グッドニュースなインタビュー=町田洋次さん
来年から日本の社会は変わる 元長銀調査部、元ソフト化経済センター理事長にして、日本でいち早く社会起業家の可能性に着目し、普及活動を続けてきた町田先生に、日本と世界のトレンドを語っていただきました。社会起業家やCSRに関心のある人にはうれしいグッドニュースも連発です。 (GGN)社会起業家がブームのように思えますが? 今、社会起業家はブーム。特にこの夏は凄かったね。取材がいっぱい来ましたよ。テレビ、雑誌、新聞。四つか五つくらい。取材だけでなく指導というのかな。ここに行くとこういう人がいますとか。そういうことも含めていろいろ指導もしました。「経済セミナー」と「日経トレンディ」。「日経トレンディ」は僕も登場します。あと、「ニューズウィーク」。「宝島」は電子メール・インタビューだったね。まだまだあったけど忘れちゃった(笑)。 (GGN)メディア露出が一気に増えたように見える社会起業家ですが、先生から見て、ちゃんと伝わっていると思いますか? 思いません。テレビで良いのはね、アメリカの PBS。ここは熱心。ドキュメンタリーですよ、やっぱり。社会起業家を追っかけていって、それを物語風に作るだけですけど、TBSの「情熱大陸」と同じ手法ですね。「情熱大陸」はおもしろいと思う。しつこく人間を追いかけてね。あれと同じ手法。YouTubeでも見れますよ。 (GGN)社会起業家の話にはドラマがありますよね? そう。今、書店に並んでいる書籍で、 「マイクロソフトでは出会えなかった天職」という本がある。あれは感動的な本だよ。あれは、とっても有名なアメリカの社会起業家です。僕がおもしろいと思ったのは、彼はマイクロソフトで出世したんですよ。アジア地区のマーケティング・ディレクターとしてね。アジアの国って海賊版が多いでしょう? そんな国に、「Microsoft office」を売り込んだわけ。海賊版の10倍の値段がする正規版をね。モーレツなヤツだったわけ。それで出世したんだけど、アジアでその商売をやっているうちに、アジアの貧困に気づいてね、そっちの方がおもしろくなっちゃったわけ。それで、教育普及事業を始めたんですよ。 僕がおもしろいと思ったのは、彼はそういったことをアメリカ社会に発信するわけ。そうするとアメリカ社会はそこに引っかかるわけ。その反応がおもしろい。 アメリカにkivaというNPOがあって、これも素晴らしいんですよ。このビジネス・モデルが。これを、ITカンパニーが支援しているんですよ。PayPal、マイクロソフト、Google、Yahoo!、MySpace、You Tubeとか。だから、シリコン・バレー代表ですよ。 kivaというのを作ったのは、今三十歳くらいのヤツですけども。これがPayPalにいたんだ。PayPalって決済システムがあるらしいんだよね、eBayに。これがとても安全で先に行っているソフトウェアらしくって。このプログラムを作ったヤツなんだよ。凄い力があるんだよ、彼はね。それで、結婚した奥さんがアフリカオタクで、アフリカに年中行って支援してたわけ。それで彼も連れて行かれたんだよ。で、観察しているうちに、これはIT技術でビジネスモデルが出来ると分かってね。夫婦でプログラムを作ったわけ。自宅で。これはあっという間に出来たらしいです。で、シリコンバレーで見せたら、これは凄いというわけで、支援しようというわけで、まあ始めたわけです。 (GGN)アメリカやイギリスの社会起業家は非常に戦略的ですよね? これがアメリカの凄いところなんだけど、アメリカでねえ、アメリカ人でアフリカでやってるヤツがいるんだよ。マイクロファイナンスを。日本人ではいないよ。そんなの。アメリカ人がやってるんだ。アメリカ人のですね、世界制覇ですよ。で、アフリカで事業を興すでしょ? で、貧乏な人たちがちょっと豊かになるわけ。で、所得が増えるわけだ。そういうところを、アメリカの企業が狙うんです。シャンプーとか。だから先兵なんだよ。あれは、アメリカ人の。 (GGN)もともと日本人って、社会起業家的な人って多かったですよね? そうでしょうね。僕は、日本人の遺伝子には社会起業家的な要素はあると思ってるけども。ただ、ちょっと違うのは、一つは陰徳ね。社会貢献を陰徳でやらなければならいというのが、日本の伝統的な文化。でも、これは陰徳の反対じゃなければダメなんだよね。 それから、考えるのが小さいんですよ。陰徳だから小さいんですね。これは、できるだけ大きくやらないとダメなんです。その辺が違う。一度、陰徳で自分が住んでる地域のことだけ考えていればよいという習慣がつくと、反対は出来ないんだよ。それが大欠点。 大きく考えるためにはどうすればいいかと、毎日考えてるんだけど。遺伝子があるのが、かえってイケないかもしれない。 (GGN)日本には昔から「公益」という概念があって、日本にも今の社会起業家的な事業を成し遂げた人が多いですが? 僕はちょっと気にくわないのは、日本の場合は、やっぱり恩恵なんですよ。恵まれたモノから恵まれない者への施しなんですよ、基本的に。日本の地方にある大地主の家系には、そのようなフィーリングがあります。でね、日本は施しなの。シリコンバレーの金持ちは違うって言うの。施しは失礼だ。だから、10億円出して事業をやれって言ったときに、キミたちが一億円出せと。これが大原則なんです。自己負担の原則。 (GGN)逆だと思ってました。アメリカの方が施しの精神かなと。 アメリカにもそういうのがあったんだよ。フォードとかカーネギーとか、昔の産業の金持ちはこれ(施し)なんだよ。鉄鋼業を作ったカーネギーなんか、アメリカ中に図書館を作ったわけ。ありがたく思えなんて、(ふんぞりかっえって)彼はこんな感じで。 今のシリコンバレーは、それは嫌いであると。そこが一番の違い。要は、事業、ビジネスで貧困問題を解決すると。社会問題はビジネスで解決すべきだと。そう思うわけ。だから、プランを作るわけだよね。ビジネスプラン。これは、相当無理なプランなんですよ。もともと解決できないから税金で解決したり、金持ちの寄付で解決していたフィールドでしょ? それを、そうじゃなく事業で解決できると決めて、ビジネスプランを作るわけ。彼らはそういう、難問を前にしてビジネスプランを作るのが大好きなわけ。それで大金持ちになったんだから。 僕が凄いと思ってのは、彼らはまず全体のデザインをするわけでしょ? グランド・デザインを。それだけじゃ済まないから、今度は実行のためのデザインをやるわけ。実施計画。これは一気に出来ませんから、少しずつやりながら作っていくわけですね。このスピードが速いんですよ。で、作る課程で人が集まってくるわけです。一緒に考えて作りましょうとか。その結集力が凄いんだ。これがみんなボランティアなんだ。 ようするに、なんて言うかな。タマが良くないとダメなんだな。 (GGN)先生から見て、これは凄いという社会起業家は? 無い!! もうハッキリ言って無い。アメリカに比べると無い。 (GGN)オシャレっていうのがキーワードですね。 僕はもうね、(欧米の富裕層も)やることがないんだと思う、あいつら。グッチもエルメスも飽きた。何かおもしろいことないかしら?という状況があって、で、高等弁務官のオバサンのサイトに行くわけ。そういうのがカッコいいと思う若者が、日本でもずいぶん出てきた。 (GGN)ユヌスはどうですか? あれはもう、圧倒的に凄いよね。グラミンフォンも凄い。グラミンフォンを作った人の伝記があるけど、あれはおもしろいね。 (GGN)そもそも社会起業家という存在を知ったのはイギリスのシンクタンクの論文とのことですが、そこに辿り着いた経緯は? 僕は長銀の調査部というところにいてね。産業調査とか企業調査をやっていたのね。長銀という銀行が、今度はどこにお金を貸せばいいのか、投資すればいいのか、他の銀行が見つける前に、早く見つけてつばを付けちゃおうと。そういう仕事をやってたんですよ。でね、そのうち、見つからなくなったわけ。で、困っちゃってさ(笑)。で、ある時、ハッと気づいたのは、これは考える方向が過去の延長でやってるから、行き詰まっちゃって。で、これはアメリカ流ではダメだと。で、イギリスをだいぶ研究したことがあるんですよ。それで、見つかった。イギリスのシンクタンクのデモスの論文が。社会起業家のことが書いてあった。で、次の産業はこれだと僕は思ったの。だから、これは僕の新産業論なんですよ。新産業というのは、コンピュータとかコンビニとかスターバックスじゃないと。違う姿をしているぞ、というわけ。 (GGN)先生が社会起業家に出会った頃は、まだ理解できる人が少なかった? 98年頃だね。そうだね。それで僕は、イギリスの研究所とかいろんなところの、いくつかの論文を読んでね。勝手にこれはこういう現象だと決めつけて、知り合いの大学の先生などに話したら、みんな取り合わないんだよ。バカげた考え方だとかね。 (GGN)その先生方の専門は? 経済学、経営学、社会保障論、社会システム論。だから、一緒にやろうと思ってたんだけど、誰もやらないから僕が一人でやったんですよ。 (GGN)産業界の人にもアナウンスして? やりました。みんな、良いアイデアですとほめてくれました。でも、会社の中ではやりません(苦笑)。私個人は賛成ですってね。やりゃいいじゃないか、っていうと、やりませんって(苦笑)。(社内では)通りません、って。いま、そこはねえ、少し変わってきて、少し通るようになってきたかなと思う。 (GGN)マスコミの反応はどうだったんですか? マスコミだって同じ。 (GGN)そのような反応が、変わってきたなと思ったのはいつ頃? 2002年頃ですよ。 (GGN)理由は? ITバブルの崩壊だよね。ひとつの理由としては。あと、90年代に何をやってもダメで絶望が漂ったんですよ。 公共投資をすれば経済が良くなるとかさ、IT産業が大きくなると経済が良くなるとか、みんな期待していたのが全部バツバツになったわけね。さあ困った。どうしたらいいんだ? もう少し、創造に繋がる何かがないのかと探していたのがその頃。 (GGN)その頃の町田先生の活動とは? 研究会とか、ソフト化経済センターの中でメルマガ、社会起業家クラブというメルマガを出していたり、そんな程度ですけどね。 (GGN)研究会に参加していたのはどのような人? 僕が呼んできた連中。大学の先生とか企業のコンサルタントとか。2002年とか2003年頃って、僕はやたらにいろんな所に呼ばれて、ペチャクチャ喋りに行きまして、全国に行った。伝達ですよ。ほとんどが、それだ!って言ってくれましてね。でも、やんないんだ、自分ではね。 霞ヶ関はずいぶん話しました。自治体にもずいぶん話しました。 (GGN)ところで、日本の企業が利益最優先主義になったのは何故でしょう? 80年代頃までは日本の企業は、それほど利益優先主義ではなかったのに。 それは国際化ですよ。グローバル化。国際競争ですよ。日本の大企業の金って、ほとんど海外でしょ。ヨーロッパとアメリカの。 (GGN)ということは、いまさら国際化をやめるわけにはいかないから、どうしようもないと? だから、これはアメリカの大発明なんだけど、利益を上げるためにはどうすればいいか?でしょ? これは垢がつくほど研究されているわけ。みんな分かってるからみんなそのとおりやってるわけ。 そのひとつにね、社会との関係を、繋がりを付けると、利益が増えますという理屈を発明したんですよ。つまり、CSRを本業でやりなさいということです。これは今のトレンドで、去年ぐらいのアメリカの経営学のトレンドです。 (GGN)日本のメディアも経営者も、まだあまり注目してませんね? そりゃ、英語を読んでないからだよ(爆)。 でね、その論文の影響を受けるんです。アメリカの大企業の新しい利益の出し方の影響を受けるわけ。この論文の日本語訳がですね、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー日本語版に、いつ翻訳が載るかなんですよ。9月に載ると聞いていたんですが載らなかった。あれは隔月刊ですから今度は11月。11月に載ると思うけどね。そうすると読みやすいでしょう? で、パラダイム・シフトが起こるわけ。マイケル・ポーターとマーク・クラマーが書いた「Strategy & Society」という論文だ。 これを読むといろんなケースが出てきていて、こうなっているわけですから、理屈はこうですと。いろいろ書いてある。経営学的なアプローチでね。 まあ、言われてみると当たり前のことが書いてあるんだよ。トヨタ自動車が良い理由はハイブリッド車ですと。トヨタはハイブリッドで利益を出しているわけではないけども、あれを出したおかげで社会的な存在になったわけね。それで、トヨタのブランドが上がって、トヨタの車が売れてるというわけ。 だから、ウソでも良いから、社会との関係はこうなんです、我が社は。ということをね、マーケティングでやるといいんだよ。 (GGN)「Strategy & Society」が日本語訳されて日本の企業社会にも影響を与えたら、日本の社会起業家も大企業の力を活用しやすくなるんでしょうか? 日本にも、社会起業家をやりたいという人が増えてきたんだよね。これからも増えるでしょう。で、ちょっと支援が足りないんですよ。一つは金。銀行は金を貸してくれないからね。それから、いろんな専門家がありますよ。マーケティングの専門家とか。財務の専門家とか。資金調達の専門家とかね。無い無いづくしなんですよ。で、どこから手に入れるかということね。で、一番可能性があるのは企業です。企業が心を変えて手をさしのべるのが一番近いと思ってるわけ。 こういうことを、僕なんかが言ってもあんまり影響力がないけど、マイケル・ポーターが言うとさ、神様が言ってるようなものだから(笑)。 だから、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビューに論文が載った翌月から変わるわけ。 来年くらいからね、僕は変わると思う。大企業のスタンスが。 (GGN)日本でも社会起業家が大活躍する時代ですね? 今年の春ぐらいから思ってるのは、日本からユヌスみたいなヤツが出てこないかな、出るなと思ってるんですよ。ノーベル平和賞を取るようなヤツがね。まだ分かんないけどね。出るといいよね。 (2007年10月18日インタビュー) 社会起業家を目指す人は必見!! |