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論 点 「本当の食育とは何か」 2007年版
朝ご飯に、たこやきを!?子供の心を壊した犯人は添加物と料理しない親だ
[食育についての基礎知識] >>>

あべ・つかさ
安部 司 (食品ジャーナリスト)
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「味噌汁は臭いから飲めない」と言う子供
 拙著『食品の裏側』(東洋経済新報社)がおかげさまで六〇万部のベストセラーになっているからかもしれませんが、近頃、添加物について興味を持つ人が増えたような気がしてなりません。私の講演会にも、以前にも増して、多くの人がお越しになります。
 講演会後の質問を聞いていると、みなさんの関心事がよくわかります。
「日頃買う食品に○○という添加物が入っていますが、大丈夫でしょうか?」
「××という添加物は危ないと聞いたのですが、本当でしょうか?」
 それに対して、私は多くの場合、こう答えます。
「国は、添加物一つひとつの毒性の検査はしています。しかしそれは、ネズミなどを使った実験結果ですし、数種類を一度にとった場合の『複合摂取』については、よくわかっていません。だから、安全とも言えるし、安全でないとも言える。毒性に関しては、まだよくわかってないのです」
 ところが最近は、「子供の食事」に関する質問が多くなりました。とくにPTAや幼稚園、小学校などで話すときは、いつも決まって次のような質問が出ます。
「子供がご飯をきちんと食べてくれないんですが……」
「お菓子ばかりを食べて困っています」
 そう嘆かれるお母さんが、本当に多くいます。
 子供がまともな食事をとらないのですから、心配な気持ちはわかります。なかには、「味噌汁は臭いから飲めない」と言う子供もいるようですから、事態は想像以上に深刻です。
 そういう事情もあって、子供の食事についての世間の関心は高く、「食育」に関する本もたくさん出版されていますし、「食育」についての講演会やシンポジウムも、よく開かれています。
 そこで必ず言われるのが「栄養バランス」についてです。
「主食、主菜、副菜など、バランスよく」
「食塩、脂肪は控えめに」
 そういうスタンスのもと、食事のバランスガイドのようなものを作って、食生活の見直し・改善を訴える人が多い。
 しかし私は、どうしても少し首をかしげてしまいます。
 たしかに、栄養バランスも大切です。だけど、先ほどのお母さんの話などを聞いていると、どうも事態は、それ以前のレベルのような気がしてならないのです。講演会で子供たちに、「今日の朝ご飯は何だった?」と聞いてみると、
「たこやきと炭酸ジュース」
「カップ焼きそばの、水を捨てなかったもの」
 と、平気で答える子供が、本当にいます。そこまでいかなくても、何にでもマヨネーズをかけて食べる子供、お母さんのおにぎりより、コンビニのおにぎりのほうが「おいしい」と言う子供の話も耳にします。
 栄養バランスどころか、きちんとした食事をしていない。子供の食がいま、完全に壊れつつあるのです。


子供の「舌」と「食卓」を壊す添加物の怖さ
 ではいったい、何が子供たちの食を壊しているのか。
 その一つの原因は、やはり添加物です。
 小さい頃から、添加物のたっぷり入った食品ばかりを食べていると、その味が基準になってしまい、素材本来の味がわからなくなってしまいます。コンビニのおにぎりが「おいしい」と言う子供(そういう子供はたいてい「お母さんのおにぎりは味がない」と言います)は、「化学調味料」や「グリシン」などの添加物の味に慣れてしまっているため、塩だけで味付けした手作りおにぎりでは物足りなく感じてしまうのです。
 そこに、添加物の怖さがあります。毒性の問題もありますが、そうやって「舌」や「味覚」を壊してしまう力が添加物にある。
 だけどそれより怖いのは、添加物によって「食卓」が壊れていくことです。
 最近の食卓には、「加工食品」や「持ち帰り惣菜」が平気で並びます。「夕食はすべて冷凍食品」という極端な家庭は少なくても、「スーパーでお惣菜を買ってきて、ご飯だけ炊く」「おかずを全部作るのは面倒だから、惣菜屋で数品買ってくる」という家庭は少なくないのではないでしょうか。
 こういった加工食品やお惣菜にも、添加物はもちろん使われています。みなさんが「体に悪い」と思っている「インスタントラーメン」と同じくらいの添加物が、「ほうれん草のおひたし」や「ポテトサラダ」にも、きちんと使われています(そうしないと、日持ちがしないからです)。
 私が問題にしたいのは、そういった加工食品やお惣菜が食卓の中心になることによって、添加物の摂取云々以前に、家庭の中から母親が料理をする姿が消えたり、子供が「食べ物はこんなに簡単に手に入るんだ」と思ってしまうということです。
 もちろん、毎日すべてを手作り、というのは大変です。だから、たまには加工食品や持ち帰り惣菜が並ぶ日があってもいい。
 だけどそれが主流になると、子供は母親が料理をする姿を見ることがなくなってしまいます。「いま自分の口に入れるポテトサラダは、食べるのは五分でも、お母さんが二時間かけて作ってくれた」という気持ちを持てなくなる。
 誰がどう作ったのかわからない食べ物には、子供は愛着を持てません。有り難味も感じられない。だから、平気で食べ残せる。お母さんも「残してもいいよ。また買ってくればいいから」と捨ててしまえる
 それでは、食べ物や食事を大切にする気持ちが、子供の中で育つはずがないのです。


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personal data

あべ・つかさ
安部 司

1951年福岡県生まれ。山口大学文理学部化学科卒。食品添加物の専門商社セールスマンとして好成績をあげるが、廃棄されるしかない屑肉を添加物によって甦らせたミートボールが、わが子の大好物であることを知って衝撃を受ける。その後退社して、身近な食品に含まれる添加物の実態を広く知らせる活動を開始、著書『食品の裏側』がベストセラーになる。自然海塩「最進の塩」研究技術部長。



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