたんですよ。

当時、インドネシアの政府は汚職にまみれてましたので、NGOに直接、大量のお金が流れたんですね。

そこで、インドネシアでは、就職先がなかったらNGOを作ろうと。プロポーザルを一枚書いたら、百万、二百万のお金がアッという間に入ってくるわけですよ。もうバブル状態です。NGOバブルですね。

で、バリのセミナーは、そのような最中に行われたわけですけど、バリでやってますから200団体のうち50から60団体はインドネシアのNGOが参加していて、最初のオープニング・セッションで200団体が各テーブルに分かれて、自分たちは社会からどう見られているのか?というワークショップをやったんですよ。

そうしたら、インドネシア以外の国から来ているNGOのテーブルでは、たとえば、自分たちは行政が提供できないサービスを提供している団体だと思われていますとか、困ったときに頼りになると思われていますとか、社会を変革する団体だと思われてますとか、いろいろ言うわけですよ。

インドネシアのテーブルだけは、我々はトラブル・メーカーだと思われている、ノーアクション・トークオンリーだと思われているとか、ネガティブな発表をいっぱいしたわけですよ。

それは何故なのか?というのが、3日間のセミナーの最大の関心事になったわけですよ。

その時に、さっきのベトナム系カナダ人がみんなの前で言ったんですが、インドネシアのNGOを見ていると、国際的なドナーからすぐに金が取れてしまうので、自分の社会から、つまりインドネシアにも企業とか金持ちはいるわけですが、そこにコミュニケーションして支援をもらうということを一切やってないんですよ。

金を取れればいいじゃないかと。

でも、他の国のNGOは、自分の国でのコミュニケーションをある程度はやってるわけです。そういうことで、ベトナム系カナダ人が言ったのは、ファンドレイジングというのは、単に金が取れれば良いんじゃないんだと。これは、社会とコミュニケーションする手段なんだと

これは、海外にいる先進国のNGOにとってみると、途上国に良い援助をしてれば良いんじゃなくて、それについて自分の国に理解を深めてもらうためにファンドレイジングをやるんだと。

結果としてお金が集まるのであって、それはコミュニケーションの手段なんだと。だから、社会から乖離したNGOというはダメだという話をしたんです。

私、それを聞いていて、資金調達というのは単なるお金集めじゃないんだなということに気づかされたのが、2001年だったと思うんですが、そのバリのシンポジウムですね。

それで、ファンドレイジングというのは金集めが第一の目的じゃない。社会に何かを提案することで、社会の何かを変えたいというプロセスとしてのファンドレイジングというのは何なんだ?という思いで、その後アメリカに渡って、いろんなところで勉強したり、ファンドレイジングをやったり、いろんな人にあったり、いろんなNGOにいったり、NPOにいったりしているうちに、自分なりのファンドレイジング観を作っていったんです。

当時の日本のNGOって、オレたち良いことやってんだから、社会がついてこいみたいな雰囲気があったんですよ。良いことをやってるのに寄付とかくれないのは社会が悪いと。

みんな思ってましたね。日本社会って成熟してないよね、みたいな。

でも、バリのセミナーで全然違う発想を知って、その後、アメリカに行っていろんな団体を見ている中で、その発想がまったく違うんですよね。まったく逆の発想をしている。


GNN:それでアメリカの大学院でファンドレイジングの勉強をしたんですか?

正確に言うと、アメリカの大学院ではNPOマネージメントを勉強していました。

その中に、ファンドレイジングのコースもありますが、NPOの経営全体のマスター・コースみたいなのがありまして、それをアメリカで勉強していて、それとあわせて、ファンドレイジング・スクールというのがありまして、インディアナ大学に併設されている短期集中型の、ファンドレイザー養成講座みたいなのがあるんですね。

これは、修士課程ではありませんが、全米から、アメリカ以外からも来ますが、40代くらいの、一線でバリバリやってるファンドレイザーが集まって、一週間、泊まり込みでバリバリ特訓して帰るみたいな、そういう場ですね。そこのファンドレイジング・スクールに行きました。

そこで学んだコトというのは、基本形としてはファンドレイジングというものを、考え方としてどう考えるかということと、ノウハウ化して、寄付者の満足を最大化して、たとえば、今年は一万円寄付してくれた人を、来年は五万円寄付してくれるようにするにはどのようにすればいいかという作戦を考えていくという。あるいは、遺産寄付の取り方とか。そのようなテクニックのようなこともやります。


GNN:その中で、一番おもしろかった、印象に残ったカリキュラムは?

カリキュラムの中で、私、日本にいるときもいろんなNPOの資金調達のお手伝いをしてたんですけど、日本のNPOの資金調達って、今でもほとんどがそうなんですけど、ホップ・ステップ・ジャンプ・ファンドレイジングなんです。これ、私のネーミングなんですけど。(笑)

まず、寄付して欲しいと思うじゃないですか。寄付でも会費でも支援金でも何でも良いんですけど、欲しいと思う。そうするとですね、まずお願いの文章を作る。これこれ、こういうことをやろうとして困ってます。三百万円必要です。よろしくお願いしますとか、お願いの文章を作る。

で、今までコンタクトがある人とか支援者とか、ニュースレターを送ったりしてますから、そのような送り先を確認する。次は送る。という、ホップ・ステップ・ジャンプなんですね。

で、アメリカのファンドレイジング・スクールで最初に教えられたことは、寄付をお願いする前に、さっきのジャンプの部分ですね。

ジャンプする前に14ステップくらいあるんですよ

だから、お願いする段階で成功する確率が極限まで高まっているという状態でお願いするんですよ。その準備のステップで、何をどれだけやるかが勝敗を分ける。そういう考え方ですよね。これは非常に感銘を受けました。

今まで自分がやってきたことも、いかにいいパンフレットを作ってお願いを考えるか。後はパンフを送って、(寄付金が)来ないかな?来ないかな?来ないなあ、みたいな。そういうのがあったわけですよ。

それを、ファンドレイジングをお願いする前に、どれだけいろんな分析をし、いろんな人を巻き込み、計画作りをして、いろんなコトを積み重ねていく中で、最後にお願いという行為がありますと。順番が逆なんです。お願いしてから考えるんじゃなくて、お願いをする前が勝負だという、段取り観が私にとっては非常に新鮮でしたね。今でも、日本に帰ってきてからも、その考え方でやってます。


GNN:外務省もファンドレイジング・フォーラムなんてイベントをやったりして、ファンドレイジング情報を発信しようとしていますが、ああいうのはどうですか?

日本で外国のNGOとかの事例を紹介する場というのは、関心の高まりとともに出てきてるんですね。研修とかセミナーをやるというと、日本財団もファンドレイジング関係にお金を付けますし、外務省もお金を付けます。

ただ、ファンドレイジングに関しては、とどのつまりはお金が集まるかどうかなんですね。非常に分かりやすい話じゃないですか。投資ファンドが何十億、何百億集めるか決まっていて、何百億集まるかが勝負なのであって、いくらいいアドバイスを聞いてもお金が集まらないと意味がないんですね。

その意味では、事例の紹介、たとえばアメリカでこんなことをやってます、他の団体はこんなことをやってますという事例の紹介だと、私、これを3H情報といってるんですけど、ホ〜、ハ〜、ヘ〜状態なんです。

ホ〜、凄いね。ハ〜、なるほどね。ヘ〜、みたいな(笑)。

ホ〜ハ〜ヘ〜情報じゃダメで、大事なのは3N。なるほど、納得、何とかやってみよう、というのじゃないとダメなんですよ。

で、私が研修でこだわってるのは、事例はもちろん出しますが、一般化するということが大事なんですよ。ファンドレイジングの7つのステップといってるんですけど、実際に7つのステップを踏む中で、ここではこういう考え方でやると成功しているという事例を紹介すると、ウチでも出来るかなとなるんですけど、成功事例は成功事例で一般化しないと、たとえば、任天堂がWiiで成功しましたという事例だけ聞いても、それはたいへん結構なことですね、なんですけど、そこに、人のライフスタイルに着目した、こういうアプローチがあって、こういうことが出来ていたので出来ましたという、その部分が情報としてあると、あ、それは参考になりますねと。この作業が要りますよね。

つまり、何でそこまで至れたのか?ということが情報としてなかったら意味がないと思うんですね。残念ながら外務省の報告は、事例としてはいっぱい出てるんですけども、その一歩前の何故がないので、見えきれないところがある。

アメリカから、ファンドレイジングとかフィランソロピーの研究者を呼んで講演をやってもですね、参加された方は、アメリカはそうなんだ、凄いね〜と思うけども、アメリカは凄いねで終わってしまうので、そうではなくて、腑に落ちる、これならウチでも出来るよねということ、が大事ですよね。


GNN:アメリカのファンドレイジング・スクールでは、そのような考え方のノウハウのようなものをたくさん教えてくれるんですか?

アメリカのファンドレイジング・スクールでは、皆ファンドレイジングの経験がある人たちなので、お互いに事例、ノウハウを喋り合うという感じで、ただ、それを言える引き出しとして、基本的な考え方なり、そのステップなりを教えていくと、そういう感じの場なんですね。

具体的なノウハウということでいうと、もう一つの機能がありまして、アメリカの場合は、全米ファンドレイジング協会というのがあるんですね。私もそこの会員なんですけども、そこは二万人くらい会員がいて、全員がファンドレイザーですね。
「私はプロのファンドレイザーだ」と思ってる人が会員なんです。で、年次総会をやるんです。ホテルを借り切って、毎年三千人くらい集まるんですけど。

で、元々アメリカ人って社交的な人が多いじゃないですか。やたらホ〜とか言ってね(笑) それが、ファンドレイザーが三千人も集まると、メチャクチャ社交的なんですよ。気持ち悪いくらい。朝からやけにテンションが高くて。朝食とかもフリーで食べるんですけど、テーブルごとにあっちこっちでやたらアクティブ・リスニングの上手い連中がいるみたいな。そういう会があるんですよ。

で、そこで3日間、何をやるかというと、まさに最新のノウハウとして、私はこうしてこうやってきたという話をするんですね。でも、聞いていて、やっぱり突っ込んでくるのは、プロセスとしてどうやってそこに至ったのかとか、どういう形で企業とタイアップを作ったのかとか、そっちの方を皆、聞きますよね。そういう場がある。

実際に、成功しているファンドレイザー同士が集まると、ノウハウの共有が出来るんです

昨日もそうだったんですが、十五人くらいファンドレイザーが集まって、その中である団体さんが、書き損じハガキを集めるというだけで、四千万の資金を集めているんですよ。

凄い! 何でそんなことが出来るんだって思うじゃないですか?

書き損じハガキって郵便局に持って行くと45円分の切手に換えてくれるんですね。その切手を金券屋に持って行くと41円になるんですよ。つまり、ハガキ一枚40円の利益です。

つまり、40円で四千万円ということは、ハガキを百万枚集めてるんです。

ちっちゃいNGOなんですよ。どうやってるの?という話になるじゃないですか?そういうノウハウを会場で共有させたんですけど。そういう場を通じたノウハウの共有で、そこで、書き損じハガキで儲かりますよということだけ言ってもダメで、どういうプロセスで獲得していったかというノウハウの獲得まで行かないとダメなんですね。


GNN:アメリカのファンドレイザーはフルタイムで働いて食えてるんですか?

食えてますね。ファンドレイザーの給料は、事務局長より高い場合もありますからね。

GNN:ファンドレイザーの報酬のスタンダードはあるんですか?

全米全体でファンドレイザーの平均給与って八百万円くらいだと思いますけど、NPOの中では、事務局長や代表者の次がファンドレイザーですが、優秀なファンドレイザーはヘッドハンティングで、NPO同士で取り合いになるんです。優秀なファンドレイザーを入れると、仮にその人に二千万円払っても、確実にその十倍くらいお金が集まるので、引き抜き合戦になりますね。

市場規模としては、アメリカは個人寄付が二十二兆円で、日本は二千億円強ですから、そこには百倍くらいの差があるわけですね。その絶対学的な違いはあります。

だから私はファンドレイザーだと名乗っている人の数も多いですね。二万人いますから。日本で何人いるのかは分かりませんが、千人もいないかもしれません。分かりませんが。

GNN:そんなに?日本のファンドレイザーって鵜尾さん一人かと思ってましたけど。

(爆笑)。まあ、私ほどオタクにやってる人はいないかもしれませんが、自分の団体の資金調達を考えているという意味では、みなさん考えているでしょうけど。

ただ、ノウハウとして、しっかりファンドレイジングしている人って少ないです。

GNN:プロだと思う人は?

私が知ってる範囲で想定すると、ファンドレイザーとして一目おける人は、、、、、五十人くらいかな


GNN:社会起業家についてはどう思います?

あれはあれで、一つの重要な流れだと思うんですね。公益的な活動をするのは、何もNPOだけじゃなくて企業だってある程度、ビジネスモデルとして対価が取れる形でやるというのはアリじゃないですか。

たとえば、身寄りのない老人のために弁当を作って配るというサービスに対して五百円いただきますと。それで、ビジネスとして回りますと。立派な社会貢献なので、そういうのを社会的企業としてアリだと思いますね。

日本で寄付が集まりにくいということで、社会的企業に関心が行ってるのも事実で、新しいし、自立性があるし。事業系の収益モデルがNPOにとっても重要になるだろうというのは、考え方としては間違いじゃないんですよ。実際、NPO全体の平均収入の65%が事業収入ですから。

実際、私がファンドレイジングの研修をやるときも、事業収入をどう増やすかという研修もやります。寄付の取り方、会員の取り方、事業収入の増やし方、助成金の取り方、全部やりますので。NPOにとって必要な資源をどう取るかですね。

ただですね、寄付という領域に関しては、実はこれから五年くらいは、もの凄く成長する可能性があって、だから今のNPOからの依頼が多いのは寄付の話なんですよ。

今まで、寄付を一生懸命集めてきませんでしたと。でも、皆皮膚で感じ始めてるんですよ。世の中、変わりつつあるぞと。

それは何かというと、お金持ちが日本には増えていますと。一億円以上の純資産を持っている人が87万人いますと。なおかつ、高齢化社会で、年間16兆円とも言われる遺産を、子どもに残したいという人が69%くらい。それ以外に使っても良いと思っている人がドンドン増えていると。

すると、受け皿としてNPOが窓口を開けることで、今まで小銭チャリンという寄付だったのが、まとまって一千万とかいう寄付が出てくるわけですね。まさに欧米型なんです。そうすると、さっきの提案力のある団体が、ちゃんとお金が取れるようになる。そんなムードは出てきてます。


GNN:アメリカは寄付控除できますが日本はできない。この問題って大きいですか?

個々の団体の視点と、社会の視点を分けますと、まず個々の団体の視点で言うと、認定NPO法人という、税控除が受けられる団体認定を受けると、概ね三割くらい寄付収入は上がるんです。

ある程度まとまった寄付をしようとする人にとって、税控除があるなしというのが判断の基準になっているかというのがありますが、ただ実はですね、よくわからないのは、認定NPO法人の資格を持ってる団体が六十いくつしかありません。

それで、世間の目から見ると、認定NPO法人の資格を持ってる団体は、シッカリした団体なのねと、そう見えている。いわゆる、トップ60みたいな。

品質保証付きのように見えているから、寄付が増えているかもしれないんですね

つまり、税控除が寄付を促しているかというと、日本のサラリーマンはほとんど源泉徴収で、自分で申告しているワケじゃありませんので、そこがアメリカとは違います。アメリカは全部、自分で申告しますから。

そうすると、日本の場合、税控除してもいちいち自分で手続きするのもめんどくさいなというのもあって、寄付控除と実際の寄付行動に関連があるかというと、それほど無いかもしれませんね。

だから、たとえば、税制が完璧なモノになりましたと。それで、日本で寄付が劇的に増えるかというと、そこの因果関係は弱いと思います。

むしろ、NPOのお金の集め方の方が問題が多いと思います。そこを変えない限り、オレは良いことやってるんだからついてこい!!と言ってる限りは無理だし、そこはどっちにしても集まらない。

もう一つ大事なのは、一番上のカテゴリーは税制、つまり制度の議論ですね。で、NPOの議論があるじゃないですか。NPO自身のお金の集め方の能力。メッセージの出し方の能力ですね。

で、実は真ん中にもうひとつの領域があってですね、それがけっこう大きな問題なんですけども、それは何かというと、資金と情報を仲介する機能なんです。これが日本では、きわめて限定的ですね。これは非常に大きな問題だと思います

資金と情報の仲介は何かというと、寄付者にしてみれば、どこのNPOがいいのかよく分からんというときに、ウチが支援先、例えば教育支援したいと言ってもらえれば、教育の分野でイケてるところをちゃんと紹介しますよとか、そのような資金仲介ですね。

そういった機能があるかどうか。情報に関しては、どの団体が信用できるんですか? どの団体が良いんですか、悪いんですか? というのを、格付け評価する機能がないんですね。

欧米にはあります。アメリカだと、チャリティ・ナビゲーターで★いくつとか、団体に応じて、事業費にいくら支出していて、ファンドレイジングにいくらコストをかけているかとか、あなたが1ドル寄付すると、何セントが資金調達に使われていますよとか、全部の団体を分析して比較して載せているんですね。それですぐに分かっちゃう。

インターネットで株をやるときに検索して割安株を探すみたいな。そういった視点での分析が出来るわけです。

日本では、NPO広場とかNPOセンターさんが、公開されてる財務情報とかホームページとか、紹介するサイトはあるんです。でも、比較してないです。並べているだけなので、誰も品質保証をしてないんです。


GNN:寄付って行為は、感情的、情緒的な行為だと思うのですが、日本のNPOの場合、その感情を刺激するノウハウを持ってないのではないかなと?

持ってないですね。私は研修などでよく言うんですが、ファンドレイジングで成功するためには、右から入って左に落とさなければならないと言ってるんです。右脳系から入って左脳に落とす。

右脳は直感系の議論ですね。直感系の議論のキーワードは、可哀想とかビジュアル・イメージ的に入ってくるモノで勝負するか、あるいはストーリーですね。

人間は、物語に感じるので、ヒューマン・ストーリーを語るか、あるいは、もう一つのファンドレイジングの原則は、人は人に寄付するのであって、組織ではない。いかにヒューマンを介在させるかなんですね。

事務局長もヒューマンだし、受益者である、たとえば子どももヒューマンだし、何か人を感じさせる。これが、右脳系の勝負ですね。

左脳系の議論は、これは信頼性がキーワードなんですよ。

結局、この団体に寄付してもどぶに捨てるようなもの、スタッフの飯代に使われちゃうんじゃないの?って心配もあるじゃないですか? 

この団体は信頼されていて、みんなに支持されてますよという雰囲気をどこまで醸し出せるか。

だから、日本社会は長いものに巻かれろなので、大きい方、大きい方にいっちゃいますから、どうしても赤い羽根募金とか、NHK歳末助け合いに行っちゃいます。安心感があるから。

そこには勝てないけど、これだけ安心感がありますよというのは、これは左脳系の議論ですね。寄付のし易さというのもありますね。そこで勝負しないと、これは弱いですね。

GNN:アメリカで手術しなければ助からないような、難病の子どもを救おうという募金って、だいたい一億から一億五千万円くらい集めますよね。あれは、マス・メディアの力もあるでしょうが、まさにヒューマン、人がそこいて、顔がハッキリと見える募金ですよね。

そうですよね。あれが、中高年の人の募金だと集まらないんですよね。

私も以前、相談を受けたことがあるんですが、四十代の人で、ドイツに行かなければ直らないという病気の方で、キャンペーンを始めたんですが、まったく同じ手法で、同じ形でやってるんですけども、やっぱり三分の一も来ないですね。

やっぱり、子どもだ、可哀想だというところにストーンと入るというのはありますよね。


GNN:日本にはファンドレイジング協会ってのは無いんですね?

無いんですよ。これを私としては、別に私じゃなくても良いんですけども、日本にも三年以内くらいにそれに準じた組織を作りたくて、できれば年内に、私はファンドレイジングをやる人だと思っている、コミュニケーション能力のある、いわゆるイケてそうなメンバーを集めて、まず一回飲み会でもやろうと。

首都圏のメンバーで良いから。で、一回集めて、飲んでるウチに知り合い関係も出来て、ノウハウの共有も出来てくると、それをもう少しフォーマルな形にしていって、二年か三年すると一線級のファンドレイザーはココに集まっているという、そんな場が出来ないかなと。

昨日も飲み会があって、それで皆で盛り上がって。事務局やりますという女性がいて、頼んだ、お前に!!という雰囲気で。そんな話を今、しているところです。

(2007年11月9日インタビュー)


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